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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『オルカストラ』編〈2〉
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第94話 『ラッパリオ』まで

 最初に手に入れた擬似宝具、名を『空の耳飾り』は、魔王が放つ大砲声による『振動』を防ぐための道具であり、その効果は一定以上の音量を『遮断』するというもの。

 この耳飾りを耳朶につけることによって、音から歌姫の鼓膜を守り、耳に近い『脳』への音振動による攻撃を防ぐのだとか。

 これを最初に手に入れたのは、この耳飾りが『魔王戦』において、最も重要な位置にある擬似宝具だから——らしい。

 まあ、ラーラが言うにはそれは建前で、ここ『オカリナ守護村』を最初の目的地にしているのは単純に、ここが『ミファーナ』と一番近い『守護地』だからだそうだ。

 こう言う建前を言っていたのは、オルカストラの特権階級——貴族の地位にいるオカリナ家に配慮もとい、機嫌取りな側面が強いのだとか。


『オカリナ家は大昔からこの国の貴族でさ、そんなわけで、国の公務員とか重役共がゴマ擦ってるってわけよ』


 擬似宝具である空の耳飾りを受け取って、二人して宿に戻った後、夜が更けてくる時間帯に僕の部屋にやって来て、そう愚痴をこぼしていたのが、なぜか僕の部屋のベッドで眠ってしまった、さっきまでご機嫌斜めだったラーラだ。

 僕の部屋に来た当初は「なんか眠れないから、二人でお話ししましょうよ」とか言っていたのに、ラーラが喋ったのは『オカリナ家への愚痴』やら、その当主であるユビフキさんへの、


「嫌い嫌い、いけ好かない!」


 という不満やらで。僕が、


「まあまあ。国の重役なわけだし、人に言えないことが色々あるんじゃない?」


 とか言える感じではなかったし、つい口を滑らせて、


「ユウメルがー!」


 なんて悪夢みたいな最悪な状況を作り出したくなかった僕が、何かを言おうという気にもならなかったというか、なんというか。

 そんなこんなで、ベッドを盗られてしまった僕は部屋の窓際に置かれた古椅子に音を鳴らさないよう慎重に腰掛けて休息を取り、眠りに落ちているラーラの「スースー」という落ち着いた寝息を不本意に聞きながら、夜空を煌々と照らしている無限の星々を眺めて、一日を終えた。


 * * *


 翌朝。ボーッと見続けていた夜の景色に昇ってきた太陽の光が差し込んで、闇夜が光の届かない果てへと逃げていく。その闇夜の敗走を見届けてから、二時間ほどが経過した頃。

 僕が使うはずだったベッドの上で眠っている、昨晩は綺麗に整えられていた紫髪をバッサバサと扇状に広げてしまっているラーラがピクッと身体を揺らし、ゆっくりと身を起こした。


「…………ぅ……ん。はぁ〜〜〜…………?」


 寝癖だらけの髪を手で梳きながら、キョロキョロと足をむけている方にある壁に視線を右往左往させていた彼女は、おそらく荷物を置いていた場所に自分の物がないことに、十全に働いていない頭を回転させて、不思議に思っている様子だった。

 そんな様子のラーラは、ベッド横の窓際に置かれた、座るにしては硬すぎる座面をしている椅子に一晩中座り続けている、自分を見つめている『僕』の存在に気付いていないようだった。

 僕が同じ部屋にいることに気付いていないラーラは「ふぁわ」と大きく開かれた口を隠しもしない、誰にも見せる気などないだろう、気の抜けまくった『素の自分』を大胆に晒していた。

 そうして、瞼を眠気で塞ぎかけているラーラが、再びベッドに突っ伏して、許されない二度寝をしようとした——その時。その二度寝を阻止するため、僕は『大きな挨拶』を行った。


「スゥーー……おッはようォオォォォ——ッッッ!!」


「ひゃあっ!? ……ぇ? そ、ソラ……? な、なんだ、ビックリしたぁ〜〜〜。ソラかぁ。あ、そうか。昨日の夜にソラの部屋に行って、そのまま寝ちゃったんだ……」


 僕の叫びを聞き、思いっきりベッドの上で飛び跳ねたラーラは、まるで『天変地異』が起きたのかのようなリアクションを取り、声がした方、仁王立ちの僕がいる場所を見つめ、ビックリして暴れているのだろう胸を両手で抑えながら、よかったぁ、と安堵の吐息と声を漏らした。


