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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『ハザマの国』編〈2〉
61/138

第55話 トウキVSカラス

 戦いの初手。両者は一様に腰に差している武器を使用しない、所謂『ステゴロ』を選択する。


「イヒャヒャ!」


「チッッッ!!」


 素手であるにも関わらず、どんな名槍よりも格段に『強い』と思わせる、狂人の貫手。

 咄嗟の回避行動をも超えてのけたそれを受けて、トウキは左の頬に深い裂傷を負った。

 しかし、それで怯まずに撃ち放たれた拳撃が、構えられたカラスの防御を上から打つ。

 ドゴンッ。重鈍な槌で大木を打ったような、人の身から鳴ったとは到底思えないそれ。

 しかし誰一人として、その音に違和感を訴えない。

 まるで鳴ること自体が『当然』であると分かっているように。

 常識が通じないその戦いを一言で表すならば、埒外、という言葉がピッタリだった。

 連打に次ぐ、連打。一秒で数十を超える応酬を両者はやってのけている。

 徒手空拳。まともに食らえば何人であろうと大ダメージは免れ得ない、絶級拳蹴嵐。

 

 ドンッ!

 

 途切れることを知らない破壊と防御の音。

 それは一旦置き、注目するべきはその耐久力だろう。

 両者ともに、唯我独尊、不動を冠した巌すら砕いてしまうだろう怪力を発揮しているにも関わらず、何人も一歩も引くことをしない。

 肉体の耐久力は何物より目を引く、まさに戦車級だ。

 人外拳速。人外拳力。

 常識が通じない『戦闘能力』を有しているのは、白の鬼人と黒の狂人。

 それらが織りなすハーモニーは世にも恐ろしく。

 僕は真っ暗な孤独の世界の底でそれを聞き、僕では手も足も出せない領域にあるまさに『死闘』に対して、無意識ながらに拳を握り締めた。

 終わらない終わらない終わらない。そう思えば、すぐだった。

 打撃に重きを置いた一幕が、数分経過の末、下りる。そしてすぐに第二の幕が上がった。

 次の演目。それは、この世のものとは思えない怪力が打つかり合う、剣戟の一演だった。


「カァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 シャッと一様に鯉口を切る。その手に握られ振られたるは、二振りの和刀。

 片や雷のような黄色をし、片や血に濡れたような赤黒色をする。

 所持している武器の性能は五分。打ち合いでどちらかが耐用限界に達する雰囲気はなかった。

 白鬼と黒烏。瞬きほどの一瞬の閃き。

 それは見事に噛み合い、重なり合い、凄まじい金属音、それと火花を辺りに散らした。

 両者互角の剣戟。一歩も引かぬ接戦。

 業物の二刀が打ち合うたびに地面が微震する。空気が爆発する。

 その死闘の余波は、百数メートル先で気絶しているソラの居場所にまで届く。

 異次元。まさに別次元。この『怪物ども』の大衝突は。

 それを受け止めざるを得ない地面は大きなクレーターを形成。爆音と共に土煙を散開する。

 して、百数度の硝子が割れたような鮮烈な快音が響き渡れば、二人はほぼ同時に地を蹴った。


 ザザザザザ——ッ


 ほぼ互角の駆け。分があるのは『あっち』側。しかし圧倒的な差はなく駆け合いは成立する。

 速さに関して一歩先を行っているカラスは、くるんっと前を向いていた身を反転。猛速で肉薄してきていたトウキと向かい合った。そして——一種の膠着を突破したのは、カラスだった。


