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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『ハザマの国』編〈2〉
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第53話 『シダレ・ユキノハ』

 現在時刻、十二時〇分。次のアクションを総意で決定した僕達は、一旦は外で拠点にする宿屋を見つけた後、足早にギルドへと舞い戻った。

 なぜ敷居を二度も跨いだのかというと、それは掲示板に貼り出されている無数のクエスト、その中の腕っ節に関わるものを数多く引き受けるためだ。

 なぜ、あまり自信のない腕っ節に関わる依頼をこなそうとしているのか……。

 それは、今はない、積み立っていない、君ならできるという『信頼』を勝ち取るためだった。


「どうしよう」


 掲示板の前。まず初めに受注するクエストをどうするか、僕はうんうんと悩んでいた。 

 魔獣発見報告、それに連なる討伐依頼。腕っ節に関わると言えばまさにこれなのだが。

 しかしこれを受けたとして。仮に受けたとして。

 それが十中八九『人間が起こしているだろう神隠し事件』の解決を依頼されるに繋がるかは分からない。よって、パス。とはならないのが現実。


 人助けはするべきである。


 少なくとも、小さくとも、砂粒ほどだとしても。旅をしているから、余計にそう思える。

 この世は、社会は、人の優しさで成り立っていると言っても過言ではない。

 ドライな人はもちろんいるけれど、しかし世の歯車を潤滑に回しているのは人の善性なのだ。

 それを目の当たりにして、理解して。だから自分もそのうちに入る努力をしなきゃと思う。

 商路に魔獣が現れたなら、誰かが対策を打たないと、被害が出てしまうのは想像に難くない。

 それを分かっていてなお、わざとほったらかしにするというのは不健全極まるし、ことを解決できうる『力』が僕達にある以上は、無視するのは忍びないというもの。

 つまり、この依頼を見つけた時点で、既に僕達の『次』は決まっていた……。


「西の本道に魔獣出没だってさ」


「みたいだな。んじゃ、受けちまうか」


「ナハハ、了解」


 僕はつい空笑いをしてしまう。やっぱりそうだよね、って感じで。僕は掲示板からその依頼紙を剥がし、じっくりと内容を読む。紙には『四足魔獣が西の本道で出没した。故に討伐を求む。依頼の達成報酬は五千ルーレン。推奨ランクはフォース。事前金はなし』と書かれていた。


「五千ルーレンって適正値なの? ソルフーレンは十万ルーレンも出してたけど」


「雑魚魔獣が相手なら、五千〜一万ルーレンが妥当だな。二万は破格って感じだ。ソルフーレンは魔族被害者が移住したりするし、魔族っていう存在に対する警戒レベルが高いんだろう」


「なるほどね。たしかに、エリオラさんがそんなこと言ってたっけ」


 あの時、ソルフーレンで三人と初めて顔を合わせた時、エリオラさんはこう言っていた。

『魔獣発生の情報規制はした方がいいと私も思うよ。

 風の勇者伝説が確と刻まれているソルフーレンは魔族被害者の最後の拠り所だ。

 そこを突くのは『区長』も避けたがるだろう。

 だが周囲全てに黙ったままだと不知の民間人が被害に遭う可能性は否めない。

 喋るとしても口が堅い行商までとして、魔族被害者の線が有り得ている入都者には伝えず、門の検問官に情報を共有して、入都申請認可を速めてもらえばいい』と。


 ソルフーレンはなぜか極めて魔族の生息数が少ないらしい。故に魔族に対してトラウマを抱えている人が数多く移住してきている。そのため、そこで魔族問題はタブー視されている、と。

 ここはソルフーレンと比べれば魔族の生息数が多いし、心傷移住者が多いというわけでもないから、こうして大々的に出没情報を貼り出せてるわけだ。そう思うと不思議だな、故国って。

 

