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73.メイビス 十傑の竜人

 


 冒険者たちはラベルの首が落ちて、ようやく事態を把握した。


 いや、把握からは程遠い。

 理解は追いつかない。



 ヴァレオンは仕事柄多くの高位冒険者を運搬してきた。その中にはS級やそれ以上の存在もいた。


(ぼくが見てきたどの冒険者とも違う。この人は今、ラベルを攻撃してもいない。ただの存在感だけ圧倒した。……ラベルは自殺? ドラゴンに睨まれた小動物が死ぬみたいに。あのレベルの人間が、彼女の前では無力な畜生と同列ということなのか)



 皆身体が震えていた。手足が冷たくて感覚が無い。

 しかしそのプレッシャーはすぐに掻き消えた。カーミラの容姿が変化する。


「な、なんだ? 変わった……」


 赤い髪は磨かれた剣のように眩しい銀色へ、眼は澄み切った空の色に変わった。


「危うかったね。でも、私の権能で死なない人間では仕方ないか」



 カーミラ・アル=ハノーヴァ(126032)

 種族 天使族

 職業 学士

 レベル 2/100

 獲得術式『魔操術・極』『闇魔術・極』『錬成術・極』『創薬術・極』『火魔術・天』『水魔術・天』『土魔術・天』『雷魔術・天』『治癒術・天』『結界術・天』

 加護【聖神の慈悲】



 瀕死の重傷を負っているチェスを優しく抱き寄せポーションを飲ませた。

 すると、傷がふさがり、折れた腕と足が元に戻り、血色も良くなった。


「あれだけの傷が一瞬で……まさか幻の『霊薬』か」

「……助かったミラ婆」

「生きていて何よりだよチェス君。でも、私の力を借りるなんてまだまだだね。足手まといがいたとしても」

「その足手まといも頼む」

「どれ……」



 カーミラはポーションを使わず、応急処置だけした。

 高度な『治癒魔術』でサザンとウルトンの身体のズタズタの身体が正常に戻った。


「身体が動くぞ」

「何て治癒魔術なの」

「チェス……誰なんだ、この人」



 カーミラはスッとチェスの後ろに隠れた。



「うちに居候している、ただの引きこもりだ」



 ◇


 実力認定試験はそれ自体が無かったことにされた。

 多くの冒険者が死亡し、参加者で生き残ったのはチェスのみ。

 そのチェスも、迷宮の魔導装置について知り過ぎていたことをとして、評価無しとなった。


 つまりはD級に残留とされた。



 ただし、懸賞金は正当に配分されてチェスに支払われることになった。

 そして、その実績は着実に冒険者ギルドの本部レベルで知れ渡ることとなった。

 ヴァレオンをはじめ、ギルドの信頼が厚いB級冒険者たちの報告。

 そこにはチェスの試験中の評価と、ラベルとの戦闘時に見せた多彩な技能について記録されていた。


 幹部クラス、この報告書を読める地位の冒険者ギルドのグランドマスターたちは、チェスとの接触を試みた。



 その筆頭はヴァレオン達が拠点を持つシーア帝国の帝都冒険者ギルドのグランドマスター、メルビス。

 彼女はヴァレオン、サザン、ウルトンの三人を呼び出した。



「そのD級、帝都に迎え入れられない? ねぇ、ヴァル?」



 まるで女王と騎士。

 地味な執務室には不釣り合いな派手なドレスで着飾る女。

 帝国では『十傑』の一人で、竜人族の元SSS級冒険者。


 その前には黒い金縁の鎧を着こみ姿勢を正し立つB級冒険者ヴァレオン。


「グランドマスター、それはこちらの誠意次第だと思いますよ。話の分からない人ではなかった」

「そーお? なら、Bランクにまで昇格させるのはどうかしらね?」

「さぁ? ぼくは彼がランクを気にしているようには見えませんでしたけど。むしろ、実力を隠したがっていたみたいです」



 メルビスは大きくため息を吐く。その息吹に火炎が混じり、机を焦がす。



「……ならお金は?」

「今回の懸賞金で相当儲かったでしょうけど、ある分には困らないでしょう。ただ、彼は『治癒』が使えました。稼ごうと思えば稼げるでしょう」

「そうね……なら、女は?」

「絶世の美女が傍にいます。それも二人も。片方は怒らせたらまずいですよ」

「あら、私よりも?」

「いえ、グランドマスターの方がぼくは好きですよ」



 メルビスは満足そうにヴァレオンの頭を撫でた。



「でも、怒らせたらまずいのはあっちですね。正直、一瞬化け物に見えましたよ」

「そう……難しいわねぇ」



 サザンがウルトンと共にソファに深く腰掛けながら二人の会話に割り込むように手を挙げた。


「はい、サザン」

 《きっと情報が一番喜ばれるよ》

「どうしてそう思うの?」

 《『思念伝達』で一番会話したからわかる。あいつは計画を立てるタイプだ。敵と戦う前にまず『解析鑑定』する。慎重で、いつも後ろから戦闘分析をしていた》

「君はどう思う、ウル?」



 急に話を振られたウルトンはめんどくさそうに「自分が?」という顔をする。



「あ~、まぁ、頭いいやつ? 冒険者っぽくなかったな。いいんじゃねぇの情報。いい仕事、こっそり回してよ。ヴァルが送り迎えとかすれば、受けるんじゃねぇ?」



 この案が採用された。

 通常ならD級が受けられない任務や、手に入れられない素材、アイテムの情報を定期的に受け渡す代わりに、任務を依頼する。



 その申し出をヴァレオンたちが伝えるため『転移』してチェスを訪ねた。



「というわけなんだけど、どうかな?」

「ああ、助かる」



 他の都市のギルドとは違う提案したため、チェスはあっさりとこの案を受けた。


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