81.爆発物生成
帝国の片田舎にある山中。
そこから轟音が鳴り響き、大気を伝い麓の村にまで届いた。
それを聞いたチェスは横にいた村長に話しかけた。
「山賊は一掃された」
帝国の各地で大規模な爆発が連続して起きていた。
爆発という現象が火山地帯以外では物珍しく、原因を事細かく伝える手段を持つ者はいない。それゆえ、山の怒り、天罰などと呼ばれた。
しかし、村長は知っていた。
なぜなら自分が依頼したからだ。
度重なる山賊の被害。
手練れの傭兵崩れやら元軍人らが徒党を組めば、並みの冒険者にはどうすることもできない。田舎の危機に軍は動かない。
そんな折、現れた異国の冒険者。
一人で頼りない。連れてきた鎧の男の方が強そうだと感じた。
男が準備だと言って村を馬車で出て行き、すぐ戻ってきた。
何がしたいのか不明だ。怖気づいて逃げてきたのではないかと疑っていた時だった。
ドラゴンの咆哮か山が噴火したのかと思うほどの轟音。
村長の中で全てがつながる。
山賊はこいつが爆破したのだ。いや、帝国各地で山賊や盗賊団を爆破して始末している狂人はこの男なのだと。
だが、口をつぐんだ。
「一応、生き残りがいないか見てくる」
◇
チェスの手口はシンプルだった。
山賊の縄張りに荷馬車いっぱいに荷物を積み込み、通過する。
襲われたら荷馬車を置いて逃げる。
山賊は荷馬車をアジトに持ち帰る。
そこで荷を解くと火花が発生するように仕掛けておく。
積み荷は一見全て黄金に見えるが実は『錬金加工』で生み出した爆発物だ。表面は金メッキなため、注意して『解析鑑定』しなければ気が付かない。
連鎖爆発が起き黄金に眼がくらんだ山賊はアジトごと吹き飛ぶ。
七回もやると爆発の規模や威力の調整は完璧だ。
チェスはこれを『テイクアウト自爆』と呼んだ。
手早く爆発の中心地へと向かい、山を駆けあがると、巻き上がった土埃や粉々になった木の破片が舞い散り、視界を遮る。
『鷹の目』と『解析・鑑定』を駆使すれば遠巻きにも確認作業はすぐに終わる。
「ほう……」
生きている者がいた。
「く、くそ!!」
「『硬化』を持っていたか。とっさに天授技能で防いだのか」
「て、てめぇ……よくも、こんなことして卑怯だと思わねぇのかよ!!」
「別に」
首が落ちた。
取りこぼし無し。
《サザン、終わった。回収してくれ》
《ああ、お疲れ》
『思念伝達』で繋がったサザンがヴァレオンを寄こす。
「荷物を念入りに確認する山賊がいたらどうするんだ?」
「別の方法を考える」
「君が怖いよ」
チェスはこうしてメイビスの未達成任務ファイルを減らしている。
ギルドに戻る。
メイビスがファイルを開き、一枚抜き取る。
「チェスの仕事は早いけど、お金がかかるわ」
「文句言うな。必要経費だ」
チェスが錬成した爆発物は希少な鉱物と火薬を混合しているためそれなりに金が掛かった。チェスはメイビスに領収書を出せばいいからと贅沢に爆薬を生成した。
「山賊のアジトから宝物を持って帰ったらもう少し黒字なんだけれど?」
「そういう欲が出るからダメなんだよ。少なくとも失敗を繰り返している任務で採算を優先させること自体甘い。早期解決して、別の利益還元率の高い確実な任務で冒険者を回すことを考えろ」
「イヤー、チェス商人みたい。厳しい。イヤー」
「それより忘れるなよ」
「はいはいわかっているわ。老師の説得ね。でも、このファイルが空になったらだから」
チェスには成果を出さねばならない理由があった。
聖遺物の研究者、老師をメイビスから説得してもらう。
その条件としてチェスはメイビスが抱える未解決案件を全て処理する。
「でも『持ち帰り爆破』はもう使えないわ」
「次は何だ?」
「そろそろあなたには他の冒険者と組んで魔物討伐に参加してもらうわよ。帝国には魔物の侵入を許し、撃退に失敗した場所がいくつもあるわ」
これまで、高位冒険者が何人いても攻略不可能とされた討伐任務があった。
メイビスはその打開策としてチェスを送り込むことにした。
「どう? 無理強いはしないわよ」
「やるさ。そのためにおれを雇ったんだろう?」
チェスは笑った。
チェス個人の力は前衛としてCかB級レベル。後衛としても似たようなものだ。
だが、A級レベルをS級にすることはできる。
今のチェスは他人と組むことで本領を発揮する。
「でもその不遜な態度はやめなさい。君が組むのはA級以上の実力者たちなんだから」
「そうだな。そうしよう」




