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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『ハザマの国』編〈3〉
66/139

第58話 ニア

加筆して再投稿

 トウキ君と別れた僕は、真夜中まで一人歩き続けて、サクラビの北側にまで移動した。

 立ち寄ったのは安宿。そこには空室が一つあって、僕はとりあえず宿泊すると決めた。 

 借りた部屋は、今までのように広い相部屋——ではなく、窮屈とした一人部屋である。

 ハザマの国に来てから、僕は初めて『一人ぼっち』になってしまったような気がする。

 この国に来てから今まで、同性で歳も近しいトウキ君やルルド君と寝食を共にしていたから、なんと言うか、とうとう『一人』になってしまったなって、漠然とした寂しさを感じてしまう。

 僕が端た金で借りた部屋は一人部屋なのだから、当然のように狭いんだけど、周りに誰もいないせいで、誰の声も聞こえてこないせいで、どこまでも広い空間のような気がしてならない。

 誰かと話をしたいって気持ちになったから、このまま眠らずに外を散歩しようかとも思った。

 

 けど、我慢した。


 お世辞にもフカフカとは言えない枕で頭を包み込み、見知らぬ天井から視線を切る。

 寝たまま横を向いた僕は、暗い夜の闇に満ちている部屋の隅を、穴が開くほど見つめても何も無いという結果は変わらないそこを、ただじっと、何をするでもなく見つめてみた。

 部屋の中で無言が響いている。

 そこに一人、ぽつんと横たわっている僕は、まるで僕だけが世界から切り離されてしまったような、僕だけ置いて行かれたような、偏に、なんとも言い表せない不安。それに襲われた。

 故郷を発った時にも、エリオラさん達と別れた時にも、うっすらと胸の内に広がっていた孤独感が、いろんな人たちとの『出会いと別れ』を繰り返すたびに、大きく膨らんでいっている。

 いや『膨らんでいっている』というのは間違いだな。

 この孤独感は『母さんが帰ってこなくなった日』に、僕の心の中で生まれたものだ。

 寂しくて寂しくて寂しくて。だから必死に蓋をして、心の奥底に押さえ込んだ気持ちだ。それが、度重なる出会いと別れを経て、僕が用意した蓋をこじ開けて顔を覗かせているのだろう。


「…………」


 僕は部屋の隅に溜まっている黒から視線を切り、再び何も無い、見知らぬ天井を見上げた。

 ふと染みを数えてみる。一、二、三、四。ええい、止めだ。止め止め。キリがないっての。

 

「すぅー……はぁー」


 息を吸って、吐く。胸の内に蟠っている孤独感。それを変わらずに働いている肺と心臓の力でグッと抑えながら、僕は目を瞑って眠りに落ちた。そして、特に何事もなく、夜が明けた。

 日が登り切る前の早朝に目を覚まし、宿で刻が過ぎるのを待つことなく、走って町の大北門から町を出て、門の外——壁外で『客待ちの準備』をしていた馬車群の内の一台に話し掛けた。


「北の関所までお願いできますか?」


「お? 早いねー、お客さん。関所から少し遠いんだが、その山村までならいいよ」


「ここから、どれくらいかかりますかね?」


「あ〜、その山村までなら、ざっと『二十日』くらいだね」


 二十日か。相場的に、運賃は四、五はかかるだろうな。まあ、ハザマの国から貰い受けた金一封のおかげで、しばらくは路銀の心配はない。そういうわけだし、ここはパァーっといこう。


「じゃあ、その『山村』までお願いします」


「はいよ、二十日で四千ルーレンね。他の客が来るまで待っててくれな」  


「分かりました」


 ふっ。二十日でたったの四千ルーレンか——って、全っ然余裕じゃないぞ。めちゃくちゃ大ダメージだ。どこかの大物みたいに余裕振ろうかと思ったけど、普通に手痛い出費じゃないか。