「【飛剣】」


 血に漬けたような色をしている赤黒い和刀。それが怪しい紫光を帯びる。トウキがその状態を視認した時にはすでに、その一撃、いや『二撃』の用意は完了していた。 


「【黒翼——二連】!!」


 飛ぶ斬撃。斬撃を飛ばずという超シンプルな魔法。カラスの必殺にして、絶殺の秘奥。

 対人戦における飛び道具を、ほんの数瞬の溜めだけで発揮できてしまう脅威は超弩級。

 一秒。たった一秒。それだけで完遂される必殺は計り知れないアドバンテージを産む。 

 トウキはカラスが撃ち放った『飛剣』に対し、しかし顔色を変えることなく立ち向かう。

 こちらも一秒。たったの一秒。それしきの溜めだけで、刀身に『雷』の暴威が纏われた。


「【雷衝】!!」


 トウキ、自身の魔法に物理的攻撃を合わせる。刀身に纏われた雷は黄金に輝き、その威力を確と斬撃を飛ばしたカラスの目に焼き付けた。瞬間、衝突。

 飛ばされた黒の斬撃二連。それに合わせてトウキは魔法を纏った刀を振るう。すれば、目を覆いたくなる閃光が散った。轟音と明滅。その規模は両者の実力を表し、この上なく甚だしい。


「ヒヒッ」


「……」


 引き笑いを披露する狂人に、超威力の『飛剣』を相殺してのけたトウキは視線を鋭くする。

 無言で刀にまとわりついていた蒸気を払う。そして無言ながらトウキは思った。

 彼奴の魔力量は自身とほぼ同等。質に関しても同等。だからこそ分かる。

 あの飛剣をこの戦いで枯らすことは不可能だと。

 燃費はあちらが上。飛び道具が『飛剣』ならば尚更にパフォーマンスに優れている。威力で言えばこちらに分がある。しかし雷砲も雷撃も、予備動作に入った瞬間に回避行動に移られる。軌道を途中で変えることができないそれらで、脚で勝っている彼奴に当てるのは現実味がない。

 ひとえに、面倒臭え。トウキはそう内心で溢す。


「おい」


 だからだろう。飛び道具での合戦は分が悪い。脚で一歩先に行かれているから、その勝負を強引に行われれば、こちらの負けも十二分にあり得てしまう。そうだから、トウキは冷静に彼奴へと話しかけれた。して、カラスは突然の会話要求に片の眉尻を吊り上げる。なんだ? と。


「お前、攫った子供たちをどこへやった」


「アァ? そんなこと聞いてどうすんだよ? ヒヒッ」


 案の定、カラスはまともに取り合わない。聞いてどうする。聞いても意味がないだろ。なんせ、ここにはもう子供らはいないんだから。とっくに子供たちは売り払ってしまったのだから。


「まともに話もできねえのか。鳥頭なんだな」


 トウキは侮蔑を吐く。煽り。激昂を煽る言葉。しかし、カラスは平然と肩を竦める。


「その程度の煽りで取り乱すと思ったカァ? 残念だが、俺にそれは通じねえ」


「分かってるさ。そんなこと。いいから質問に答えろよ。攫った子供たちをどこへやった」


 元より欲していたのは『情報』である。居なくなった子供たちの行方である。それを探った結果、カラスが冷静さを失っても、それはそれでいいが、しかしそれはサブプランでしかない。

 トウキが真に探っているのは『関係』だ。燃えるような憎しみの対象、魔神教の関係事実だ。


「ヒヒッ、死に際になら教えてやるよ。冥土の土産にな」


 真の目的は語られない。だが勘で、ただの人間離れしている第六感で『自分と繋がっている奴ら』のことをトウキは知りたがっていると、カラスは気づく。だから、煽る。煽り倒す。

 

「……一つ聞く」 


「アァ?」


 空気が変わった。如実に、確かに。カラスはそれに気づき、再び眉尻を吊り上げる。


「魔神教とお前は関係しているか?」


 この無駄としか思えない会話の核心。それによって確信を得た。トウキは邪教に強い、身を焦がすほどの恨みがある人間だ。それにはっきりとカラスは気づいた。だから、そこを突こうと思った。どうすればよりストレスを掛けられるか。それだけにカラスは脳のリソースを割く。


「イヒヒヒヒッ。なるほどナァ、そうかそうかァ。イヒッ、イヒヒヒヒッ!」


「聞いていることを話せよ、クソ野郎。人の言葉まで忘れたのか、鳥頭」


「イヒャヒャッ。ああ、そうだなァ。関係あるかもしれねえナァ!」


 誤算。カラスの誤算。一言で、測れていなかった。トウキがうちに宿している瞋恚を。その炎の熱を。規模を。カラスは、確かに、致命的に、測ることができていなかった。瞬間、爆発。


