第62話 バイバイ
夜の帷が下り切った。村全体を真っ暗な闇が満たしている。
昼間から降り続けている雨は、今だに止む気配を見せず、分厚い暗雲が空を覆い尽くしているせいで、天で輝いているはずの綺羅星や、太陽の次に巨大な月星を確認することができない。
借りている宿の一室。
カーテンが開かれている窓。
そこから暗い外界の状態を見ていた寝巻き姿の僕は、ふと明日の出発の準備を完了している、部屋の隅に置かれている己のリュックへと視線を向けた。
雨水でびっしょりだったそれは、数時間の放置乾燥のおかげで、まあまあ乾いている。
壁付けのハンガーラックに掛けてある、友人の傘として利用したコートはいまだに湿っているが、明日の朝には乾いていそうだし、問題はないだろう。
鏡面剣は今日のこともあったし、ベッドの横、すぐに取り出せる場所に立て掛けている……。
明日には一週間も寝泊まりを続けていたこの部屋ともお別れなわけなのだが、僕は少しの寂しさと、イカ魔族と対峙してから、いや、もっと前から、胸の中にある『あるもの』をジクジクと脈動させて、もう夜が更けてくる時間だというのに、しみじみと感じ入ってしまっていた。
その『あるもの』というのが僕の思考を邪魔するせいで、瞼がパッチリと開いたまま閉じることができず、〇時が過ぎてしまっているにも関わらず、全く寝付けなかったのだ。
「……」
明日、訪れてしまう、友との別れ。それの寂さを感じてしまっているのは、嘘偽りない事実。
しかし、そんな寂しさより、僕の胸の内で日に日に存在感を増してきている〝あるもの〟が、僕は気が気でなくなってしまっていた。
あるもの。
その正体は、破裂してしまいそうなくらい胸の内側で膨れ上がった『不安』という感情だ。
この不安は、僕がこの村に着いてから心に小さく生まれ出たものであり、それが一週間という日々を越してもなお、衰え消えることなく、今でもその存在感を増し放っていた。
イカ魔族は『人を喰らい、その人に化ける』。
それは正直、誇張創作だと僕は思っている。
だって、恐らく帰り際の御者を襲ったのだろう奴は『御者に化けてはいなかった』のだから。 もしかしたら、荷物を放り捨てて逃げ出したのかもしれないけれど、馬車に乗って帰っていた訳だし、荷物だけを捨てて逃げるなんて、とても考えられない。
だから、イカ魔族が人に化けたというのは単に『人型』を誇張した話なのだろう。
人に似た動きをしていたとか、そういう感じだろう。
だって、人に化けたところで所詮中身は魔族だ。人語は喋れないだろうし、仮に喰った人に化けれても、その人の癖や行動と言動の『真似』は出来っこないだろう。
だから、イカ魔族が人に化けるなんて考えられない。
だけど、もし、イカ魔族が都合よく喰らった人の『記憶を知る』ことができたのなら。
あるいは。
そんな空想じみたことを真剣に考えていた僕は、あり得ないよなと思考を打ち切ってしまう。
明日は朝の八時に出発だ。
村を出たら徒歩で『オルカストラ』との国境を仕切る関所に向かわなくちゃいけない。
もうすぐ午前一時になってしまうし、夜更かしすると、明日の徒歩移動の悪影響になってしまうから、もうそろそろ寝なきゃいけないな。
大丈夫。この胸の内の不安は『杞憂』のはずだ。僕の気のせいのはずなんだ。
そう自己暗示してしまった僕は、明日の行動の『結果』に絶望する。
明日、僕は未来永劫『後悔』することになる……
* * *
日の出と共に目を覚ました。ベットから上半身を起こし、身体を捻って時計を確認する。
現在の時刻は午前六時半。
まさかな、と。深夜にドキドキしていた僕は、自分が馬鹿みたいな寝坊をしなかったことを認め、ほっと胸を撫で下ろす。