 だがしかし、僕がこのまま母さん探しの旅を続けるっていうのなら、こういう出費は母さんが見つかるまでの間、つまり、理論上『半永久的』に払っていかねばならないのだ。

 誰も見ていないところで『うんうん』と勝手に納得し、御者に四千ルーレンを支払う。

 誰も居ない広めな荷台に座った僕は、御者の言う通りに僕以外の客が馬車に乗るのを待つ。

 それから三時間ほどが経ち、僕の他に四人の乗客と、魔獣対策の護衛冒険者を二人を乗せ、馬車はサクラビから出発した。

 僕が目指すのは北にある、歌の国『オルカストラ』との国境線を守る『関所』だ。


   

 ガタガタと馬車は揺れ動き。着々と北の山村へと向かって進んでいく。

 僕達のことを乗せている馬車が走っている農道の左右には、米作をしている田んぼが一面に広がっていて、その田んぼを耕すための馬鍬を引いている、珍しい黒毛牛と何度もすれ違った。

 重いだろう荷車と、抵抗が辛そうな大型の鍬を、モーモー文句を言いながら引いている牛達を、ただボーッと見ていた僕は、この国は馬車より牛車の方が多いんじゃないかなと思ったり。

 そんな感じで、特に何するでもなく景色を眺めていた僕は、視線を馬車の荷台へと移した。

 僕以外の乗客は、ただの客として乗車した男性冒険者が一人と、その男性冒険者とは無関係そうな、武装した女性冒険者が二人。それに浮浪者っぽい男性が一人と、馬車の御者台と荷台の最後尾に乗っているのが護衛として雇われた冒険者の男女——僕と御者を含めて計七人だ。

 彼等彼女等はしかし誰一人として一言も喋ることなく、ただただ時間だけが過ぎていった。

 途中で馬を一度休ませつつ、それから三時間ほど馬車を走らせていると、僕の視界の先には新緑の山に囲まれているこの国では珍しい『大平原』が広がっていた。

 

「お客さん方! あの平原の真ん中には彼の『火巫女の伝説』に出てくる『火巫女の墓標』が建っているんだぜ?」


「えっ——火巫女!? こ、ここにですか!?」 


「おうとも!」


『火巫女の伝説』

 火神の巫女である『日の国』の姫君が、その身に授けられた火神の力を使って、空に開いた穴を閉ざしにいくという物語。しかし、火神をその身に宿した姫君の力を持ってしても、空に開いた穴を閉ざすことができず、空の穴に飲み込まれた姫君は、その短い生涯を閉ざした——。

 加護のことを知った今にこの昔話を思い出してみると、火神の巫女である日国の姫君は、話を推測するに『火の加護』を持っていたということなのだろう。そんな火神の力を持った彼女であっても『穴』を閉ざすことが出来なかったと考えると、その『空の穴』の異常さが窺える。

 

「可哀想にな。若いっていう話なのに、死んじまってさ」


 そう眉尻を下げて言う御者に、僕は話しかける。

 

「ここに『火巫女の墓標』が建っているってことは、ちょうど僕達がいる真上の空に『穴が開いていた』ってことになるんですかね?」


「そうなんじゃねえかなぁ? 今見ても空に穴なんか無いけどな」

  

 ここが、幼少の頃から読んでいた絵本のオリジン。間違いなく、伝説の地、だ。

 僕はそう感慨深く思いながら、ふと無言で空を見上げてみる。

 ちょうど僕達の真上にあるこの空に、穴、が開いていたのか。

 僕は妙な不安を感じさせてくれる『天』を見つめながら、落ち着いている風を肌で感じだ。



「よっと」

 

 そんなこんなで僕は二十日間というとても長い移動を続け、ハザマの国の北部、その山間にある、彼のオルカストラトの関所を近くにした、妙に静まり返っている山村に足を踏み入れた。

