79.刹那の一撃
チェスは顔合わせを終えて、フテナに戻り慌ただしく過ごしていた。
まず、近くの村の魔獣討伐依頼を遂行した。
チェスが行かないと相変わらず誰も依頼を受けない。
「ちっ、めんどくぇな」
そもそも近隣の村の警護をしていない兵士が悪い。チェスはそう決めつけることにした。
エド・ムーアに直訴し、兵士の巡回をさせることにした。
エド卿は無論渋い顔をしたが、チェスの仕事(薬草採取、鍛冶両方)が滞ると脅したところ納得した。
「チェス、いっそのこと兵士にならんか? 好待遇で雇ってやるが」
「興味ねぇな。おれにはやることがある」
チェスにはやることが多い。
エルルクに報告書を書いて送るのも遅らせられない。
前世の知識や経験は現代では途絶え、失われていることが今回帝国に赴き、改めて実感した。
有用な情報を書き足していくと全く先へと進まない。
学院には冒険者を雇っているので結構な出費である。エルルクが出せばよいようにも思えるが、彼女からしたら自分で来いというところだ。だがチェスは面倒なので金を払って済ませる。
シルヴィの魔力回復の手段についても、解決策を探し続けなければならない。
チェスは魔力喪失の呪いを解くのではなく、呪いの効果を弱める神の加護や奇跡に期待した。
カーミラに起きた奇跡。神からの恩恵。
神殿がもたらす聖法術。
真っ先に思い浮かんだのは『浄化』の奇跡だ。
神殿の神官だったとき、巫女や高位の神官が使っていた、魔を払う聖法術。
その奇跡を宿した聖遺物や神器。この世界にはそう言った神の力の一端がそこかしこにある。
例えば都市を護る結界装置。
結界魔術の応用ではあるが、魔操術の盾の類と違い、特定のものだけを遮断できる。
その方法について、全く知らないが要するに聖法術の類も魔道具にできるなら、『浄化』の魔道具もある。それが無くても『浄化』の原理を解析し、聖法術を道具に落とし込んだ実物を検証すれば作れるかもしれない。
神殿で尋ねてみたものの、そんな都合よく見つかるわけもない。
なら帝国へと活動範囲を伸ばすというのは当然の戦略だ。
チェスたちがいるこの国は所詮は地方の小国だ。
対する帝国は領邦国家で、国単位の集合体。
可能性は大いにある。
ならばやることは1つ。
帝国ギルドの信頼を得る。そのために力を蓄えること。
忙しい合間も、一切トレーニングは怠らない。
カーミラ相手の戦闘。
地下迷宮でのゴーレムとの一騎打ち。
ラベルのとの戦闘での反省点を加味して、チェスは淡々と牙を研いだ。
課題は明白。
『一撃』で倒せない相手がいた場合、チェスは支援に回るしかない。
支援の付与魔術の技量を高めるか。いや、一生を付与に費やした前世の技量はこれ以上向上しない。伸びしろがあるとすれば、現代の自分自身。
獲得術式『魔剣術』だ。
剣に魔力を注ぎ、その強度と切れ味を増し、魔力の斬撃を放つ。
しかし、元々剣の才能が乏しいチェスには至難の業だ。
『一撃』には全身全霊を込めた集中の極致が求められる。そんな中、別のことに意識を割くのは返って『一撃』の威力を損なってしまう。
ゼータやグレイに魔法と武器術のコツでも聞けばいいのだが、何となくプライドが邪魔して聞けない。
そもそも、二人は本物の天才ゆえに他人に教えるのは向いていない。
特に師に習ったわけでもなく『魔装武闘』を習得した連中だ。
「チェス様、僭越ながら差し出口をさせていただきます」
「はい」
シルヴィは無心で刀を振るうチェスに話しかけた。
「高名な剣士の話です」
チェスは貴重な教えだと刀を鞘に納めて汗を拭いてキチンと向き合った。
「達人はまず自身のリソースを把握すると言います」
彼女の話している剣士とは母国ローア王国で王女だったころの騎士団長。
「リソース……?」
「一度にできることは何か。敵の把握、間合い、適切な威力、次の動きの準備……魔力の操作も含みます。私は剣士では無いので確かな理解ではないかもしれませんが、魔法でも同じような考え方を致します。自分の最大の威力とは、一瞬で複数のことをどれだけ詰め込めるのかと」
それだけでチェスには十分だった。
(さすがはシルヴィさん)
「ありがとうございます」
チェスは気付きを得た。
動きが明らかに変わった。
求めらる練度は天授技能『身体強化』の練度。
チェスはこれを肉体を鍛えることである程度向上に成功していたが、前世では追い込まれたときの切り札でもなく常に使っていたためそうしていた。
(使うのは一瞬で良い)
切っ先に力を乗せる一瞬。
そこに『身体強化』を合わせる。
まずはそこから。
タイミングを合わせて数回。
放った『一撃』にすさまじい手ごたえを感じた。
「これは……」
思い描く理想の『一撃』を放てた。脳裏に焼き付いてた師グラスのものと被る。
「おれはまだ強くなれる」
まだ魔力を込めていない。
自分の力への期待にチェスは身を震わせ、笑みを浮かべた。