「————ッ!!」


 怒髪天。トウキ、踏み込みで山を砕く。

 無遠慮に踏み出された右足が大地に突き刺さり、山そのものを崩壊させる。

 瓦解、崩壊、土崩。地鳴り、地響き。圧倒的、暴。

 数百メートル先にソラがいるにも関わらず、トウキはその人外の『暴力』を実行した。

 カラスはその踏み込みに、しかし牙を剥く。

 一ミリも取り乱さない狂っている精神性。そこだけは賞賛に値した。 

 戦いは人対人であるにも関わらず、巨人の暴威に見舞われたかのように声なく崩れゆく大地。

 そんな『天変地異』と言って然るべき、まともに立つことすらままならない状況の中で、トウキが行った肉薄に対抗するように、カラスも同じく全力の肉薄を選択した。 

 刀を逆手に持ったカラスは、獣のような超前傾姿勢でトウキへと接近し、両の脚を斬断する一撃を繰り出した。それを軽い跳躍だけで回避したトウキは——ピタリとその時を止める。

 その光景はさも、真っ赤になっていた脳味噌に冷水をかけられたようだ。

 トウキは灼熱の劫火を、その怒りを今は忘れ、今に自分に降り掛かっている状況に注視した。

 回避されることは踏んでいた。どう回避するのかも予測していた。それ故の一手。地面に顎先が触れてしまいそうな超前傾姿勢から顔を上げたカラスの頬が、不自然に『膨らんでいる』。

 それが、トウキが時を止めた理由だった。何をしようとしている? そうなっている訳は?

 答えるものはいない。答えはもう既に、目の前にあるのだから。

 

「ブブウッ——!!」


 吐血。それを言い表すなら、まさに吐血だった。

 自分の舌先を自ら噛み切ったカラスは、口内にいっぱいの自己血を含む。十分に溜まった、魔力的な読みが通じないそれを、跳躍のまま宙に浮いているトウキの顔面へと噴きかけた。

 絶対不可避。完璧なタイミング。

 誰の目から見ても、白鬼の目は潰された。潰された、はずだった。

 はずだったのに、現実、トウキは一瞬たりとも、微々とも目を閉じることがなかった。 


「あめえッ!」


「ズゥッ!?」


 宙返り。そのまま回転切り。血を真っ向から浴びたにも関わらず、目を一度も閉じなかったトウキは、空中を泳いでいる身体を無理やり回転させて、技アリの一撃を見舞った。地を這っていたカラスはそれで肩を浅く切り裂かれる。プシッと、浅手を負った肩から、鮮血が散った。


「汚ねえ技だな」


 おかげで冷静になれた。言って顔を拭うトウキを、浅手を負ったカラスは苛立たしげに見る。

 目潰しが効かない。その事実を前に、カラスは『次手』なるを見直すことにした。

 この悪賊は搦手を多用する。

 今のように血、唾や歯石、それに歯を飛ばすなど様々。持ちえる異能も手の内の一つ。

 自身の異能と、今みたいな予備動作なしの目潰し。

 異能は怪力で、目潰しは超人的な胆力で無効化された。どれも効かない。それが事実。

 

(クソッタレ。目潰しは効かねえ。蛇は……この戦い中に回復しない。さてどうするか)

 

 カラスは自身の十八番が通じない、故に封じざるを得ないことを認め、しかし不敵に笑った。

 どうするか。どう攻め落とすか。まるで巨大な城壁を崩さんとしている一人の兵士のようだ。

 カラスが脳内でいくつかのシミュレーションを行うも、だが明確な答えは導き出せなかった。

 それほどの強敵。面倒臭いヤツと相対したものだ。カラスはそんな言葉を口の中で転がした。

 そして——カラスは手札にある大部分の搦手を捨てることを決めた。

 浅手を追った肩の止血は済んだ。手を肩から離したカラスは、掌に付着している自己血を舐め取り、だらりと前倒しの姿勢を取る。その姿はまるで、冥府から這い出てきた幽鬼のようで。