「それじゃ、受注するよ」 


「オウ。善は急げってな」


 僕はトウキ君に確認を取って、依頼紙を持ってギルドの窓口へと向かった。数人の冒険者とすれ違いながら窓口前に立ち、依頼紙を手渡す。諸々の手続きを終え、依頼の受注は完了した。

 

「馬を貸してくれるらしいから、道行は楽になったね」


「ああ。これでさっさと西に行ける」


 事務的な手続き中、依頼に伴って、ギルドの補助を受けられるという話をした。

 なんでも、僕達の足となってくれる馬を、無償でギルドが貸してくれるらしい。

 走らせた馬は西ギルドに返却すればよく、多分に手間が省けるシステムをしている。

 借りている馬に『何らか』が起きてしまい、もし生命活動もとい、これ以上の行動が不可能になってしまった場合は、馬の生体価格分の補償しなければならないらしいが、都内を走るだけならそんなことが起きる可能性は低く、僕達は西のギルドまで使わせてもらうことに決めた。

 というわけで、僕達はギルドが指定した馬小屋へと向かった。


『ブフー、ブルルッ!』


『ブルル』


 馬小屋に到着後、軽めのレクチャーを厩務員の人にしてもらった。僕とトウキ君は揃って乗馬経験があり、特に躓くことはなく。とてもスムーズに今日走ってもらう二頭と顔を合わせた。

 僕達が借りることになった馬は計二頭。

 一頭は筋骨隆々の、競走馬と見紛う体つきをしている黒馬で、もう一頭はギロリと睨みを効かせている黒馬と比べれば華奢な体つきをしている、非常に大人しそうな、品のある白馬だ。

 プライドが高い馬は騎手を選ぶ。そんな話を故郷で聞いた。

 同じくらい気が強くないと、一日二日では乗りこなせないとも。

 だから、見た感じでいけば、黒馬に乗るのは苦労しそうである。ま、僕はどちらでもいいが。


「トウキ君はどっちにする? 白馬? 黒馬?」


「俺は白馬でいい」


「おけ。じゃあ、僕が黒馬で」

 

 トウキ君は涼しげな様子を見せている白馬を。僕は荒い鼻息を吐いている黒馬を選択。厩務員に言葉を置いて、僕達はそれぞれの馬に跨った。そうすれば案の定、


『ヒヒーン!!』

 

 と。僕が跨った黒馬、名をイチゴマックス——かっこいい黒馬にしては名前がちょっと可愛い寄り——は前脚を上げて、さも革命を起こしそうなポーズを取る。

 しかし、僕は手綱を強く握り、腿で鞍を強く挟んでなんとか耐え切った。

 乗馬早々落馬なんて馬鹿なことにはならず、僕はドキドキしている胸をホッと撫で下ろした。

 そして、走り出す。

 サクラビの面積は八十キロ平方メートルと甚だしく広大。東端から西端まで、駈歩でざっと三〜四時間は掛かる。現在時刻が十三時であるため、西ギルドに着くのは昼過ぎになるだろう。

  

「大西門が見えてきたら、とりあえず早めの夕食にしようよ」


 車道を走りながら、後方を一定の距離を保ちながら走っているトウキ君へ、そう語りかける。

 

「だな。何食うか先に決めとこうぜ」


 トウキ君は、夕食を早めに済ませておこうという僕の発言に、意義無しとコクリと頷いた。


「何にする? 僕的に丼物かなって思ってる。かき込めるし」


 丼物。多種の揚げ物を乗せた天丼。鶏卵と鶏肉を掛け合わせた親子丼。衣を着させた豚をサクッと揚げたカツ丼。玉ねぎと牛を煮込み、それを乗せた牛丼。川うなぎをタレで焼いた鰻丼。

 まさに多種多様。米って万能だなぁとつくづく思う。今の気分的に丼じゃない魚もありだな。


「あー、俺は麺類だな。ズズッと蕎麦を啜りたい気分だ」


「蕎麦屋に丼物ってあるかな?」


「揚げ物を売ってたらあるんじゃねえかな」

 