 なんでも、ここは御者のおじさんの故郷らしい。久々に村の人たちに顔を出したかったから、関所の最寄りにある村ではなく、ここを終着地点にしたそうだ。

 悪いな兄ちゃん、ここを目的地にしたのは私用だったんだ。そう謝罪を述べた御者のおじさんは、なんと僕が支払った運賃の一部を返金してくれた。

 いや、別に構わないんだが。僕に損はないし。

 そう思った僕は手渡された千ルーレンを押し返しながら、気にしないでくださいと彼に言う。

 しかし、そんな僕を見た彼は、


「いやいや! 兄ちゃんみたいな善人から、そんな金は受け取れねえ! 俺のためを思って、それはもらっといてくれよ」と、熱く説得してきた。


 御者の熱意に押し負けた僕は、こんなに得しちゃっていいのかなぁと思いながら、渋々わかりましたと言って、返金分を受け取った。もし機会があれば食事でも奢ろうかなと思いながら。


「…………んん?」 


 立地は山と山との間。山間。そこに流れているはずの澄んだ空気を感じ取るように深呼吸をした僕は、謎に村に漂っている『濁り澱んだ空気』に気が付き、怪訝に思う表情で首を傾げた。

 山村なのに、空気が悪い。

 もしかして、風通しが悪いのかな、ここ。そう疑問に思っていると、僕をここまで連れてくてくれた御者のおじさんが、宿まで案内するよと声を大にして言ってきた。

 そんな彼に感謝を伝えながら、僕は手を振る彼のもとまで走って向かった。

 

「俺の実家には妹夫婦が暮らしているから、俺は帰郷しても宿に泊まんなきゃいけねえんだよなぁ。なんか損な話だよなぁ」


 という愚痴を僕に零していた彼がする話を聞くに、関所は『徒歩半日の距離』にあるらしい。

 その話を聞いた僕は、今日ここで一泊してから、節約がてら、徒歩で関所へ向かうと決めた。


 ずーっとくっちゃべっていた——何言ってたか思い出せない——御者のおじさんに案内された宿は、宿にしては随分と外観が小ぢんまりしていた。内装は小さな外観通りで部屋数がめちゃくちゃ少なく、僕と御者が借りた部屋を含めて、その宿屋には貸し部屋が三つしかなかった。

 もし他の客が居たら野宿だったなぁ。

 そう思い、僕は宿に泊まれたことに安心して胸を撫で下ろした。

 のだが。

 この宿屋で特筆すべき問題点。それは、宿屋の女将とその娘さんだった。

 彼女らは、僕がカウンターで宿泊料を支払った時や、手渡された部屋の鍵を受け取った時に、キィッと、半端じゃない目力で僕のことを睨んできたのだ。

 そのせいで、今でも心臓がドクドクと暴れている。

 二人の目の奥には妙な『怯え』のような感情があったし、もしかしたらここは、余所者に対して当たりがキツい、もしくは人見知りをする村なのかもしれない。そう、失礼ながら思った。


 あ。もしかして僕が腰に差していた『鏡面剣』に怯えていたのだろうか? 


 これは立派な『武器』であるし、それに怯えていたなら納得だ。いやでも、村唯一だと言うこの宿屋には『冒険者』がよく泊まりに来るんじゃないのだろうか? そんな彼等彼女等は例外なく武装していると思うし、だから一々『武器に怯える』必要は無い気がするんだけどなぁ。

 もしかして、あれか? なんか辛い過去がある的な……。

 それなら、彼女達を脅かさないように隠し気味に持ち歩かないといけなそうだ。

 真実はよく分かんないけど、彼女達を怯えさせてしまっているのなら、原因であろう僕の方が気をつけなくちゃいけないよな。まあ、それも今日までの話。明日にはこの村を出るからな。

 そんなことを考えながら、僕は彼女達を怯えさせぬように『鏡面剣』を部屋に置いて、村を散策するために部屋から出る。武装を解いて『安全だよ!』と、露骨にアピールする僕は、