ニア君が見送ってくれるんだ。何時間も寝坊した挙句待たせたなんて最低が過ぎる。
ベットから立ち上がる。
寝巻きを脱ぎ、それを畳んでバックに押し込み、いつもの私服に着替えを済ませた。
一晩で乾いてくれたコートの匂いを嗅ぎ、大丈夫だなと確認。
袖を通し、ベッドの横に立てかけていた鏡面剣を腰に差す。
そして部屋から出て洗面所で顔を洗い、用意されていた今日で最後になる『独特の隠し味のする料理たち』を腹いっぱいまで平らげた。
それから一度部屋に戻り、支度を終えていたリュックを背負い、一週間も世話になった宿から出る去り際に、僕に『恐怖の視線』を向けてくる宿屋の女将と、その娘に別れの挨拶を送る。
「今まで、お世話になりました!」
相変わらずの無言無表情。最後の最後まで淡白を貫徹してのけた彼女らに、僕は盛大に顔を引き攣らせながら、軽く会釈をしたのち、カランカランという音を鳴らし、開けた扉から出た。
「スゥー……ハァー——……」
外に出て、鳥のように腕を広げる。そして深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
村に来た時から感じていた、風通しが悪いって感じの空気は今も変わっていない。
最初は嫌な空気だなって気分が落ちていた、
けど、八日もそこに身を置いてしまうと、悪い意味で慣れてしまった。
苦笑しながら、待ち合わせをしている、村を囲っている柵の出入り口へ歩いていく。
時刻はまだ七時が過ぎだ頃だから、昨日僕が言っていた時間よりも一時間近く早い。
まあ、最後に村を見て歩きたいし、早く出入り口に着いても昨日言っていた通り、友が来るのを待つだけだしな。
そう思った僕は、最後に村を見て歩くために、建物を縫うように歩いていく。そして、それから三十分ほどが経った頃、僕の視界の先には、目的地の村の出入り口が見えてきていた。
「……あ! ソラ兄ちゃん!」
村の出入り口。その横にある柱に暗い顔をしながら背を預けていたニア君は、手を振りながら近づいて来る僕に気づいた途端、顔をパアッと晴れさせて、大振りで僕に手を振りかえした。
「ごめんね、待たせちゃった?」
待たせてしまったなら申し訳ない。僕はそんな風に眉尻を下げながら語りかける。
「ううん。全然だよ」
僕の問いに、ニアくんは微笑しながら顔を横に振った。
「そっか。それなら良かったよ」
「ふふっ。……あ、えっと朝御飯は何を食べたの?」
「えっとね——」
それからしばらくは二人して笑顔のまま、まるでお互いに寂しさを紛らわしているかのように、別れを惜しむ感情を胸の内に隠しながら、僕達は軽い会話に花を咲かせた。
チュンチュンという鳥の囀りを耳に入れ、夏の終わりを感じさせる朝の日差しを肌でジリジリと感じながら、僕達の時間は別れを惜しむ心情とは裏腹に、あっさりと過ぎ去っていく。
別れの言葉を言いづらい雰囲気は場にはあったものの、このままじゃいけないと思ってしまった僕の方から、何とか暗い顔をしないようにと我慢していた友に別れの挨拶を切り出した。
「ニアくん。僕は、そろそろ行くよ」
「……歌の国に行くんでしょ?」
「うん」
「……そっか」
魔族を探していた時とは違う、しかしそれと似た影を纏ってしまっている小さな友を正面から見た僕は、割れる寸前の風船くらい膨らんでしまっていた不安という感情が、胸の内で『パンッ』と弾けたような感覚を覚えた。
濁流のように僕の全身に広がったそれを、僕は抑えることができず、つい、ニア君に向けて本音を、本心を、思っている本当の言葉を、吐いてしまう。
「ニアくんも……一緒に来る……?」
無意識に僕の胸の内から吐き出てきた言葉に、口に出してしまった僕と、それを聞かされたニアくんは共に驚愕した。