 店によるけど、蕎麦屋は米も提供してくれたりする。揚げ物も合わせで売っていたりするし、それなら天丼とかを出してくれたりするかもしれない。そうだったら二人の気分を満たせれる。

 そうなってくると、蕎麦屋はアリだ。別に麺でもいいしな、僕。これにて行き先は決定だな。


「なんかお腹空いてきたね。食べ物の話をしたから」


「だな」


 + + +

 

 七月五日。信頼を勝ち取るため、数多くのクエストを受注し始めてから、計三日後の夕時。

 その日その時の、サクラビ南にある山林の内にて——僕とトウキ君は戦闘を開始していた。


『グルゥガアアアアアアアアアアア!!』


 それはまさに獣横無尽。長く歪な爪を利用し、木々を足場にして、三次元的な動きを実行しているのは四足型の犬魔獣である。

 立体。上下左右、前と後ろ。どこからでも攻めに来れる死に物狂いの連中にも負けず劣らず、僕は握りしめている鏡面剣を振り、正確に首を断ち切った。


「シッッッ!!」  


 斬首された一体目を即座に捨て置いて、背後から飛び掛かってきた二体目の対応を行う。

 居合を倣った横一閃。

 それは魔獣が向けて来ていた両の前脚を容易く切断し、攻撃能力を大幅に奪った。

 続けてもう一閃。

 それは魔獣の首へと見事に直撃し、泣き別れ、首と胴が繋がりを斬断する。

 ぼとりと宙を舞っていた首が地面に落ちる。生々しい首と胴体の断面から鮮血が噴き出た。

 汚い血で大地を汚すな。

 そんな舌打ちをしつつ、僕は冷静に両の側面から迫ってきた二体へ同数の二の閃きを放った。


『ガァアッ!?』


『ガギィッ!?』


 斬/断。まるで絹豆腐を切ったようにするりと皮膚と肉、血管と神経、太い首骨が断たれる。

 全て狙いは外さない。斬断斬断斬断。無数に襲いかかってくる全ての害を断ち切る。そして、


『ガィ……ァア……——」


 任務完了。使命完遂。僕だけで七体もの魔獣を討伐した。これにてクエストは達成である。

 情報の倍はいた、ひとえに多すぎた魔獣の大半を刈り取った僕は、流石に疲れたと言わんばかりの顔で、頬を伝っていった汗を拭った。

 同じく、魔獣を相手取っていたトウキ君の方を見やると、彼はいつもと変わらぬ涼しげな様子で、見事に首だけが斬断されている死骸を一箇所に纏めていた。


「やっと終わったね。話よりも多くてちょっと吃驚だったよ」


「俺もオイオイとは思ったぜ。ま、さして問題じゃないんだがな」


 トウキ君は刀に付いている汚い血の一滴を振るって落とし、カチャリと刀身を鞘に仕舞った。

 僕も彼と同じように付着している血を払い、それを鞘へと収めた。

 計十四体もの魔獣の死骸を用意していた箱に詰め込み、それをまとめて荷台へと積む。

 達成報酬は六千ルーレンだけど、死骸をギルドが一体五百ルーレンで買い取ってくれる。

 十四体もいるから、死骸だけでも相当稼げたわけだ。なんとも凄まじい稼ぎ効率である。

 まあ、僕達の目的、目標は国からの声掛けであり、路銀稼ぎが主目的でないのだけれど。


「それじゃ、帰ろう」


「ああ」


 僕達は山下で休ませていた二頭の馬、黒馬のイチゴマックスと白馬のユキユキを動かし、魔獣の死骸が積まれている荷台を連結する。 

 そして手綱を握った僕は用意完了を確認した後、パシンとまるで御者のように馬達を操った。


「夕飯は何にする? 僕はなんでもいいよ」


「んじゃ、魚でも食おうぜ。王鮎の塩焼きが美味えんだよ。高えけどな」


「王鮎って五十センチにもなる高級魚だよね。お金はこの死骸で十分あるし、それにしよ」


