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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『ジオドラム』編〈1〉
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第108話 次なる国の地を歩む

 べリンドさんとミュエルさんの二人と『ポポアト』との国境検問所で別れてから、かれこれ七日が経過した。

 これといって言うこともないほどに至極順調だった道すがら、僕の頭の中では二人と一緒だった時に聞いた『大きな攫い鳥』の情報が何度も何度も反芻されていた。

 道中に『魔獣被害』で困っている村の人達の力になること以外にやることがなくて、そればかりを考えていたのはそうなのだけど、畑を荒らしていた魔獣を退治して、歓迎された村で聞き込みしたところ、なんと話に聞く『攫い鳥』の情報を得ることができたのだ。

 歓迎会のような飲み会に参加させられた僕が聞く耳を傾けると、やや出来上がっている村の村長さん曰く——渦中の鳥は『人のような手足をしていた』と言うのだ。

 至極『ええ?』という感じなのだが、


「そうだそうだ」


 と頷き合う村人達が話を合わせて嘘を語っているとは思えず、僕は「なるほど……」と半信半疑ながら納得をせざる負えなかった。

 あの時の僕は渋々納得した体で話を終えて、村のご厚意に預かり、その村で一泊してから目的地である『ルカンルカン』との国境検問所へと出発したのである。

 それが三日くらい前のことで。今僕がいるのは、目的地の目前にある小規模の『村よりは大きいけど、町かな?』と思ってしまう、一応の宿場町。その町の宿屋の借りた一室にて、この一週間休まずに移動しっぱなしだった疲労が蓄積している身体を癒すための休息を取っていた。


「ふぅ…………とうとう明日は『ルカンルカン』だな」


 手狭に感じなくもない——まあ、一泊、百五十ルーレンは妥当かなと思える部屋の床に荷物を下ろし、白いベッドに腰掛けた僕は、堪らずといった感じで大きく息を吐いた。

 そう。先も言った通り、僕はとうとう明日、一応の最終目的地である『ジオドラム』との国境線を有している『ルカンルカン』の土を踏むのだ。

 だからどうしたと道行く人は言いそうだが、僕にとっては重要な一歩——になるはずだ。

 まあ重要な一歩と言っても、僕が重税苦だというジオドラムに行こうとしているのは単なる好奇心からなのだが、他国への『侵略戦争を目的』とした軍拡を推し進めているという彼の国に興味を持つなというのも無理な話だと思う。

 これは当ての無い母探しの旅路だからできる強行であって、普通に旅をするのであれば定職に就ていない一旅人の僕なんかが金の掛かる場所に自ら行くなんて『馬鹿』と罵られてしまうだろうけど、ジオドラムの現状を知って、好奇心に取り憑かれてしまった僕が、当ての無い母探しの旅の目的地を一旦そこに設定してしまうのも、仕方ないだろう。うん。これは仕方のない行動なのだ。この行動の結果を恨むなら自分自身。決して『後悔』なんてしないはず——だ。


「ルカンルカン……いや、ジオドラムにギルドがあればそこに足を運んで、なんとか路銀を稼がなきゃな。まさかとは思うけど、所得税なんて取られたりしないよな……?」


 聞く話のジオドラムの内情的に割と有り得てしまう、至極ヤバめな状況をベッドで仰向けになりながら想像してしまった僕は、足りない頭を全力で回転させるように眉間に皺を寄せながら『まさかな……』と視線を天井へと向ける。

 もしもこの想像が当たっていた場合、一回の魔獣討伐報酬が『二〜三千ルーレン』だとすると、一体、その所得の何割くらいが税収されてしまうのか……。

 世界の『通常』の相場的には所得の『一、二割』が妥当だと思うんだけど、その通常に今のジオドラムが当て嵌まっているとは思えない。


 最悪『三割〜』に設定されている可能性もあるわけで、そうなると『二〜三千ルーレン』の報酬を受け取るときの実質的な手取りは『千四百ルーレン』とか、そのくらいになってしまうわけで。もしそうなってしまうと物価高のジオドラムでの生活は『その日暮らし』になってしまうんだよな。

 仕事もあるか分かったもんじゃないし、彼の国に行くと決めたにしても、この金銭的な不安は消えてなくならないな。

 まあ、こればっかりはジオドラムに実際に行ってみなきゃ分からない問題だ。

 漠然とした将来の不安なんて今気にしても仕方ない気がするし、若干の心配を心の端に残しつつ、もしもの時は、そうなってしまった時に考えることにする。


「…………ジオドラムはそれで良いんだけど、例の攫い鳥の件が気になるんだよなぁ。道中で見つけられるかな?」


 ボソリと頭から離れない事件の独り言を天井を見上げながら漏らした僕は、これも今考えても仕方ないか——と寝返りを打ち、視線をこれまた何にもない壁の方へと向けた。

 先も考えた通り、僕は明日、ルカンルカンの土を踏むのだ。

 だから、今考えるべきは『ルカンルカン』の内を行く道筋。

 前に乗った御者の話に出てきた、弟さんが経営しているという高級接待飲み屋に『客』としてではなく、ただジオドラムを調べている『聞き人』として行ってみるとして、その飲み屋がある『キリテル』っていう町を先ずは探さないといけない。

 世界地図は見て覚えているけど、そこに描かれた国々の詳細はあまり詳しくない。


 だから、一時的な目的地に設定した『キリテル』という町のことも、それがルカンルカンのどこに存在しているかも全くの無知だ。

 自分の口で聞いて耳で調べて、足を使って『手探り』に進んでいかなきゃいけないのも、ジオドラムのことが気になって仕方がない今だと、割と億劫に感じてしまう。

 けど、これも旅——いや、これこそが『旅』なのかもしれないと、休息を取るために目を瞑った僕は考えて、その意識を暗闇に落とす。長らく続いた思考の末、疲労を感じたのだろう僕の脳髄は視界に広がる暗闇を見て、その思考を停止した。