 

「ハァ——」


 一気に脚の体積を倍になる。獣流のクラウチングスタート。技術的な知識の全てが我流であるカラスの全力の用意。鼻腔に入り込んだ血液を噴き出したトウキは、それを見て構えをとる。 


「来いよ」


 カラスは自身を狩る獣と化した。その事実を前にしても、怖じけない。命の奪い合いであるにも関わらず、誰一人として緊張しない。トウキは己の龍刀を肩に構え、グッと腰を落とした。

 

「カァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 狂声が上がった。爆速の疾駆。先ほど一つの山を崩落させるに至ったトウキの踏み込みにも並ぶそれ。速度で上回っているカラスが、膂力で上を行っているトウキに対して打てる最善手。

 

「シィッ!!」


 硝子が割れたような、甲高い音が鳴り響く。甚だしい速度がプラスされたそれを、真っ向から弾き返してみせたトウキは、獣のようなボディコントロールを披露する彼奴に、目を窄める。

 刀を振るう。すると、カラスはダンスを踊るように逆さ回転。刀の柄を足で押さえ、無理やりに振り抜きを遮る。カラスの化け物じみた身体操作能力に、トウキは今更ながら舌を巻いた。

 称賛はしない。ただ無言で。気合いを吐きながら、延々と撃ち合い続ける。

 無限。永遠。永劫。ずっと続くのではないかと思わせる、真に伯仲の剣戟。

 トウキとカラスはまさに、互角の勝負を繰り広げた。

 

「カァアアアア!!」


 大上段。脛に蹴りを喰らわせて、脚の動きを一瞬封じてみせたカラスは、ここぞとばかりに全身全霊の一撃を遂行した。回避行動に移れない。トウキはその事実に片眉をピクっと動かし、致し方なく刀を横に構えた。そして、刀同士が衝突する寸前に、トウキ、アクションを起こす。

 刀同士が衝突する寸前に『脱力』し、カラスの一撃を『刀を手放す』ことで受け流した。

 まさかのカウンター。度重なる剣戟により、いつの間に自分の頭に血が昇っていたと、カラスはその光景を前にして一瞬で理解した。だが、時すでに遅し。理解してからじゃ、遅いのだ。


(獲った)


 そして。防御に回ったトウキの刀を折る可能性すらあった大上段斬りが、完璧すぎる策略により滑らされ、致命的なまでにカラスの脇腹が『ガラ空き』になる。

 見逃さねえよ。

 トウキは刀を手放した唸る左拳を、打ってくださいと言っている右脇腹へと凄烈に叩き込む。 すれば、ボゴォッ、と。

 凄まじい重低音が辺りに響き渡り、カラスは目をカッと見開いて眼球を真っ赤に血走らせた。


「グウゥッッッ!?」


(チッ。肋に罅は入ったが、ひょろっとしたガタイのくせに、かなり硬えな)


 右肋骨の十〜十二番がイった。 

 重すぎる一撃。もらってはいけなかった痛打。勝敗に関わる一欠片。

 あまりの激痛に堪らず呻き声を上げてしまったカラスは、顔を青筋でいっぱいにしながらも、なんとか二打目を避けるため、全力でバッと飛び退く。しかし、トウキがそれを見逃すわけもなく、刀を持ったまま前傾姿勢で駆け出して、間合いを出ようとしているカラスを追従した。


「フゥッ!」


 カラスの目前まで迫ったトウキは、ミシミシと奇怪な音を立てる、筋張る左手を引き、限界まで溜めた斬撃を繰り出した。眼前に迫り来る、どんな怪物をも一刀両断に伏せる一撃に対し、目をカッと開いたカラスは、刀を持っている右手を筋張らせ、トウキの一撃を真正面から——

 

「カァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 弾き防いだ。


「「ッ——!!」」

 

 絶大すぎた剣撃の威力を両者は殺しきれず、手に持っていた二刀が宙を舞う。くるくると回転しながら空高く飛んでいく武器を誰も目で追わない。見向きもしない。なぜならば、武器を失ってもなお『戦闘は続く』と理解していた両者は、即座に徒手空拳で戦闘を再開したからだ。


