表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『ジオドラム』編〈1〉
122/131

第109話 やられた……!

 踏み行ったルカンルカンという国の人口は『約三〇〇万人』であり、人口という点だけを見れば中堅、または小国と言えてしまう規模を誇っている。しかし、国内の経済活動や、諸々の物価指数は中堅国に引けを取らないほどに成長しており、それは北の超大国『クラウディオ帝国』からのくる観光客を『インバウンド事業』による影響が大きいと、行商たちは口を揃える。


 ルカンルカンには『世界でここだけ』みたいな唯一無二の観光地があるわけではないらしいのだが、帝国の人間からすると、敵対関係となっている西方大陸はそもそも旅行案に挙がらず、他の近場のザクという国は観光客を寄せる活動をしていないせいで、旅行をするには不便極まりなく、観光場所としては除外されている。ノルマイという国が存在する南方大陸は、帝国大陸から離れ過ぎているため、向かうまでの時間と金銭が嵩むから除外。つまり、完全なる消去法で、物価がそこそこで帝国大陸と隣接している九国大陸が観光地として選ばれているそうだ。


 いやいや観光しているのかなと思ってしまうのだが、実際はそうでもないらしく、ルカンルカンで活動している御者のおじさんが言うには、この国の食の味は帝国に住まう人々の肥えた舌を頷かせるほど美味であり、この国に住まう職人達の熟練の技術で生産された高品質な工芸品の数々は帝国でも根強い人気を誇っているらしい。それで国内の経済活動が活発になり、帝国の観光客達に影響される形で全体的な物価が高くなっているとかなんとか。


 ここだけ聞くと、観光目的ではなく、路銀も余裕がない僕は近寄り難いイメージを持ってしまうのだが、そんな、僕よりも——定職に就いていない無職の僕と比べたら、どんな人でもお金持ち——お金持ちな帝国の人間からしても、今のジオドラムの物価と税は異常なのだそうだ。


 聞けば聞くほど『行っちゃだめじゃない?』と思ってしまうのだが、もう隣国ルカンルカンまで来てしまった僕が、今さら身を引くなんてできるはずも——できなくはないが、行かなくちゃいけないって思いが強いから仕方ない——なく、アーフォルトの地を離れてから一週間ほど経過した、ルカンルカンの東部にある小さな宿場町の飯屋にて、移動をしていて昼食を食べていない僕は、再度、西へと向かう活力を付けるべく、しっかりとした夕食を摂ることにした。


「この、ルカルカ? ってのをお願いします」


「はいよー。ルカルカ一丁!」


「ルカルカ一丁!」


 寂れた小さな飯屋の、空いていた二人用の席。そこに一人で着いて、ルカルカなる謎の料理を注文する。おそらく『ルカンルカン』の郷土料理的なものだと思われる『ルカルカ』という料理を注文し、待つ僕は、対応をしてくれた店員の声を聞きながら、卓に出された水を飲んだ。


「聞いたか? 鳥野郎が、また俺の親戚が育ててる農作物を一個丸々『奪って』いきやがったっぽいんだよ。ジオドラムの糞のせいで物価高だっていうのによぉ」


「例の『鳥人間』のアレか。ウチの家内の実家も育ててた豚を取られたって話を聞いたぜ」


 料理を待ちながらガラスのコップを呷っていた僕は、不意に耳に入ってきた鳥人間の話を聞いて、盗み見るような横目の視線を真昼間から飲んだくれている中年男性二人に向けた。

 会話の中に入って詳しく聞こうと思ったが、このまま黙って聞き耳を立てていても、気になっていた『攫い鳥』の情報が分かりそうだなと思い、意味はないかもしれないが会話をする両者の邪魔をしないように椅子に座ったまま息を殺して、耳に全神経を集中させる。


「ったくよぉ——一体全体、あの鳥人間は何なんだよ。羽の生えた獣人なんて聞いたことがねえし、ありゃあ、人型の魔獣かなんかなのか? アレの討伐を依頼された冒険者連中の方はどうなってる。アイツ等ちゃんと探してんのか?」


 今までに親しい身内の人達が複数の被害に遭われてしまったせいか、かなりの苛立ちを表情で露わにしながら声を荒げかけている、話をしている二人から見て右側のカウンター席に座っている『青色のキャップ』を被った男性の言葉を聞き、彼の左に座っている男性は肩を竦めた。