 + + +


 ルカンルカンを目前にした『宿場町』と言えるか怪しい町の宿屋で睡眠を取り、疲労が蓄積していた身体の重さを完全に取り除いた僕は、果てから半分だけ顔を出した太陽が発している眩い陽光がカーテンの隙間から侵入する前にパッと閉じられていた目を開けて、特に寝惚けることもなくベッドから身を起こし、さっさと着替えを済ませ終えた。

 今僕が使っている安宿には『サービスの朝食』は付いていない——夕食はプラス料金で付くらしいが割高で、僕は節約のために断った——と受付で宿泊の対応をしてくれた女将さんが言っていたので、ここに長々と留まる理由もなく、太陽が出きっていない、薄暗さを残す町中へと、荷物をまとめてから宿を出た僕は、その足を向けた。


「どこかに開いてる飯屋は…………?」


 昨日の晩に何も食べなかったのが祟ってか、若干の空腹を感じている僕は、訴えを起こしてくる腹部を摩りながら町を散策し、キョロキョロと空腹を解消できる飯屋を探す。

 しかし、六時前という、あまりにも早い時間帯に飯の仕込みを済ませて、入り口に暖簾を掛けているような店舗は限りなく少ないということもあってか、飯屋捜索は非常に難航していた。

 早朝から商いしていそうなパン屋なら開いてるかもな……。

 と、気楽に町中へと出てきてみたものの、そもそもの『パン屋』を見つけることができず。

 僕は訴えを続けてくる空腹のせいで表情を曇らせてしまった。

 こんなことなら宿を出る前に水を飲んでくればよかったなと思いながら、自分の計画性の無さと、昨日の内に町のパン屋くらい探しておけばよかったと自分に恨み言を連ねた。

 そんなこんなで時間は経過していき、宿を出て約四十分が経った頃、僕はやっとのことで町のパン屋を発見し、煙突から立ち上る白煙を目印にしながら駆け足で向かった。そうして出来立ての朝食を購入することができた僕はそれで空腹を満たし、万全な状態で宿場町を出発する。


「ルカンルカンとの国境検問所までお願いします」


「はいよ。片道『八十ルーレン』ね」


「はい」


 町の端っこで待機していた御者に話しかけ、割と安いなと感じられる——オルカストラは全体的な物価が高かったせいかもしれない——良心的な価格の運賃を支払った僕は、眠そうな表情で『紙タバコ』を吸っている御者の馬車のボロめな荷台に乗り込んで「他の客が来うかもしれんからよ、あと二十分くらい待っつもらえる?」とのことだったので、特に急ぎの用などはない僕は「分かりました」と了承する。

 そうして出発待つこと二十分。僕以外に数人の乗客を乗せた馬車の荷台は一杯になり、それを見計らった御者が出発すると声を上げて、馬に繋がれている手綱を波打たせた。

 パシンっという乾いた音と共に、僕達乗客と同じく出発を待ち侘びていた馬達が一斉に歩み始めて宿場町を後にする。

 ガタガタと揺れ動く馬車の荷台。何も言葉を発さない寡黙な乗客達に横目の視線を流した僕は、その乗客達にも聞こえるように、あわよくば彼等彼女等からも情報を得るべく、やや声を張りながら御者に向けて「あの」と言葉を発した。

 

「ああ? どうしただ?」


「あの、人の手足が生えている『大きな鳥』のこと知ってますか? 僕、その謎の鳥を探しているんですけど……」


「人の手足ぃ? んぁー……なんか聞いたことあるべな」


「ど、どこで聞きました……?」


 ほとんどの人が気になるだろう『謎の鳥の情報』を何の脈略もなく、急に求めてきた僕に対し、他の乗客達は一様に『なに言ってんの?』というような怪訝な視線を向ける。その視線を真っ向から受け止めた僕は、彼等彼女等が『謎の鳥』の情報を一つたりとも持っていないことを悟り、すぐさま『何か』を知っていそうな御者へと周囲に配っていた意識を集中させた。

 乗客全員に注目されてしまっている御者は「なんだっけなぁ」と視線を空へと向ける。

 そしてうんうんと何かを思い出そうと、老化で皺だらけになっている顔にさらに皺を寄せて——唐突にハッと「ああ!」と声を上げた。

 その、何か重要なことを思い出したというような御者の声に「お?」と皆が荷台の縁に預けていた背中を外し『何がくるんだ?』という空気の中、御者は言った。


「そういえば『卵』買わねーといけねえんだった!」


「「「「…………」」」」


 僕の質問への返事は、彼が思い出すまでに僕達が想像していた『答え』と違った——全くの想定外のものであった。

 それに至極落胆した僕と他の乗客達は、一斉に荷台の縁に背中を付けて姿勢を楽にし、目的地の『ルカンルカン・国境検問所』まで、ただただ虚無の時間を過ごすのであった。


 そんな軽い落胆で肩を落としている僕を『遙か上空』から観察していた『何者』かは、僕が持つ『物』に狙いを定め、僕の向かう先である西の方角へ飛び立っていく。


「…………?」 


 突然、感じ取った『謎』の視線。それをを追って空を見上げた僕の目に映ったのは、何の変哲もない灰色の曇り空であった。

 それに『気のせいか?』と怪訝に思いながらも前へ意識を向け直した僕は、ようやく到着した国境検問所で少ない入国税を支払い、ジオドラムの中継となる『ルカンルカン』の地を歩む。


「————よし、行くか!」

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