「だな。ちょうどいいくらいに稼いだし、夕飯は王鮎にしちまうか」


 僕とトウキ君はこんな感じで駄弁りながら、かれこれ数時間の移動を行った。。

 サクラビに到着したのはなんと夜の九時過ぎ。僕達は人の動きが落ち着いている都を馬車で走り抜け、南ギルドへと赴いた。

 そこでクエストの達成報告と、報酬の受け取り、魔獣の死骸の買取を済ませる。

 諸々の手続きを終え、その日は無事に暮れる。

 そういった日々を一週間ほど続けていると……ついに『その日』がやって来た。   


「やあやあやあ!」


 積んだ商品を隣村まで護衛するという依頼を終えて、ギルドを後にした僕達へと、そう気さくに声をかけてきたのは、桜色の羽織を着こなした、まさに優男というべき謎の人物であった。


「ソラの知り合いか?」


「いや。知らない人」


 特に何事もなかった依頼を終え、千ルーレンという決して多くはない報酬を受け取ったばかりの僕達の元へ、まるで長年の顔見知りのように手を振って近づいてきたのは、一人の男。

 一房にまとめ、肩から前の方へ垂らされているのは、羽織と同じ桜色の長髪。同じ色をする切長の瞳は一瞥で凍りそうな鋭さがあって、だけど艶かしい魅力があった。百八〇はあるだろう高身長であるにも関わらず、体の線はとても細く、軽く小突いただけで折れてしまいそうで。

 そんな男が、女性と見紛う美貌を蠱惑的な笑みで型取りながら、ゆらゆらと歩み寄ってくる。

 急に声をかけてきて、一体なんなんだ? っていうか誰だ? そう困惑している僕を他所に、細身の男は僕に狙いをつけたような目で近づいてきて——ガバッと、いきなり僕に抱きついた。


「うぇ!? ちょっとなに!? やめてください!!」


「いやぁ、ゴメンゴメン! イケそうな感じだったから、ついね?」 


「はっ!?」


 いきなり抱きついてきて、何を言ってんだこの人は!?

 はっ! まさかこれが巷で言うところの『変態不審者』というやつか。

 そう悟った僕は全力で距離を取り、警戒心マックスの眼差しで男を見やる。すれば謎に『ゾゾゾ』と身体を震わせた不審者は、女性のような仕草でクスリと笑った。

 そして蛇を想起させるような目で僕を見ながら、袖で口を隠して喋り出した。


「まずは自己紹介だよね。わたしはユキノハ——シダレ・ユキノハ。ハザマの国の管理者だ」

 

 その言葉に唖然と固まる僕達を見て、彼は意地の悪い蛇のように笑った。



「いらっしゃ〜いな」 


 僕達はハザマの国の現管理者と言った、歩けど座れど変態不審者、シダレ・ユキノハさんに連れられて、サクラビの中心へ、ハザマノミテの抱擁を受けているあの和城へと向かっていた。

 四メートルは優にある大きな高麗門が見えてくる。

 そこには槍を構えている四人の門衛が待ち構えていた。

 眉間に皺を、まるで面倒ごとが目の前に現れたみたいな顔をしつつも警戒を怠ってない彼等に、シダレさんは艶かしく手をひらひらと振ってみせた。

 すれば、門を護っている彼等は一様に首を折り、上の命だし仕方がないと呆れ切っているように、顔に手を当てながら『開門!』と叫んだ。

 その声が響いてほんの数瞬後。

 突然に高麗門から『ゴゴゴ』という音が鳴った。案の定ゆっくりと巨大な門が開き始める。

 僕が「お〜」と間の抜けた声を出すと、シダレさんは女性のような素振りでくすりと笑った。


「それじゃあ行こうか」


 そう言って、城の敷地へと入っていく彼の後に、僕達は続いた。


「綺麗……ザ・和風って感じで」


「ありがと」


「え? 貴方に言ってないです……」

 