「そうだよ。ラーラが勝手に僕のベットで寝たせいで、僕は一晩中、このカチカチの椅子に座らされてたんだよ」


「あは、ごめんごめん。だってさ、ソラと話してたらなんだか眠くなっちゃって」


「もう、いいから——早く着替えないと、あと一時間で出発だよ。ラーラが早く村を出るって言って、出発の時間を早くしたんだから、ラーラが遅れたら目も当てられない」


 そう。昨日、擬似宝具を受け取って宿に戻ってすぐ、宿で待機していた兵士の人達と僕に、


「長居はしなくないから、明日の朝早くに出発しましょ。そうね、七時くらい?」


 と言っていたのは、六時になっても二度寝しようとした、目の前にいるラーラ本人なのだ。

 昨日に言ったのは君じゃんと詰める僕に、ラーラは『まあまあ』という感じで立ち上がった。


「はいはーい。よっと。ふふっ……ソラ、寝てる私に『変なこと』してないわよね?」


 僕と同じ部屋で眠った女の子は、みんな同じこと言うのか? それとも僕は関係なしに、異性ということが関係してる? ちょっと前に聞いたことがある内容。寝起きのアミュアさんが言った屁理屈と酷似していることを、悪戯好きというよりも小悪魔的という感じの意地悪な笑みを浮かべながら聞いてくるラーラに、堂々と顰めっ面をする僕は包み隠さない真実を語った。


「僕はラーラが寝てから起きるまで、ずっーーーと、そこの硬い椅子に座りながら外を見てたよ。今までずっとね」


 呆れたような僕の言葉に、ラーラは「ふーん」と言う。嘘は言ってないって分かっているようで、しかし本当かなと思っている様子。悪戯されたかったのか、僕はそう言いそうになった。

 

「ほら、早く支度しないと。もう六時が過ぎてるよ」


「はいはい。あ、ソラはもう朝食は食べちゃった?」


「? 朝食はまだ摂ってないよ。言ったでしょ、ラーラが寝てから起きるまで、そこの椅子に座ってたって」


「そっか。じゃあ、私が着替え終わるまで『ここで』待っててくれない? 一緒にご飯食べましょうよ」

  

 大勢で食卓を囲むのは幸せでいいことだ。

 だから、彼女の誘いを断る理由はない。僕は了承で頷く。


「よしっ! それじゃあ、支度をしに行ってきます!」


「うん、行ってらっしゃい」


「ふふっ、行ってきます!」 


 + + +


 ラーラの私怨マシマシな言いつけを守り、早朝の四時という太陽も昇っていない早すぎる時間に朝食を摂り終えたという、身支度の全てを完了させや兵士たちを除いた、僕とラーラのそもそも眠っていない・遅起きの二人は、一緒に朝食を食べるという口約束のもと、


「あの歌姫様に食べさせるんだから気合いを入れなきゃね!!」


 そう燃え上がっている宿屋の女将さんが用意した、取り立て卵の目玉焼き。その下敷きになっているベーコン。さらにその下敷きになっている焼きたての板パンをゆっくりと平らげた平らげた僕とラーラは、早速という感じで荷物を抱え、一日しか滞在してないオカリナ村を出発。

 僕達は次なる目的地、まるで山のような大樹が張った根っこのような不倒の強さを履いた者に与えるという『地想樹の靴』をなる擬似宝具を守護している『チェロム守護町』へ向かった。


「農作荒らしの魔獣?」


 変わらずに移動していた午後の十五時。

 昼食が果物二つと少なかったせいで、小腹が空いてしまったラーラーが軽食を欲しがった。

 ——というのは建前で。

 極限の空腹のせいか、謎の独り言を『ブツブツ』と発し始めたパリオットさんの体調。主に精神面を心配した僕達が、上司に怒られるから『お腹空いた』と言えないらしいので、仕方なく歌姫のラーラの名前を使い、補給休憩パリオットさんのがてら、近く農村に立ち寄った。