「行ってきます!」と和かに笑いながら言った。


 そんな僕を、床を雑巾掛けをしていた女将達は相変わらずな目力を睨んできて、その目の奥には怯えの感情を覗かせていた。無言の時が流れるフロントで冷や汗を流していた僕は「それじゃあ」と言って、そそくさと宿を出る。女将達は結局、僕の言葉に返事をしてくれなかった。


 + + +


 空が茜色に染まる時間帯に宿を出て、妙に空気が澱んでいる村を散策し始めた僕は、できる限り他者を怯えさせないように肩を窄めて、少しも声を発さないようにしていた。

 なぜ、僕が『目立たないように行動』しているのか。それには理由があった。

 僕なりの目立たないようにしている行動は、逆に周りから浮いて悪目立ちをしてしまっているわけなのだが、そんな状況でも、僕が挙動不審に怪しい行動をしている理由は、僕とすれ違う村人全員が、僕が近くを歩いて通るたびに首を『グルン』と回転させて、一様にキィッと半端じゃない目力で睨んでくるからだった。しかも皆、同じように目の奥に怯えを滲ませていた。

 

 一体、僕が何をしたんですか!? 許してくれーっ!

 

 そう叫び出したくらい、周囲の反応というのが怖い。別に悪いことをしているわけじゃないのに、これが話に聞く『村八分』というやつなのか。と、非常に的外れな考えを巡らせていた僕は、村の端っこにあった小高い丘の上まで歩いて行き、妙な静かさがある村全体を見渡した。

 山間にある村は全体的に小さく、僕と御者以外に、他所から来た人間はいなかった。

 というか、御者のおじさんはここで生まれ育ったわけだし、ならば実質的な余所者は僕だけ。


 村人達の『僕を見る反応』を考えるに、この村には他所から来る人が他の村よりも極端に少ないのではないだろうか? 


 故郷ではない、真に他所である村にこう言ってしまうのは悪いけど、山間という村の立地の影響で閉塞的になりすぎているが故に、他の人間に対するコミュニケーション能力が十全に身につけられていないというか、拙いというか、慣れていないというか……なんというか、うん。

 この村の人達は『人に慣れていない』って言った方が正しいような気がする。

 何故かはわからないけど、身内以外の人間——つまり僕のような人間に対して、怯えの感情を目の奥で見せていた理由の『答え』というのは、それなのではないだろうか?


「んん……?」


 でも、僕をここまで連れてきてくれた御者のおじさんは、僕と普通に会話ができていたよな。 彼はこの村特有の『空気感』のことは何も言っていなかったし……どういうことだ?

 そりゃあおじさんはサクラビで人運びの仕事をしていたわけだし、会話は接客には慣れているだろうけど、こういう排他的とも取れる村なら、気をつけてって一言くらいは欲しかったな。


「…………帰るか」


 僕はひとしきり村を見渡した後、丘から駆け降りて宿泊する宿屋へと向かった。

 その道中、村の真ん中あたりを歩いていると、背後から子供のような高い声で、


「ね、ねえ……お兄ちゃん」

 

 と、声を掛けられた。予想だにしていなかったまさかの声掛け。

 僕はビクッと肩を跳ねさせ、緊張した面持ちで、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 

「えっと、あの……」


 僕の背後には猫の耳と尾を生やしている、黒髪黒目で目鼻立ちの整った……少女? がいた。

 美少女と言えるくらいに容姿が整っている彼女は、何か言いたげな様子をしていた。

 しかし言いづらいことなのか、口の開閉を無意味に繰り返している。

 下目遣いで声を出そうとしている彼女に対し、僕は真っ直ぐに目を合わせながら待った。 

 して、彼女が意を決したように目をグッと閉じて、不思議そうに首を傾げている僕に言った。


「ボクが住んでるこの村が、悪い『魔族』に乗っ取られちゃうかもしれないんだ」


「……………………え?」


「ぼ、ボクは、ニア。えっと、お兄ちゃんは……?」

 