「まあ、魔獣とかだろうって話は聞くな。あの鳥人間が現れてから長えのに退治されてねえってことは、ジオドラム辺りが絡んでそうだなと俺は睨んでるぜ」


「チッ。クソ国がよー……んぐ、ん、ブハァー! アイツ等のせいで俺は酒代を上さんから減らされちまって、滅多に酔うこともできなくなっちまったよ! クソッタレ!」


 どこからどう見ても酔っている風にしか見えないのだが、彼からしてみると飲み足りないくらいなのだろうかと、卓の上に出された『ルカルカ』なるルカンルカンの文化料理——鶏の銅を丸焼きにし、その胴体の中に麦と野菜を詰め、それをたっぷりの香辛料で味付けした、僕好みとしか言えない美味な料理で舌鼓を打っている僕は思った。なんだかんだで気楽な面持ちをしながらジオドラムに向かっていた僕は、おじさん達の彼の国への苛立ちを感じ取り、財布のことしか気にしていなかった、側からすれば緩んでいると言えただろう自身の気持ちの紐をグッと引き締める。そうして、緩み掛けていた自分の気持ちと表情をしっかりと改めた僕は——


「美味しい……!」


 注文して出てきた美味しすぎる料理を堪能するのだった。


「ご馳走様でした!」


「「はいよー! また来てな!!」」


「はい!」


 + + +


 九国大陸で二番目の経済規模を誇っている『ルカンルカン』に入国してから、かれこれ二週間が経過した午前ごろ。

 今の今まで、あまり休息を取らず——馬車が走らない夜は一人で野原を駆けて移動——ぶっ通しで移動を続けていた僕が一直線で向かっている、とある場所……ジオドラムについての話をしてくれた、アーフォルトの御者の弟さんが経営している『高級接待飲み屋』があるという、ルカンルカンの首都『キリテル』が目前まで迫ってきているところまで、僕はやって来ていた。

 ここに来るまでの道中、例の『鳥人間による農畜産物への被害話』が、キリテルまでの中継に利用させてもらった村や町から、聞こうとしなくても聞こえてきてしまうくらい、耳に入れていたのだが、終ぞ、渦中の『鳥人間』とは出会うことはなく、首都のキリテルの隣にある町、自称『ルカンルカンの第二都市』と声高に叫ぶ『ルカッパ』の宿屋の一室で僕は腰を下ろした。


「ふぅー…………」 


 明日の夜には目的地の『キリテル』に着きそうだ。御者の弟さんが経営してるのは接待を主にした飲み屋ってことだし、到着が夜になりそうなのはちょうどいいかもな。今日はこの町で日を跨ぐとして、明日の早朝、午前六時くらいにはキリテルに向かって出発することにしよう。

 それまでは暇なわけだし、町の『風呂屋』に行って汗で汚れた身体を洗おうかな。ここ最近は移動しっぱなしで身体を洗えてなかったし、多分だけど臭ってるよな。まだ食べていない昼食を摂るのは風呂に入った後でいいだろう。入浴をしに行くわけだし、見てないうちに盗まれる可能性を考慮して、剣とコートは置いていこうかな。そう思考を終えて、この不景気のせいで『賊』などが増加しているという話から、一応の防犯として持っていかない剣とコートなどの財布以外の荷物はクローゼットの隅に隠しておき、それに毛布を掛けてから僕は部屋を出た。


「ちゃんと鍵も掛けとかないとな」


 ガチャリ。と宿の受付で渡された部屋の合い鍵を使い、扉の鍵を掛けた僕は、閉じられた扉が開かないことを押して引いて確認し、しっかりと施錠されていることを認めた。

 そうして借りている一室の扉から視線を切った僕が宿の廊下の方へと目を向けると、宿屋の一階へと続く階段の方から『カツ、カツ』という足音が鳴っていることに気が付く。

 僕の部屋がある『宿の三階』は宿泊客が泊まれる一番上の階層っぽいし、隣室に宿泊客が入るのかなと思った僕は特に気にすることなく足音が鳴る方へと足先を向けて、一階に降りて外出をするために、やや長めな廊下を歩いていく。


 カツ、カツ、カツ、カツ…………


 僕と他の宿泊客——もしくは宿の従業員の二つの足音が、不気味に思えるほどに静かな、窓が最小限の数のせいで快晴の昼間なのに曇天かのような薄暗さの廊下の中で重なる。

 その音を耳に入れながら、堂々と廊下を進む僕の視界の先、階段へ続いている一直線の廊下から姿を現したのは、薄汚れている襤褸を身に纏った、身長一六〇センチくらいの、目深に被っているフードの隙間から覗く中性的な顔はとても冷たくて鋭利的。

 ぱっと見で僕と同い年か、それ以下の男性宿泊客であった。これはアレか? この偶然の出会いは彼も風呂屋に誘えという天啓かなにかなのか? 無宗教である僕からしても、何かの導きであるかのような、まったく偶然とは思えない『遭遇』という感じがしなくもないんだよな。

 この『僕が外出するタイミングを狙ってきた』ような目前の人物に僕は横目の視線を釘付けにしてしまいながら。特に何事もなく、僕の方が軽く会釈をしながら「こんにちは」というくらいの呆気なさで、すれ違ってしまった。そんなこんなで僕は一階へと降りていき、受付から階段の方を意味深に見上げていた宿屋の女将さんに「ちょっと外出してきます」と声を掛ける。