 そこで、兵士の姿を見て駆け寄ってきた村人の話を聞く。

 曰く、村の生命線に当たる、農作物を魔獣が荒らしている。

 そんな球を要する話を聞いて、ある一件から魔族を憎んでいる僕が、無視できるわけもなく。


「ソラ、頑張ってーー!!」


『ブバババアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


「はあッッッ!!」


『グッ、ブボァァ……ァ——…………』


 時刻は午後の一七時過ぎ。軽食を求めて村に立ち寄り、困っているという話を聞いてから、ざっと二時間が経過した頃。僕は村長からの話で聞いていた、大切な農作物を荒らし回っていたという、体高一・八メートル。体長二メートル強の中型の『猪型魔獣』の討伐を完了した。

 僕一人であれば、今日中に息を潜めている魔獣の発見は不可能かに思われていたのだが。

 そこは最強の馬——十二頭の『ニューギルス』が持つ、生物的に突出した嗅覚と聴覚をフルに活用し、たったの二時間で魔獣の棲家を発見することができたのだった。

 そうして、棲家がバレてしまった臨戦態勢の魔獣と、その魔獣を討伐する意思を発露している僕との戦闘に『場違いな応援』をしていたのが。


「危ない時は、ソラが守ってくれるんでしょ?」


 と言って勝手についてきたラーラと、これは自分のせいだ、これは自分のせいなんだ……という自責の念に駆られまくっているパリオットさんの計二名である。


 前者のラーラがする応援はまだ僕の集中力を途切らせなくて良かったのだが、後者のパリオットさんが行う応援には『いざという時は、私が肉壁ならないとぉっ……!』という絶望の意思が込められていたので『怪我なんかできないじゃんか……』と、気が気ではなかった。

 しかし、僕は無傷のまま無事に魔獣討伐を終えたので、僕もパリオットさんも心底ホッとしながら、無事に魔獣討伐を終えたことを、帰りを待ち侘びていた村の人達と、僕達と別れて魔獣捜索を行っていた他の兵士たちに伝えて——


「「「「「カンパーイ!!」」」」」


「「「「「カンパーーイ!」」」」」


 魔獣討伐の報酬だという、採れたての野菜や果物——それに、加工したてだという牛や豚の肉で作られた料理を村人全員で囲んで食べる『豊作祭り』に参加させてもらった。


「このお肉もお野菜も美味しいですぅっ……!!」


「ぱ、パリオットさん……泣きすぎですよ……」


「そうよ。こんな美味しいものを食べられてるのは、魔獣を倒したソラと、これを作った村人達——それに、この村に『立ち寄るキッカケを作ったパリオット』のおかげじゃないの」


「ら、ラーラ様……!! へ、へへ、そうかもし——」


「「「「「え? この村に立ち寄ったのは歌姫様が休憩をするためでは?」」」」」


「あ、へぇ……? あ、うぅ? んと、えーっとぉ……」


 串料理を食べていたラーラが、ここに立ち寄る原因になったのがパリオットさんだということをつい口から漏らしてしまい、それに即座に反応したのが、恐ろしいほどに呼吸が合い、凄まじい眼力を発している、パリオットさんの『上司』に当たるオルカストラの上級兵士たちで。

 そんな彼等彼女等の剣の視線を浴び、凄まじい量の冷や汗をダラダラと流し始めたパリオットさんを見て、僕はヤバい空気を即座に察して席を外し、ラーラは『あ、やば』と、言っちゃいけないことを言ってしまった顔で、立ち上がった僕の背中に隠れながら、同じく席を立った。


「ま、待ってください、ラーラ様ぁ、ソラ様アアアアアアアアアアアアァァァ——…………」


 こういう笑える一悶着があった三日間の旅路を終えた、僕とラーラとオルカストラの兵士達。

 それに、見捨てられた結果、こっ酷く叱られたことを逆恨みしている、涙目のパリオットさんを合わせた『計八名』は、二番目の目的地であった『チェロム守護町』に到着し——。