バッと口を抑えた僕は、無言で俯いてしまったニアくんを見る。
もし彼が「うん」と僕の誘い言葉を承諾したら、僕は彼を旅に連れて行ってしまうという確信があった。
やってしまったのか。
そう思い、額に汗を掻いてしまう。
が、もう、どうにでもなれと、グッと腹に力を入れて覚悟を決めた。
そして俯きながら黙って考えている友の返事を待つ。数分して、顔を上げた友の目には悲しみと寂しさが込められており、それを見た僕は彼の答えを察した。
「ううん……いい。ありがとう、ソラ兄ちゃん」
そう言って、小さき友人は泣き笑いにも見える笑顔を、その顔に浮かべた。
対し、僕も寂しさを感じさせてしまうような笑顔を向けながら、別れの言葉を口に出そうとして——グッと眉に力を入れた友に先に言われてしまう。
「——っ! バイバイ! ソラ兄ちゃん!」
「……うん。バイバイ、ニアくん」
「今度は遊びに来てね!」
「うん! 絶対にまた来るからね!」
村を歩き出て、外界の土に足で触れた僕へ向け、手を振る友は、目から透明な涙を流していた。
それを見た僕は何とか笑顔を作り出して、小さき手を大きく振る友に手を振り返す。
僕は、これが友人との最初で最後の別れだとは露知らず、別れを、別れを。終えてしまったのだった。
+ + +
ソラと別れて小一時間ほどが経った頃、ニアは村長に呼ばれて、彼の家へと向かっていた。
村の『皆んな』の目が、ソラ兄ちゃんがいなくなってから、確実に変わった。
その、なんともいえない視線を向けられているニアは、内心で怖気付きながらも、それを感じさせないよう、胆力でまっすぐ前を向いて歩いていく。
ニアはどうしようもない不安を胸の内に抱えながら、村長宅の扉を叩いた。
すると、前とは違ってすぐに扉が開いた。
そこから、心底冷え切った目をしているメイドが現れる。
メイドは「入れ」とだけ言って、ニアを逃さないように背後に回った。
そしてまっすぐに縦横に広い廊下を歩いて行き、自分で居間へと続く、重い扉を押し開けた。
居間の中央に置かれている玉座のような椅子には、赤黒い髪と無精髭を生やした村長が座っており、彼はニアを見た途端、その顔に恐ろしいと感じてしまうほどの凄惨な笑みを浮かべた。
彼は玉座から勢いよく立ち上がり、ニアを歓迎するように両手を広げる。
「おぉ、よく『一人』で来てくれたな、ニア。この時をどれだけ待ち侘びたことか……。やっと居なくなってくれたようで、我等は心底安心しているんだよ」
やたらめったら仰々しく。
まるで劇をする俳優か何かのような仕草をする村長に、ニアは疑問を投げかける。
「何が居なくなったの?」
「化け物に決まっているだろう?」
「化け物って?」
ニアの問いかけに、村長は意味不明な返答を行う。化け物とはなんだ。あのイカ魔族のことか。その他に何がいる、敢えて分からないふりをするニアに、村長は顎をガキガキと蠢かせる。
「ギゲゲ。本当は気付いているのだろう? お前は勘がいいからなぁ」
「ソラ兄ちゃんのことを言っているの?」
「当たり前だろう? よくもまあ、あんな化け物を何日も村に縫い止めおってからに。心底肝が冷えたぞ」
不気味に笑う村長の輪郭がグニャリと歪む。
スライムのように形状が定まっていないないような変形。
ニアはしかし驚くことなく、そのイカ魔族にそっくりな形態になる変身を見届けた。
変形し、完全にイカ魔族そのものになってしまった村長ら。囲まれて絶体絶命。
ニアは汗を流し、一歩だけ後ろに下がった。
すると居間の扉が突然に開き、そこからニアの両親が入ってきた。否。自分の父と母のような者は、こんな絶望的な状況にも関わらず、不気味なほど安心しきったような笑顔をしていた。
「ボクの『パパとママ』はどこ?」
『いるだろう、そこになぁ』