 すると宿屋の女将さんはさっきの客の臭いに対して鼻を摘みながら口を開いた。


「さっきの客、臭かったねぇ〜」


「で、ですねぇ〜」


 その『ストレート』すぎるだろと思える素直な物言いに僕は苦笑しながら相槌を打つ。そうして宿の扉を開けた僕は町中へと出ていき、目的の風呂屋を探すのであった……。


 + + +


「はぁ〜……スッキリした」


 大衆浴場で身を洗い、肩まで湯に浸かった僕は、汗臭さが完全に取り除かれた自身に満足げな顔で『男湯』の暖簾の下をくぐった。その後、売店で売られていた牛乳を『節約するべきだけど、今回は贅沢しようかなぁ』と自分に言い訳をしながら購入し、それを一気に飲み干した。 


「ぷは! よし、昼飯を食べて宿に帰るかぁ」


 僕は温かな白い湯気を身体から立ち昇らせながら、大きな建物を『ドン!』と町に構えている大衆浴場を後にして、冬が誇る極寒の寒さを忘れさせてしまうくらい、至極煌々と照っている太陽の下を歩いていく。再び町中を歩き出した僕が目指すは、昼食を摂るための飯屋——今の気分的に鍋料理が食べたいから、鍋料理屋があればそこに行くこととするが、それにしても。


「…………人多いなぁ」


 僕が居る『ルカッパ』は第二都市を自称するだけあって大規模な町並みを誇っており、町中はフリューなどの大都市ほどではないにせよ人で溢れていた。道ですれ違う人々は皆が『防寒着』を着用していて肩幅が素の状態よりも膨らんでしまっており、人が歩くための歩道の幅がギュウギュウとなって非常に狭いなと感じさせる。そんな感じで誰を追い越すこともできない、不便極まりない『窮屈さ』を感じながら繁華街へと昼の内に足を運ぶことができた僕は、お目当ての『鍋料理屋』を探そうとして——スッと僕のポケットに伸びていた『手』を掴み止めた。


「ちょっと、スリは犯罪ですよ」


「————っっつ!? す、すみませんっ!?」

 

 ポケットに入っている僕の財布を白昼堂々摺ろうとした、非常に『気弱そう』な男性の目を見て注意をした僕は、彼の『殺される!?』というような目と咄嗟に出たのだろう謝罪を聞き、仕方ないな……と掴んでいた男性の腕を離す。


「次は衛兵に突き出しますからね」


「…………は、はい」


 僕が放った『最終警告』を、眉を逆立てている僕に背を向けて、道行く人々が作り出す波を縫い進みながら聞いた窃盗者は辛うじで返事をし、そのまま姿を消してしまった。

 不景気で『賊』が増えているという話を聞いていたから一応の警戒していたけれど、実際に窃盗の被害に遭いかけると『まあまあ吃驚』してしまうな。

 これじゃあ、気を抜けた物じゃない。さっさとお目当ての『鍋料理屋』を見つけて食べて帰ったら、宿の部屋で大人しくしておくに限るな。そう思った僕が絶品の『鍋料理』を堪能して、宿屋への帰路についたのは『午後の五時』ほどになってしまっていた。


「ただいまです!」


「あいよ、お帰りなさいな。うまいもん食べたけね?」


「はい! 鍋料理を食べてきたんですけど、すごく美味しかったですよ!」


「そりゃそうよ〜! ルカンルカンの料理は絶品さ!」


 なんだかんだで満足した様子の僕は宿屋に戻り、自分が誉められているわけではないのに、まるで自分が褒められたかのように上機嫌な様子の女将さんに笑い掛ける。

 そのまま宿の階段を上がっていき、自分の借りている部屋がある三階へと進む。

 そこで、ふと、謎の違和感を感じとった僕は、胸のざわめきに従うように早足で部屋の扉の前に立ち——そこで自分の部屋の扉の鍵が、何かしら、刃物のような物で抉ったように『壊されている』ことに気が付いた。


「…………あ…………え?」


 血の気が引くという感触を覚えた僕は暴れる心臓を暴れさせたまま部屋の扉を開けて、部屋の中の様子を確認する。焦ってはいても冷静に、部屋を見渡した僕は『何もなかった』というように片付いた——自分が出て行った時のままの部屋にホッと安堵しつつ、すぐさま『クローゼット』の方に視線を向けて駆け出し、勢いよくその扉を開け広げた。


「………………やられた……!!」


 そして見た。僕が置いておいた『剣とコート』を隠すように掛けられていた毛布が除かれていることに。

 そして、その毛布の下に置いてあった『大切な私物』が盗まれてしまっていることに……! 


「————ッッッ!!」


 僕の判断と行動は数瞬の間もないほどに速く、嘘偽りなく唯一無二である『僕の宝』を盗んでいった『賊』を探し、懲らしめるために、僕は部屋を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