 特に何事もなく、二つ目の擬似宝具『地想樹の靴』を賜った。

 そして、第三の目的地。前に僕が立ち寄った『ラッパナ』という町の姉妹都市に当たる『ラッパリオ』という守護町へ向かうのだった。

 そんな順調な擬似宝具を求める旅路の中、僕の胸の内に引っ掛かっていること。

 それは、今も何も言えずにいる、この国の国宝『金の腕輪』のこと。

 これを言わずに長旅を終えるわけにはいかないと思っている僕は、次の守護地に着いたら言おうと自分の心に誓って、暗い闇夜が満ちる時、また、ラーラに乗っ取られてしまっているベッドの代わりの椅子に腰掛けながら、ゆっくりと目を閉じた……。


 + + +


「知ってる? ラッパリオには私の『友人』が居るのよ。ソラは気になるでしょ? 私の友達のこと」


 今日中にラッパリオ守護町に到着するというところまで進んできたいた僕達——ラーラ一行。

 最強の馬に襲い掛かろうという魔獣はいないため、特にやることもない移動時間の中。

 唐突に友人が居るという、こう言っては悪いが僕にとって至極どうでもいいことを絶対に聞いてほしいという顔で言ってきたラーラに僕は怪訝な顔を向けつつ、歯に衣着せぬ本心を語る。


「いや、別に気にならないけど」


 素っ気がない僕の返答を聞いたラーラは『ガーン』という、想定外の返答に衝撃を受けたような表情を浮かべていたものの、すぐさま不服だというように両頬を膨らませた。


「ムッ、なんでよ! 聞いてよ!」


「ええ……聞くのはいいけど、小説の話は勘弁してよ」


「薔薇騎士の話はソラとまたしたいけど……ラッパリオにいる『パティ』は小説とか読まないから、そこは大丈夫」


「いやいや『またしたい』とか不穏なこと言わないでよ」


 なんで、薔薇騎士にこだわるんだよ……。

 僕はその話についていける気がしないから、マジで勘弁してほしいんだが。


「いいじゃん! 私がソラと話したいんだから」


「やだよ」


「いいの!」


 ご、強情すぎる……! どれだけ『薔薇騎士と接吻』が好きなんだよ。まあ、操縦兵のパリオットさんとは毎時話せる感じではないし、ボイラさんは……僕と同じ感じな気がするし。

 自分の好きな物の話ができる機会が少ないということは僕にも何となく理解できるけど、何でそんなに話を聞きたがらない僕と『小説』の話がしたいんだ……?


「じゃあ、聞くだけで……返事とかしないからね?」


「それは嫌!」


「なんでさ!」


「ソラの声が聞けないじゃん」


 何じゃそりゃ! なんで僕の声を聞きたいんだよ……!

 薔薇騎士(以下略)の話はついていけないんだってば。


「……じゃあ、薔薇騎士は勘弁して」


「それも嫌!」


 ダメだ、ラーラは自分の決めたことをトコトン貫くタイプ。今の徒手空拳の僕では戦いにすらならないじゃないか。

 理詰めではなく、感情のままに発言するラーラに観念した僕が首をガクリと折ると、ラーラは『勝ったな』という満足げな表情で大きく鼻から息を吐き、組んだ両腕をグッと持ち上げて、自分の人並み以上に膨らんでいる胸を張った。


「はぁ…………えっと、パティ? っていう人がラーラの友人ってこと?」


「そう、パティは面白いわよ。なんかチャラチャラしてるのよね」


「それはなに、変な人? それとも奇抜な格好をしてるだけ?」


 チャラチャラしてる。そんな漠然としたことを言われても、その人の輪郭は浮かばない。悪い意味でチャラチャラしているなら、僕は避けて通りたいのが本音だ。

 

「奇抜な格好というか、痛そう、って感じ」


「い、痛そう……? なんか全然想像つかないんだけど」


 「見てのお楽しみってことかしらね」


「ええ……」


 金の腕輪のことを言えないまま話疲れてしまっている僕に、謎に体力が有り余っているラーラが何でもない話をし続ける。そうして、僕達は第三の目的地。

 ラーラの友人が居るという、ラッパナの姉妹都市『ラッパリオ』に到着したのであった……。

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