71.助っ人
サザンはただ結界の外で魔力を込め、『思念伝達』でヴァレオンに状況を伝え続けるしかなかった。
《まだか? もう持たないぞ》
彼女の眼から見て、この状況は奇跡に等しい。
D級冒険者が『テイジンの切裂き魔』と互角に渡り合っている。
すでに十分すぎるほど時間は稼いだはずだ。
あとはS級冒険者を連れてくるだけだ。しかし、一行にその気配がない。
《どうなっている? おい、聞こえているだろう、ヴァレオン!!》
《冒険者ギルドはぼくがS級を連れてそちらに戻ることに難色を示している》
《なんだと? 私らを見捨てる気か?》
《そこは絶海の孤島だ。『転移』の天授技能を用いなければ、脱出し陸地までたどり着くのは容易ではない》
その説明を聞いてサザンは全てを察した。
チェスから伝え聞いたステータスをありのまま伝えたことが仇になった。
確かにラベルを確実に葬るなら、迷宮を閉鎖し、監視し、脱出して疲弊しきったところを狙う方が良い。それまでは極力強力な天授技能を持つ者は接触を避けるべき。
いくら強かろうと居場所とステータスが分かっていれば対策の打ちようはある。
冒険者ギルドはあえて死地にS級と希少な『転移』持ちのポーターを送り込む理由がない。
《今、ぼくは拘束されている。すまない》
《いや、わかった》
見限られたという怒りは沸かない。
ギルドの判断は正しい。
1つ懸念があるとすれば、チェスだ。
ラベルと渡り合える冒険者。
その知識と技能はサザンがこれまで見てきたどの冒険者とも異なる。
ステータスではラベルに大きく劣るが、それを補う豊富な付与魔法と卓越した格闘能力。
純粋なパワーとスピードではるかに格上のラベルに対し、挌闘技術の上手さで対抗している。
ただウルトンを戦わせていたわけではない。チェスはラベルの戦い方を観察して動きの癖を掴んでいた。
何らかの天授技能を持っているはず。
それがラベルの手に渡ってしまえば、そもそも自分たちが犠牲になることで生まれる勝機も消えてしまうかもしれない。
サザンは非情な決断に迫られた。
ラベルにチェスの天授技能が奪われないようにするには、自らの手を汚すしかない。
「知ったことか」
彼女はその考えをやめた。
自分たちを見捨てたギルドにそこまで義理立てするなんてそんな優等生ではない。
自分はあこがれで冒険者になった。
なら、最後まで憧れた冒険者らしく足掻こうと決めた。
《チェス、ウルトン、悪いが救援は来ない。私らは見放された》
《おれたちに死ねっていうわけかい》
《冗談じゃない。おれは死ぬわけにはいかない》
《こうなったら、私たちで倒すしかないだろう》
サザンは『思念伝達』をやめて、装置の発動に専念した。
《いや、待て!!》
チェスは冒険者だ。
だが、冒険しないのが真の冒険者だというのが持論だ。
根性で倒せる相手ではない。
状況はチェスかサザンの魔力が尽きれば一変し、一気に決着がつく。そしてその時はもうすぐそこまで迫っている。
チェスは現実的な判断をした。それをサザンに伝えた。
◇
冒険者ギルド内で拘束されていたヴァレオンは『思念伝達』で作戦を聞いて、即実行した。
「悪いな。仲間のためだ」
見張りを倒し、『転移』した。
そこはチェスを迎えに行った小さな街。
「はぁ、はぁ……本当に大丈夫だろうね……」
指定された場所はギルドの屋根から目視できた。
街の外れに見える朽ち果てた城壁の残骸。
『瞬間移動』で到達。
そこからは走る。
すると古いながらもよく手入れされた一軒家が見えた。
すぐに家のドアを叩く。
「誰か! 誰かおられませんか!!」
「はい」
出てきたのは目もくらむほどの美女だった。
「あ、あなたがカーミラさんか?」
「いや、違いますが……失礼ですがどちら様でしょうか?」
「チェスが今死にかけている。カーミラという人の力を求めている」
ヴァレオンには一刻の猶予もない。だが、この説明で納得してもらえるか自信も無い。
「お願いです。信じてください。ぼくの仲間も死にかけている……そのカーミラという人ならどうにかできるはずなんです」
「いいよ。わかった」
ヴァレオンは背後にいる女に気が付かなかった。声を聴くまでは。
「カーミラ様?」
「チェス君が私の力を使ったようだ。どうやら非常事態、それも冒険者ギルドが匙を投げるほどなんだね?」
彼女は異常事態を察知していた。
「すいませんが、詳しい状況は説明する時間はありません。S級冒険者でも死ぬかもしれない。あなたの命の保障はできませんが連れて行きます」
「あはは、命の保障ね。おもしろい」




