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83.モンティゴ城

 

 チェスは古城に連れて来られていた。帝国の端にある辺境。すなわち、魔物や魔獣の生息域と隣接する未開拓地である。

 その前線基地として兵士や冒険者が拠点にしている古い城。


 二人は外壁の上に立っていた。

 どんよりとした空模様よりも辛気臭い灰色の城。

 そして草の生えない荒涼とした大地。


「ようこそモンティゴ城へ。さぁ、彼らが待っている」


 滞留している依頼の中で、今回チェスが処理を行うのは討伐依頼。

 しかも、継続して任務に当たっている他の冒険者のサポートが仕事だ。



「これから会うのは高位の中でも特別な人たちだ。ぼくらの先輩だよ。グランドマスターが他所から集めた、精鋭中の精鋭の方たち」

「分かっている」


 事前に資料は読んでいる。


 階段で城壁を降り、正面入り口に入る。

 そこに慌ただしく荷物を運び、走り回る兵士や冒険者たち。

 彼らその他大勢とは別種の存在が四人。


 階下の椅子に腰かける男。

 ドワーフだ。自身の身体ほどもある巨大な戦斧を抱えている。



(大地をも裂くという豪傑。S級の重戦士。『怪力無双』ガガゴルン)


 その上の階段の手すりに寄りかかる女。

 祭司のような独特な民族衣装を身にまとい、額には一本角。

 鬼人族。ヒョウタンからぐびぐびと酒を飲んでいる。



(天候を操る精霊魔法使い。S級『天変地異』ラシャラン)



 階段の中腹に座る巨躯の男。

 上裸に裸足と軽装だが、その肉体が防具を必要としないことが一目でわかる。

 分厚い筋肉に黄金の毛並み。

 獣人だ。


(元闘技者でチャンピオン。『猛虎』バゼード。天授技能(スキル)無しでSS級まで上り詰めた肉体最強)


 階段の踊り場。

 一人佇む女性。


(ん? あれは……)



 精霊のような神秘的美貌の剣士。


 チェスが視線を送ったのはほんの数秒だったが向こうが気が付いた。


 視線が合い、エルフがチェスに近づいてくる。



「D級の異邦人か……初めてかい、この城は?」

「……え?」

「迷っていたのではないのかい? それとも私に見惚れていたのかな、坊や?」


 不敵な笑みはいじらしく蠱惑的。



「い、いや……昔の知り合いに似ていて……」

「ほう、エルフの知り合いが? いや、私ほどの美貌が他にも?」

「おれの……剣の師だ」

「ふぅん? つまり、見惚れていたんだね。いいよ、見惚れても」


 エルフが悩殺ポーズをとる。

 チェスの記憶の中にある師のイメージとは似ても似つかない。それが逆にチェスをホッとさせた。



「おれの師はもっと奥ゆかしくて品があった。厳格で凛々しく気高い本物の英雄だ」

「せっかくサービスしたのに。私が違うみたいで傷つくじゃない」

「あ、あのエメラル様。彼は応援に来た例の」



 ヴァレオンは話が妙な方に進むのを恐れて話に割って入った。


「ふぅん? この子が?」


 エメラルと呼ばれたエルフは青い眼を細めてチェスを観察する。

 背には槍のごとき長く細い剣。


(あれがエルフに伝わる伝説の宝剣『天叢雲(あまのむらくも)』。SS級剣士、『草薙』のエメラルか)


 ステータスは当然のようにアイテムで隠されている。



「おい、ヴァレオン。どういうこったい!?」



 ガガゴルンがドスの効いた声で静かに言い放つ。


「その坊主はまだD級だろがい!」


 ガガゴルンはチェスが助っ人であることが認められない様子だ。



「階級はともかく強そうに見えないです。死にたいですか?」



 ラシャランが追従する。



「待ってください、彼は特別なんです」

「ヴァレオン、貴様が加われ。その方がまだ可能性がある。そいつはすぐ死ぬぞ」



 バゼードは笑いながら言い放つ。



「……ちょ、待ってくださいってば!!!」

「よせ、ヴァレオン。実際おれは弱い。彼らに比べれば大きく劣る」

「私たちと比べる必要はない。でも、本当に強くないのかな……?」

「何だエメラル? おれ様の鼻が信用できんのか?」

「いやいや君の鼻は信用しているけれどね。実際見た方が早くないかい?」



 エメラルは瞬く間に背の長剣を抜き、チェス目掛けて振り切った。


 切った大気が押し戻り強烈な音を放った。

 チェスはその一振りを避けていた。



 エメラルはいじらしい笑みを浮かべた。


「ふぅん? 並みの奴なら死ぬぐらいの勢いで斬ったんだけどね?」

「手を抜き過ぎじゃろがい」

「受けられないのなら今回の戦闘には役に立たないです」


 二人のS級はチェスの評価をDかC相当と判断した。

 しかし、唯一バゼードはチェスが今したことのおかしさを理解していた。


「メイビスめ。面白れぇ奴知ってんな」


 彼はにおいで魔力やレベルを推し量れる。

 眼で見た事実がその評価に反した。

 滅多にないことだ。

 バゼードは気配をころし、音も無く階段から階下へと降り立ち、チェスの背後を取っていた。

 爪を立て、脇腹へと突き立てる。


 爪がチェスのマントをかすめた。


(避けやがった! ならこいつはどうだ!!)


 追撃の蹴り。

 並みいる強敵を沈めてきた荒々しくも武として練り上げられてきた回し蹴り。

 それもチェスは鼻先三寸で空振りさせた。


 チェスは反射的に拳を繰り出した。

 動きが早いわけではないが、バゼードはなぜかそれを避けられず腕で受けた。


「ぐぅ!!?」


 一瞬の出来事に呆気に取られていた周囲。


「おもしれぇ……腕が痺れたぜ」

「どうなっとる?」

「手抜きですよね?」

「いや~、なるほどね。確かに変だね。チェス、君はなぜバゼードの動きがわかるんだい?」



 圧倒的ステータスで劣るチェスが獣人のバゼードに対応できた理由。

 それを話すわけにはいかなかった。


 格闘士として活躍していた時代。

 身体能力の高い獣人は最も対戦回数が多かった。


 動きが分かったのではない。

 魂に刷り込まれた反応に身体が動いた。


(ミラ婆との特訓で、やっとまともに身体が反応できるようになってきたと思ったが……身体が勝手に動いてなかったら死んでいた)


「ククク、いや分かった。てめぇ、もと闘士だな? 天授技能(スキル)云々があろうと、この反撃。洗練された体技だ。おれの呼吸に合わせて意識の間に割り込ませる。加えて芯に残るこのダメージ。相当鍛錬を積んだな」

「ああ。そうだ」


 適当に肯定したチェスにヴァレオンが驚く。

 チェスも今の突きでなぜバゼードがダメージを負ったのかわからない。


「ち、ちがうだろ!? 適当だなぁ……あの、彼は今回例の設備を彼に見てもらうために呼んだのです」

「何? するとてめぇ、魔工技師か?」

「まぁそんなところだ」

「なるほどだわい。自衛ができる学者かい」

「その若造が?」

「ふぅん……」


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