 これまた予想だにしていなかった、あまりにも衝撃的すぎる『冗談』。

 悪い魔族に村が乗っ取られるとはこれいかに。

 しばらく外を歩いていたけど、どこにも魔族なんていなかったぞ。

 そんなふうに僕が硬直していると、ニアと名乗った少女は僕の名前を問うてきた。

 突然のことに頭を白くしてしまっていた僕は、その問いかけになんとか深呼吸を行い、頭の中に充満していた、真っ白い深い霧を鼻から吐き出す。そして、求められた通りに名乗った。


「えっと、僕はソラ。ソラ・ヒュウル。ニア、ちゃん——だよね? 魔族に村が乗っ取られるって一体どういうことなのかな?」


「え、ぼ、ボク『男』だよ? えっと、村の近くで魔族を見たんだ!」


「え……?」


 女の子にしか見えなかったニアくんが男の子だと聞いて、三度目の衝撃を受けていた僕は、

 

「ど、どういうこと?」と、村の近くで魔族を見たという言葉の詳細を聞いた。

 

 かなり緊張しているのか、額に汗を滲ませながら、挙動不審に視線をキョロキョロさせているニア君が言うには、村の近くで見た魔族は、童話に出てくる『人を食べて人に化ける』という特性を持った魔族にそっくりだったらしい。なんでも、その姿はイカ人間といえるのだとか。

 

 人を食べて、人に化ける『イカ魔族』が出てくる童話ってなんだ? 

 気にはなりつつも、真剣な目で話していた彼に、なぜ今日来たばかりの余所者である僕にそんなことを話したのか。そう疑問に思っていたことを問う。

 すると、村人達には何度も説明したのに、その度に鼻で笑われて、誰も信じてくれなかったんだと言った。誰も信じてくれず、誰も力になってくれない。そんな絶望的な状況に立たされていると、真剣な眼差しでニアくんから告げられた僕は、う、うーんと悩まし気に腕を組んだ。

 

 正直な話、人を食べて、人に化ける魔族がこの世にいるなんて、俄には信じられない。

 人を捕食するというのは在り来りだが、化けるというと話が変わってくる。

 僕が今まで戦ってきた、殺してきた『魔獣』なんかは、野生的な本能や仲間を殺された時の復讐心というのはあった。しかしそこまで『知能』が高かったようには思えない。

 それこそ、普通の『野生動物』と同じだった言える。

 エリオラさん達が言っていた、魔人、という魔族のことはよく分からないけれど、魔人は人間と遜色がない、見分けがつかないってリップさんが言っていたから、ニア君が言う『人型のイカ魔族』は、魔人とは違うってことで合っているように思う。

 そもそも、そのイカ魔族が人間に化けて、一体どうするというのか。

 仮に人間に化けて出ても


『ウガア!』


 って襲い掛かってくれば、一発で偽物だと分かってしまうだろう。外側だけ取り繕っても、結局『中身は魔族』じゃないか。童話に出てくる魔族って言っていたし、誇張創作された『架空の魔族』っていう可能性が高いのではないだろうか?


 という僕の考えを読み取ってしまったのか、ニア君は諦めたような暗い顔で俯いてしまった。

 そんな絶望したような影を纏う幼き獣人の少年を見た僕は、眉尻を下げて、その肩を叩いた。

 

「その、イカ魔族を僕に探してほしいってことだよね?」


「う、うん……!」 


 希望の光を見出したかのように、ばっと顔を上げたニア君を正面から見た僕は、二十日ほど前に別れた、最高にかっこいい『友人』のことを思い出していた。

 あの友は、たとえ自分の目的から逸れようとも、人助けというのをすると思う。

 僕は、トウキ君のような『カッコいい人間』になりたい。

 そう思っているのなら、ああなりたいのなら、もう動くしかないじゃないか。


「全然弱っちいけど、全力で頑張ってみるよ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 僕は曇り空のような顔をしていたニアくんの、晴れ切った笑みを見て、心の底から嬉しくなった。これが、僕とニアくんとの『出会い』だった。

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