70.迎撃
ラベルは浸っていた。
高揚感に。
天授技能を奪い、高みへと至ろうとも、戦いの愉悦を味わえることは稀だ。
強者を倒してこそ、自らの強さを実感できる。
「よいぞ。よいぞ」
天授技能を集める作業は快楽のための狩りへと変わった。
「さ~て。S級を連れてくるまでワシから逃れられるか? 見ものじゃのう」
ラベルのステータス。
ラベル(180)
種族 只人
職業 冒険者
レベル 62/25
天授技能 『技能喰』『不老』『限界突破』『魔力増強』『解析鑑定』『認識阻害』『回復』『烈風』『魔装』『空歩』『威圧』『暗視』『鉄壁』『発火』『炎舞』『加重』『吸水』『耐久』『落石』『聴覚強化』『剛腕』『身体強化』『疾風』『解毒』『魔力盾』『操虫』『超視力』『振動感知』『魔力障壁』『振動刃』『視覚共有』『魔力感知』『直感』『軟体』『痛覚遮断』『帯電』『放電』『武装強化』『火事場』『疲労軽減』『獣眼』
殺しのキャリアが長い。
『テイジンの切裂き魔』としての蛮行は半世紀続いているとされているが、実際は100年以上続けている。
長きに渡り、名前や地域を変えてひたすらに天授技能を奪い続けてきた。
迷宮内で逃げる相手を一方的に狩ることはラベルの常とう手段。ここなら死因は判別しにくく、ラベルだけ生き残っても運の要素が味方したと冒険者ギルドを納得させられる。
しかし、今回の件でラベルの素性はヴァレオンから伝わる。
『テイジンの切裂き魔』として活動することは最後になる。
その最後を飾る相手として、チェスは選ばれた。
「わしの背後を取ったのは技術。わしの首を切った技……あれも単なる剣技。わしの脳天を蹴ったのも体術。じゃが、あの小僧には何かある。わしの知らん天授技能か……何が出てくるかわからぬのも一興」
天授技能『疾風』で風のように走り、『超視力』『聴覚強化』『魔力感知』で周囲を索敵し、複雑な迷路、現れる魔獣をものともせず突き進む。
向かうのは上層。
上へと戻っている。
「迷宮を脱出する気か。そうだろうな」
判断としては正しい。迷宮内での立ち回り一つとって見ても、ラベルとその他では実戦経験が違い過ぎる。
ただし、迷宮の外に出ても勝機があるわけではない。
これは単なる時間稼ぎだというラベルの予想は外れた。
チェスたち三人は一階層の大広間で待ち構えていた。
「ぬ? 逃げたのかと思っとったぞ」
《いまだ。やれ》
ここの魔導装置がまだ生きていることは確認済みだ。
部屋の魔道具をサザンが起動させた。
「これは……天授技能を封じる装置か!!」
ラベルが常時発動していた天授技能が解除されている。
「感心したぞ。ここの装置をどうやって見つけた? いや、知っていたのか……それがお前の天授技能か?」
チェスは単に前世で利用したこの施設について知っていただけだ。
この部屋は大講堂。
各地の魔導師が集まり会議をした場所だ。その際、天授技能で情報を盗まれたり、印象を操作するなどの不正を防ぐ目的で部屋には天授技能封じの結界装置が備え付けられていた。
「天授技能を封じればワシに勝てると思うたか? 何も変わらんよ ぬはは!!」
レベルによるステータス補正は天と地の差がある。
ラベルはまず装置を起動させているサザンを狙った。そうしなければチェスの天授技能を奪えない。
しかしその間にウルトンが割り込んだ。
先ほどはラベルの顔面を天授技能で殴り飛ばして拳を破壊された。天授技能が無ければ相手になるはずがない。
「ぬぅ!?」
ウルトンの拳がラベルの顔面を弾き飛ばした。
不測の事態に困惑する。
(拳!? 『治癒』したのか? 誰が? いやそんなことより……)
先ほどより明らかに威力が増している。
それに、今度は殴ってもウルトンの拳は砕けていない。
「舐め過ぎだぜ、じいさん」
ウルトンが力を隠していたのかと考えたが、そんな理由が見当たらない。
そもそもステータス勝負でラベルと渡り合える人類などそうそういるはずがないのだ。
「ぬぅぅ……天授技能は封じるが獲得術式は使えるということか。他人に魔法を付与する術式。貴様、古流魔術『付与術』を使う魔導師か」
ラベルの予想はおおよそ当たっていた。
チェスは付与魔術でウルトンを強化していた。
その力には当人のウルトンも驚いていた。
(任せてみたが、本当にやりやがった。こいつ……実戦で使える付与魔術師だってのかよ……見たことねぇぞ)
付与魔法に用いるのはルーン文字と魔法式。
即席付与は本来戦闘で仲間を補助する目的で編み出されたもの。天授技能には劣るが発動のスピードと重ね掛けが利点だ。
『剛腕』でパワーを上げ、『金気』で肉体を頑丈にする。
さらにチェスは自らの天授技能を付与魔法で再現可能だ。
『身体強化』と『耐久』、『超反応』。
いずれも天授技能として発動した際よりも効果は劣るが、時間稼ぎにはなる。
(おまけに『治癒』まで。秘めている能力はラベル以上かもしれないわね)
「うぉぉ!!」
「おもしろい! 受けて立つ!!」
殴り合いは互角だ。
いや、ラベルは純粋な身体能力でウルトンと正面から殴り合う。
ダメージを負ってもチェスが『回復』を付与するため、ラベルは攻めきれない。
「面白い。小僧! その力、わしに寄こせぇぇ!!」
チェスには一つ誤算があった。
《チェス、マズい。私の魔力が持たない》
《何!》
それはサザンの残存魔力だ。
彼女は『思念伝達』を続けなければならない。
ヴァレオンが『転移』で戻る際の場所やタイミング、事前に相手の情報を伝えなければならない。
その状態で古代の魔導装置を起動させ続ければすぐに魔力切れになってしまう。
「ぐぉぉ!!」
ラベルがウルトンの動きを上回り始めた。
《これ以上は無理だ。おれの動きは読まれちまう。なんてじいさんだよ!!》
《おい、救援はまだか!?》
二人のわずかな隙にラベルは結界からの脱出を試みる。
サザンの方へ抜けた。
「サザン! 逃げろ!!」
(しまった……!! 仕方ない、ここで使うか……)
チェスは奥の手を出す。
壁に『異空間収納』を付与魔術で再現した。
現れた異空間の穴より、カーミラの権能で生み出された『全能武装・深紅』を解放した。
空間の裂け目から並々と赤い流体が無数に放たれ、直線上にいるラベルを襲った。
「ぐぅぅ!?」
レベルによる補正効果をものともせずラベルは跳ね飛ばされ、出血しながら壁に激突した。
「おお、やったぞ」
「なんだ今のは!?」
血まみれのラベルは朦朧としながらも立ち上がった。
(何ぃぃ!? なんだこの攻撃は……!!? 明らかにこれまでの小僧の技とは別種……!)
かすっただけでラベルは大ダメージを負った。
生か死かという状況に追い込んだことでラベルの生存本能を刺激した。
「おのれぇぇ! 殺すぞ、小僧!!!」
「あれでまだ動けるって」
「化け物が」
ラベルが本気になり、ウルトンは全く手が出ない。
戦闘経験の差が出た。
サザンからの『思念伝達』は無い。
まだ救援が来るには時間がかかるようだ。
チェスは『身体強化』と『超反応』を自らに付与した。
「畳みかけるぞ!!」
「お、おう!!」