「カアアアアアアアアアアッ!」


「——ッ!」 


 全てを貫く気迫を纏う、顔面を狙ってきたカラスの右貫手を、トウキは掠りながら回避する。

 左の頬と同様に、右頬にも深い裂傷を負う。鮮血をぴっと辺りに散らしたトウキは、しかしそれも歯牙にかけず、もう一発、カウンターとばかりに右拳をカラスの胸骨へと向けて放った。


「ヒャハァッ!」


「ヅッ!?」


 拳の軌道を読み切ったカラスは、身体をトウキの拳に合わせ、右足を軸に回転。その回転の勢いを利用し、引き戻した右肘でトウキの顎を強打した。顎に痛烈な一撃をもらったトウキの目は光を失うことなく、左膝を使い、ガラ空きになっていたカラスの背部に一撃をお返しする。


(ヅウゥ……ッ! このクソ角、俺の肘鉄を耐えやがった! 大抵のやつなら今ので頭イッてたろうがァ。ふざけやがってッ!!)


 読みやすい思考だ。彼奴が何を思っているか、その目で分かる。

 不撓不屈。まさにその通り。

 まったく折れる気配がない、敗北の匂いがしないトウキに、カラスは無意識に焦っていた。

 故に、煽る。前のお返しとばかりに。


「俺が、あの程度で落ちるわけねえだろ? 貧弱なんだよ、鳥野郎」


 トウキは小馬鹿にするような目で、煽るような表情で、苦悶顔をしているカラスに発語する。


「〜〜〜〜〜〜ッ、死ねェエエエエエエエエッッッ!!」


「テメエがなァ!」

 

 顔を真っ赤にし、今までにないほどの『殺意』を露わにするカラス。

 それに対し、トウキはその殺意にも負けないほどの『怒り』を発露した。

 地鳴りが起こり、山が崩壊し、空気が爆発する。真に、常軌を逸した肉弾戦が幕開ける。

 それは、人間の肉体だけで奏でられているものなのか。

 つい、そう息を呑みたくなるほどの、爆発かのような重低音が絶えず鳴り響く。

 二人の拳打が、蹴撃が、頭突きが、幾十幾百幾千万、終わりなく、際限なくぶつかり合う。

 そして、二人の手に、宙を舞っていた刀が戻った……。

 

「ゼァアアアアアアアアアアッッッ!」


「グッ、カアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 再び始まる、剣戟の嵐。しかし、その剣戟は最初の時ほど長くは続かなかった。

 いや、正確に言えば。続けなかった、のだ。


(剣術は互角。そんならァ……!)


 カラスはただの剣戟を続けても、未来永劫決着がつかないと悟る。それほど互いの実力が伯仲していると再度理解したのだ。それどころか、今も息を荒くしている理由、発汗の訳、まさかの『体力切れ』で自分が詰む可能性に思考が行き着いた。故に、戦況を一変させると決めた。


(俺の気配断ち、テメエは知らねえもんなァ……!)


 高く持ち上げた右足で、殴られ放題な地面を思いっきり、一切の加減なしで踏み込む。常軌を逸した脚力での踏み込みで、カラスが立っていた地面で爆発が起きた。大爆発で打ち上がった大量の土砂が弾け飛ぶように辺りに散乱。土砂により一瞬、両者の視界から敵の姿が消えた。


(目隠し……)


 トウキは砂幕からの奇襲を警戒し、軽く後ろへ飛んで、その目眩しを冷静に対処する。

 そのまま、相手の次手の攻撃を予測し——ようとしたところで、その異に目を剥いた。


(野郎、気配が森と同化してやがる! 見つけられない……!)