「いないよ」
『ギゲゲゲゲ! お前だけ仲間外れだなぁ。お前の『代わり』はコイツだったんだがなぁ。運悪く殺られてしまったからなぁ……ギゲゲ!』
村長だったものが指差すのは、ソラが頭部を撃ち抜いて殺害した、イカ魔族の死骸だった。
仲間が即殺されたというのに、周りにいるイカ魔族たちは特段気にした素振りを見せない。
もしかしなくても、自分がこいつのようにならなくてよかった。そう思っているのだろう。
ギゲゲ。引き攣ったような、偏に変わった笑い方をしている村長だったものは、仲間の死体を指差し終わった後、真面目な声音を『仲間達』に聞かせた。
『あんな化け物とは、もう会いたくないからなぁ、ここはもう捨てる。ニア、最期に何か言うことはあるかぁ?』
イカの顔をしている村長だったものから身の毛もよだつ、この上ない加虐に満ちた笑みを向けられたニアは、だが、それでも恐れることなく、悲しげな表情で口を開いた。
「ボクの、パパとママは?」
『そんな者、もう死んどるよ?』
それは合図だった。ニアの父親擬態していた魔族は、背に隠し持っていた鉄斧を上げ、諦めたように硬直してしまっているニアの頭部に向け、それを一思いに振り下ろした。ドスっという鈍い音が室内に響き渡り、斧の刃が割って入ったニアの頭部から鮮血の大輪が床に咲き誇る。
『死体は喰って処理しろ。早く逃げなければ危ないからなぁ。あの化け物は絶対に帰ってくるからなァア……』
魔族達はニアの死体を平らげて、最低限の荷を持って村から去っていく。
魔族が去った村には『誰一人』も居ない。
これは昼前のこと。
汗を散らしているソラが村に走って戻ってきたのは、それから数時間後の『夕方』であった。
+ + +
足が重い。まるで鉄のオモリを足につけているみたいだ。
ゆっくりと小さな歩幅で関所の方へと歩き続けていた僕は、ズキズキという痛みを訴えてきている胸を手で押さえながら、前のめりになった状態で立ち止まった。
朝から、村を出てから、破裂したはずの不安がさらに存在感を増してきている。
その痛みだけに留まらず、ザワザワとした嫌な胸騒ぎも一向に止まらない。その胸騒ぎのせいなのかは分からないけれど、呼吸が思ったようにできなくて、異常な量の発汗を催していた。
僕は堪らず膝をつき、ゆっくりと息を吸って、吐いた。それを何度か繰り返した後、コートを雑に脱ぎ捨てて、張り付くような不快感を感じさせる全身の汗を、乾いた布で拭い去った。
「はあ、はあ、はあ……」
歩き疲れなど肉体は全く感じていない。精神も同じくだ。
にも関わらず、僕は疲労困憊のように息を切らし、痛みを発する心臓を押さえている。
不意に、ヒュウっと風が吹いた。
それには『神』の意思など感じられなかった。
犬型の幼魔獣の時や、魔窟の時に感じた『神』の意思はそれにはない。
神は、僕が『前』へ進むことに頷いている。
なのに、言っている。なのに、伝えてきている。戻れ戻れ戻れ、と。
僕はなぜ、風に急かされているのか。僕はなぜ、風に唆されているのか。意味が分からない。
何を求められているんだ、僕は。これは天啓はじゃない。他の『何か』の意思が導いている。
わけが分からない。それ故に頭を乱暴に掻きむしった僕は、ふと空を見上げた。
太陽は真上から少しズレたところに存在している。
僕の正確無比な体内時計的に、今の時刻は午後の十五時が過ぎたくらい。出発したのは八時過ぎだったから、ここに来るまでにざっと八時間は歩いたことになる。
すれ違う馬車の数が目に見えて多くなってきているから、この近くに目的の関所があるのは間違いない。
しかし、やっと目的地に到着すると言うのに、なんだこの、止まらない胸騒ぎは。
なんなんだ。この息苦しさは……。
「はあ、はあ、はあ」
