69.時間稼ぎ
ラベルの『烈風』はチェスに直撃していた。
ただし、『一撃』が防がれた瞬間、とっさに『魔力盾』で防御した。
そのまま吹き飛ばされたチェスは腹部に重傷を負った。
(魔操術で天授技能の防御は無理だったか)
すぐさま『回復』で腹部を治す。
チェスは迷った。
残りの魔力は少ない。魔力回復リングに蓄積された魔力はすでに空だ。
ここまで魔力は温存してきたが『解析鑑定』、『吸着』の付与魔法、『看破』『回復』と、一気に使い過ぎた。
吹き飛ばされた位置は運よく死角になっている。
そっと敵の様子を伺う。
ラベルは自身を見て何やらぶつぶつと独り言を言っている。
(『解析鑑定』か……? こっちも奴がどうやっておれの『一撃』を防いだか確かめねぇとな)
チェスは数ある天授技能から『解析鑑定』を選んだ。
この時、ラベルが『認識阻害』を使ったままなら意味は無かった。
運よくラベルが自身の成果を確認するために『認識阻害』を解いていたためそのステータスを確認できた。
ラベル(180)
種族 只人
職業 冒険者
レベル 62/25
天授技能 『技能喰』『不老』『限界突破』『魔力増強』『解析鑑定』『認識阻害』『回復』『烈風』『魔装』『空歩』『威圧』『暗視』『鉄壁』『発火』『炎舞』『加重』『吸水』『耐久』『落石』『聴覚強化』『剛腕』『身体強化』『疾風』『解毒』『魔力盾』『操虫』『超視力』『振動感知』『魔力障壁』『振動刃』『視覚共有』『魔力感知』『直感』『軟体』『痛覚遮断』『帯電』『放電』『武装強化』『火事場』『疲労軽減』『獣眼』
(なっ、なんだこいつは……!?)
異常ともいえる天授技能の量。
チェスは思わず息を飲んだ。
異常な天授技能とレベル。
実年齢180歳という事実。
(おれ一人で手に負える相手じゃない)
生き残っているのは自分以外に三人。チェスと同じく瓦礫に隠れている。
いずれもB級冒険者。
天授技能を使ったらしく、ラベルの意識は今そちらを見つけたようだ。
(『魔力感知』か)
自分はちょうど魔力が無い。
このままやり過ごすという手もある。
だが、このまま試験官たちを見殺しにするわけにもいかない。
チェスは迷ったが、全神経を集中し、音も無く、ラベルの背後に忍び寄った。
狩人のごとく気配を殺し、盗賊のごとく忍び寄った。
チェスの渾身の一撃はラベルの不意を打ち、正確に首へと決まった。
「―――っ!?」
ラベルの首に刀が食い込んだ。
だが、両断には至らず。
幸運が味方し、完璧に決まった二度目の『一撃』でもラベルを倒すには至らなかった。
チェスは刹那に理解した。
ステータスを確認した際、ラベルには防御系の天授技能があった。
『魔装』は魔力を身体に纏わせ、魔法・物理攻撃を防ぐ天授技能。
ラベルは自身が天授技能を多数有するため天授技能に対する警戒心も常人離れしていた。
これまでもラベルの不意を打つ者はいた。よって対策はしている。『魔力増強』による莫大な魔力を使い、『魔装』で常にガード。即死さえ防げれば後はどうとでもなる。
特に首は魔力で厚く守っていたため、思考は途切れず、反射的に背後へと『烈風』を放とうとした。
とっさにチェスは刀から手を放し側頭部へと蹴りを放っていた。
「ぬぅ!!?」
ダメージは無いが、ラベルの身体はぐらついた。
衝撃が脳を揺らし、天授技能の発動を一瞬妨げた。
同時にチェスにも激痛が走る。
「ちっ!」
(足が折れた……!? くそ、レベル差か……補正値だけでもとんでもない能力差だ!!!)
ラベルが膝を着き、傷を押さえる。
『魔装』が消えたことで抑えられていた出血が起きた。
「わしにここまで手傷を負わせるとは! よいぞ!!」
狂気。
チェスは狼狽える。
《攻撃を休むな》
チェスの頭に女の声が響いた。
『思念伝達』の天授技能。試験官の一人。サザン
「ふん!!」
無防備なラベルに闘士の『魔拳』が放たれる。
一瞬だけ膨大な魔力を拳に乗せる天授技能。
ラベルの顔を捉え、吹っ飛ばした。
「ッ痛!?」
闘士の男の拳が破壊されていた。
「邪魔するな。凡夫が」
「レベルの差か……よし。おれたちには倒せんな」
ポーターのヴァレオンが『転移』で戦線から離脱した。しかし、仲間を残している。
《悪いな、チェス。時間稼ぎに付き合ってもらうよ》
《時間稼ぎ?》
《ヴァレオンの魔力は残りわずかだ。一人でギルドに戻り、一人を連れてくるぐらいしかない。S級を呼ぶ》
《その間足止めするわけだな。わかった》
《奴はおそらく【テイジンの切裂き魔】と恐れられた手配犯だ。奴の凶行で死んだのは冒険者ばかり。テイジン地方ではA級冒険者5名が殺された。今回と同じ、迷宮内だ。討伐隊が組まれたがいずれも失敗。わかっているのは『烈風』をはじめとした強力な天授技能を複数有していることと、奴の凶行が半世紀続いていることだけだ》
《ステータスを見たぞ》
《何? どうだ?》
チェスはラベルのステータスをサザンに伝える。
「ポーターが逃げたか。良いぞ良いぞ。お前たちも逃げろ。どこにも逃げ場はない。S級が来るまで遊んでやる」
ラベルが動き出した。
『回復』でダメージは消えている。
《おれに考えがある。少しの間なら足止めできるはずだ》
《今はかすかな希望にもすがりたい。信じよう》
命がけの時間稼ぎが始まった。
予備の魔力回復リングに付け替える。
チェスたちはすぐさま階層主の部屋から脱出し逃走した。