 体臭、視線、音、それら全てを完璧に隠す、カラスが有している絶技。神業、離れ業。

 それをもって完全に『存在』を見失わせたカラスは、土煙の爆心地から五メートルほど後方へと飛び、刀に鞘を収め、所謂『居合の構え』を取った。

 周囲は度重なる戦闘の余波で拓けている。よって逃げ道はない。


「【飛剣】」


「————ッ【雷装】!!」


 トウキは魔力を探知する技術を持ち得ていない。そのことを、カラスは直感で理解していた。

 カラスが居合い斬りのように引き抜いた刀身には、紫の靄のような魔力が纏わりついていた。

 その靄が放つ、肌を斬り裂くような『脅威』を、気配は微塵も感じ取れていないにも関わらず、トウキはしっかりと感じ取れた。それは歴戦の中で培われた『勘』と言えるものであった。

 トウキはカラスの『必殺』を対処するために、刀に魔力を纏わせ、己の雷魔法を発動する。

 魔力を『雷』へと変換し、それを武器に纏わせて威力を強化する。所謂、エンチャントだ。

 その纏わせた『雷』を使って発動する、ただ雷を同時に爆発させるだけの——強力な一撃。


「【大翼・黒】——ッッッ!!」


 カラス、再び『飛剣』を行使。約二十メートルの距離から斬撃を成立させる。多大なる魔力を『強度』という一点に振っているその一枚は、トウキの雷衝すら超えてのける威力があった。 故に、トウキは『魔法を相乗』させる。雷装のエンチャント+雷衝の爆発力を掛け合わせる。


(完璧に合わせなければ、真っ二つになって死ぬ) 


 魔力の余波で、土煙が一気に晴れる。互いの姿を両者は視認する。超速で迫り来ている『大翼』を目を離さずに見極めていたトウキは、瞬間、カッと目を見開いて、己の雷を爆発させた。

 

「【大雷衝】——ッッッ!!」


 目前に雷が落ちたかのような大閃光と、けたたましい超轟音。それが雷を纏った刀から発せられ、あまりの光量に咄嗟にカラスは目を庇った。

 そして見る。確と認める。二足で立ち、刀を振って魔力を散らす、健全なトウキの姿を。

 

「…………クソ角ガァ!」


「……終わりか、鳥頭?」


 完璧に『飛剣』を相殺し、無傷のまま地に立つトウキ。それを認めたカラスは苛立ちで顔を筋張らせ、凄まじい殺意がこもっている眼で、悠々とする敵を睨みつけた。


「終わるわけねえだろ、馬鹿が。テメエが死ぬまで終わらねえよォ! 【飛剣——黒翼】!」


 バッと姿勢を低くしたカラスは、先程のような溜めもせず、いきなり一枚の飛剣を発動した。 それに目を見開いたトウキは、即座に魔法を発動。飛翔してきた一翼を再び相殺してのける。


(また消えやがった……)

  

 一瞬の光に乗じて、再びカラスは姿を隠す。トウキは己の五感を頼りに足取りを追いかけた。

 視覚には映らない。聴覚では聞き取れない。嗅覚に関しては、どういうわけか奴は自分の体臭を抑えることができる故に無意味。味覚なんか必要ない。触覚は真面に食らえば瞬間に詰み。

 トウキはカラスが所有する血に染まったような刀身をした、刀の力を正確に読み取っていた。

 あれは『邪剣』と呼ばれる特殊能力を持った希少武器。

 宝具とも呼ばれるものを一体何故『賊』が持っているのかは分からないが、最悪、あの刀の一撃を食らった瞬間、勝負が決してしまう可能性が高い。だから、間違っても一撃を食らうことができないわけだ。トウキは汗を滴らせながら極限まで集中し、背後から迫った凶刃を——


「シッッ!!」


 正確に防いだ。


「大の男が隠れんぼかよ?」


「ッ!? クソガアァッ!」

 

 再び始まったのは、人外の大剣戟。しかし最初にあった互角の戦いとは違って、それは何故か、終始、トウキの優勢であった。刀を打ち合うたびに、カラスが仰け反って後ずさっている。

 一歩、二歩、三歩。表情から余裕が消えているカラスは、どんどんトウキが見せつける『剛剣』に押されていく。四歩、五歩、六歩。まだまだ押していく。まだまだ『追い込んで』いく。