 高麗門を抜けた先にあったのは、ザ・和風と言うべき、というか僕のボキャブラリー的にそうとしか言えない、美しい庭園があった。丸い白石が敷き詰められている庭園には独特な松の木が生えていたり、定期的にカコンという音を奏でてくれる『ししおどし』というのがあった。

 しかし、僕は黙りこくりながら思う。庭園は綺麗だけど、それにしても……と。

 それもそのはずだ。高麗門を通ってしばらく歩いているにも関わらず、ハザマノミテもとい和城はまだまだ遠い。ざっと見た感じ、残り百メートル以上の距離がある。どんだけ広いんだ。


「敷地広すぎません? 城まで全然遠いんですが」

 

 僕はつい、思っていたことを口にする。すればシダレさんは『だよねぇ』と手を泳がせた。


「この先にあと四つ、門があるんだ。多すぎるよねぇ、広すぎるよねぇ、私もそう思うよ」


「な、なるほど……」

 

 なんだかんだで四つの門を通り、四季を感じさせるような作りをしている庭園を過ぎていく。 通り過ぎた庭園には各一つずつ大きな離れがあり、そこでは城勤めの兵士らしき人達が、それはもう大粒の汗を散らしながら『えいや! えいや!』と声を上げて素振り稽古をしていた。

 そこから少し離れれば、庭木を剪定鋏で切っていたり、盆栽というのを手入れしていたりと、本当に様々なことをしている人達と多く出会った。僕は従事者の数から、ここが上流階級の場であると再確認する。そして、プロフェッショナル達の技術に感嘆の吐息を漏らしたところで、


「着いたよ。ようこそ、ハザマの城へ」

 

 僕の目の前には、見上げるほどの高さの城が建っていた。

 真っ白な外壁に、形の不揃いな岩を器用に積み上げて造られた土台。絵本で見たようなものではなくとも、確かに厳かな雰囲気を放つその和城は、僕の視線を釘付けにして離さない。

 無意識に息を呑んだ僕は、手招きするシダレさんに続き、ハザマの城への入城を果たす——   


          * * * 


「ほら、そこに座って」


 僕達は城の五階、城の中層へと移動していた。着いた広間の中心には三つの座布団が用意されており、我先に腰掛けたシダレさんは残っている座布団を指差して、僕達に座るよう言った。

 僕とトウキ君は彼の促しに従い、極上の座り心地をしている座布団に腰掛ける。

 そしてシダレさんと面を向い合った。すると突然、彼は手をパンパンと叩く。

 急になんだ? 僕が首を傾げながらそう思っていると、スザッと広間の両端にあった襖が開放され、三味線を持っている芸者と、料理が置かれた膳を持っている女中が広間に入ってきた。

 なんだなんだ!? 急にどうした!? 僕がそう慌てふためいている間に、彼女等は自分に与えられている仕事を完遂する。広間の奥にある壇上で一糸乱れぬ演奏が始まり、客人をもてなすための料理を運んできた女中は、僕達の前に膳を並べ終えると壁際に座って無言となった。


「さ、好きにお食べ。お昼はまだだろう?」


「んじゃ、いただきます」


「え!? 食べるの、トウキ君?」


「ああ。出されたなら食う。美味そうだしな」


 トウキ君はシダレさんの言うままに、出された魚料理に箸先を伸ばした。僕はそれに、遠慮なくいくのかと衝撃を受ける。が、友人だけが食べるのもアレだしなぁ、と。僕も箸を握った。

 

「うふふ。いい食べっぷり。さすが年頃の男の子だね」


 シダレさんは妙な色気がある息遣いをしながら、僕達がバクバクと料理を食らっていることに、おそらくだが興奮しているようだった。どういうフェチなんだと思いながら、僕はゴクンと白米を飲み込む。そして口元についている米を指で取ってから、中断されていた話を始めた。