息を切らしたようなその音は、最初『疲労からくる息遣い』だと思っていた。
しかし、それが本当は『恐怖に震える息遣い』だと気付いたその瞬間には——
僕は来た道を走り出していた。
「ニアくんっっっ!?」
弾けたように駆け出した僕は、無意識にその身に宿る『風の加護』の力を利用した。
全力で走る体は風の抵抗を受けない。
逆に追い風まで加わったそれは、尋常ではない速度を発揮する。
地を駆ける単馬よりも速いだろう、人間を超えた疾走。
それを以て、僕は数時間掛けて進んできた道を、ものの数十分で戻り切る。
視界の先に見えた今朝に友と別れた場所が。
僕は、今朝から何も変わっていない柵の柱を見て、ホッと安堵した。
そして徐々に走る速さを落として、ゆっくりと村全体を視界に収めていく。
「はあ、はあ、はあ……」
安堵の笑みを浮かべながら、盛大に息を切らしている僕が見たもの。
それは、人間の気配というのが完全に断たれてしまっている、誰も居ない廃村のようになってしまっている、無人の村であった。
僕は顎が外れんばかりに愕然と口を開け、首を勢いよく動かした村の中の見回す。
「あ…………ぇ? あっ——は? ……ニア、くん……?」
僕は無我夢中で村を走り回り「誰か!?」と大声を上げながら、村に置いて行ってしまった、小さき友を探した。
「はあ、はあ、はあっ。ニアくん!? どこに居るの!? 返事をしてくれ!? 隠れないでよ——っ!?」
僕は律儀に鍵がかけられている家の扉を、ガンッと力尽くで破壊しながらこじ開けていく。
たったの数時間で無人となってしまった家屋の中。僕はそれを認め、目尻に涙を浮かべた。
家の扉をこじ開けるたびに、呼吸が荒くなる。
無人の家屋の中を踏み荒らすたびに、視界が歪んでいく。
はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。
僕は最後に残されていた『村長宅』の扉に手を掛ける。
その扉には態とらしく鍵が掛けられていなかった。扉を開けて家に入った僕は、目尻から涙を流しながら、やけに長く感じる廊下を歩き、居間に続く扉を押し開いた。
「————————」
僕の歪む視界に映されたのは、誰も座っていない玉座と、その下の床に広がっている赤い染み。そして赤い染みの上に置かれていたのは——
断たれた『猫の尾』と血に濡れた真っ赤な鉄斧だった。
それを見た瞬間、僕の頭の中からガラスが割れるような甲高い音が鳴った。
視界が真っ赤に歪んだ。
外れてしまいそうになる程に大きく開かれた口の端から膨大な涎を垂らしてしまった。
嫌だ嫌だと首を横に振る僕の視界には非情な現実が映し出されている。
嘘だ嘘だと寝言のように呟く僕の口から、酸っぱいものが一気に吐き出される。
食道を焼かれた嫌な臭い嗅ぐ僕の鼻は、床に広がる赤い染みから、ここで失われた小さき命の香りを感じ取ってしまった。
「あえ……? ……あ? はっ!? うぁ…………?」
何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ
壊れる、壊れる。心が壊れる。
視界が赤く捻り切れて暗転、頭が引き裂かれてしまいそうになるほどの大きすぎる耳鳴りが執拗に響き続け、ソラの心を保っていたか細い糸は、信じたくない絶望を突きつけてくる現実に耐え切れず『プチンッ』という音を鳴らして千切れてしまった。
「う、うぁ……うぁ——うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアっっっ!?」
悪意に満ちる魔族が嘲笑うかのように残した絶望は、一人の男を発狂させる。
小さき一人の友の死は、ソラの心を壊してしまった——