「お前、飛剣以外に『奥の手』がねえんだろ?」


「アアッ!?」


「はっ! 図星かよ」


「〜〜〜ッ! 死にやがれエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!」

 

 体力の底が見え、滑稽に思えるほど力任せに刀を振るっているカラスは、最初とは比べ物にならないくらい、技と動きの精彩が極端に陰っていた。

 息を切らし、汗を散らし、足をもつれさせながら、トウキの元へと肉薄するカラスは、時間と共に、その力強さを落としていく。

 それに憐れみの目を向けたトウキは、凄まじい速さの峰打ちで右腕を叩き、地に濡れた邪剣を地に落とさせた。

  

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ、ブウッ!」


 カラスは、口から硬質な歯石を噴く。それは凄まじい速さでトウキのもとへと向かった。が、今更そんなことで動揺する彼でもなく、軽く首を傾けて、カラスの悪あがきを悠々と回避した。


「お前、強えよ。だから、いつも戦いがすぐに終わる。それで長期戦の経験が積めなかった。体力配分のミスだ。しかも種族の差もある。残念だったな。鬼人と体力勝負すんのはバカのやることだぜ」


「グッ〜〜〜グウゥゥゥゥゥッッッ……!」


 トウキは、邪剣へと手を伸ばそうとしたカラスを一瞥。彼奴が武器を拾い上げる前に邪剣を踏みつけて、その刀身をバキッと折った。もう、コイツには武器も体力も残ってはいない……。

 この勝負——トウキの勝利だ。

 足を引き摺って歩き、なんとかその勝負の終わりを見届けたソラは、トウキの元へ向かう。

 そして、血で唇を汚しているソラは見た。カラスの目の奥で燃えたぎる、ドス黒い殺意を。


「トウキ君っっっ!?」


「ッッッ!」


「ひひっ、ひひひハハハハハ! 遅えんだヨオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、バカがァアアアアアアアアッッッ!!」

 

 トウキの懐に飛び込んだカラスは、半透明、紫に輝く『凶刃』を向ける。懐刀はなかったはず。その考えに行き着くことを妨げる情報。それは、彼奴の手から『生えていた』ということ。

 

(魔法剣! 野郎、まだ手が————!!)


 凄惨な殺意を浮かべるカラスは、右手に生えている魔力の刃を、トウキの胸に目掛けて突き進ませる。ソラの一声で奇襲に気付いたトウキは、咄嗟の判断で右腕に向けて斬撃を繰り出す。

 だがしかし、カラスの攻撃の方が速い。トウキの防御よりも、致命的なまでに一歩先だった。


 このままでは、トウキは心臓に攻撃を食らう! 

 今この場に治癒魔法を行使できる人間はいない! 

 食らったら死ぬ! 間違いなく終わる!

 それだけは、させない!

 僕はトウキ君の懐に飛び込むカラスより早く、速く、疾く、風を、撃つ。


「【風撃】!!」


 溜め無しの風撃ち。身体の奥底から強引に引き出した神風は、猛速で一直線にカラスの元へと向かい、友に凶刃を突き刺そうとしているカラスだけを正確に吹き飛ばした。


「ガアッ!?」


 カラスは風撃を脇腹に食い、決河の勢いで遠くの木に叩きつけられる。


「クソッ……茶髪ガァ——…………」 


 血走った、殺意に塗れている眼光を僕に浴びせ、ガクッと力尽きる。

 トウキ君との凄絶な殺し合いを行っていたカラスには、これっぽっちも体力が残っておらず、ただ樹木に衝突しただけで、糸が切れたように気を失い、横になったままその活動を停止した。


「ククッ。悪いな。俺は一人じゃねえ」


「トウキ君! だ、大丈夫っ!?」  


 焦りながら駆け寄る僕にトウキ君は笑いかけ、左手を上げる。

 

「オウ。ありがとな、ソラ。助かった」


「……うん! 君が無事でよかった!」

   

 心からの言葉。それを掛け合い、僕達はハイタッチをする。

 この戦いの勝利を祝して、僕達は笑みを交わし合った。

戦闘描写って難しい

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