「あの、シダレさんは僕達になんの用があったんですか? 料理を振る舞いたかった、ってわけじゃないですよね?」


 彼が僕達を城へ案内した理由。僕達を『大衆の目が届かない場所』へ連れてきた、そのわけ。

 もう分かってる。彼が僕達へ求めている『何か』とは、十中八九『神隠し』についてだろう。

 神隠し事件を追いかけるために、僕達は回り道をした。一週間だ。短くも長かった一週間を終え、ようやく向こうから『コンタクト』を取ってきた。これは当初の狙い通りである。

 して、ここからが本番だ。神隠し事件、その渦中に僕達は身を置くことになる。

 まさに、鬼が出るか蛇が出るか、だ。緊張はある。だか恐れはない。僕達は負けない。誰であろうとも。安心要素の九割九分はトウキ君であって、僕はおんぶに抱っこのお荷物なのだが。

 僕は自分の惰弱脆弱薄弱さに唇を噛みつつ、僕の言葉にコクリと頷いたシダレさんを見やる。


「もうお分かりの通りだよ。私は君達に神隠し——否、凶悪な『拉致事件』の解決に協力してもらいたく、君たちをここに招待した」


 拉致。つまり人間の手による犯行。彼の言葉で確定できていなかった疑念が確信へと至った。

 そして思う。国の戦力、兵士ならぬ武士だけでは解決に至れていないのは、とどのつまりその犯人が何らかで『上』を行っているということだ。潜伏能力、もしくはそもそもの戦闘力か。

  

「昨今のハザマの国を騒がせている神隠し。それの犯人はおそらく、去年に鬼国で数多くの拉致事件を起こした『カラス』という狂人だ」


「カラス……」


「ああ。相対した花号の侍に犯人はそう名乗ったらしい」

 

 花号。鬼国・鬼ヶ島を統べる鬼王に認められた『もののふ』に与えられるという特別な家名。 詳しくは分からないが、間違いなくエリオラさん並みの強さを有していると思う。

 その人等が逃してしまうレベルとなると……まさか、犯人はトウキ君並みの強者なのか? 


「そのカラスの強さはおそらく、私の勘ではあるが、トウキ君、君と同等だ」


 その一言で、食べ物で満たされていた胃が信じられないくらい縮まった。うっとなる吐き気すら覚えるほどの倒錯感というのに苛まれる。しかしゴクリと。

 僕は固唾と一緒にそれを飲み込んで、真剣にシダレさんの話に耳を傾けた。


「私達だけで解決に至りたかった。だが、できなかった。派兵した武士団は全て音信不通。おそらく、全員殺されている。第二、第三武士団でさえ帰還しないという結果しか残らなかった。だから私達は要らぬ被害を広めぬように、ギルドと協力して情報の規制を行なっていたんだ」


 情報規制を行った理由。それは民間に被害が及ばぬようにだとは思っていた。だが、そこまで理由が深刻とは。

 第二、第三武士団を派兵したのに、その全員が未だ帰還していない。誰も帰ってこない。間違いなく全員殺されている。事件を起こしているカラスという人物によって。


「元より、俺はその事件を解決するために動いていた。話は受ける。報酬は要らない」


「国主ハザマに代わり、国の平穏を護る行動、心より感謝する」 


「感謝もいらねえ。だが、一つ聞いておきたい」


「? 知り得ている情報の範疇であれば、なんでも答えるよ」


「俺が聞きたいのはただ一つ——拉致された子供たちは、どこに売られている?」


 その質問を行ったトウキ君の目は、赤く、紅く、まるで地獄の業火が目に宿っているようだった。君は一体、何を求めているんだ。

 何も分からない僕は、ただシダレさんの答えを聞いた。


「魔神教。カラスという人物は、魔神教に拉致した子供達を売っていると思われる」


 その答えを聞いた友人の顔を、僕は生涯忘れない。瞋恚の炎に焼き尽くされてしまいそうな、今までにないくらい危うい友人の姿、様子は。

 何もかも無知な僕は、ただ呆然と。

 魔神教という、今日が初耳である言葉を、頭の中で無意味に反芻させた——。

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