68.伏兵
ラベルは基本的に弱者を装い、殺人に走る。
その方が効率的だからだ。
その凶悪な天授技能『技能喰』には条件がある。生得天授技能、すなわち自らに備わっていた天授技能で相手を殺さない限り、相手の天授技能は奪えない。
『烈風』
これは天授技能の相性によっては容易に防がれるため、不意打ちを選択する。
それを続け、すでに半世紀以上。
近年ではその手順も実に熟達し、見破られたことは無かった。
今回も不用意に近づいてきた試験官たちをまとめて『烈風』の餌食にするつもりであった。
特に『転移』の天授技能はのどから手が出るほど欲しい。ラベルがわざわざ『認識阻害』の天授技能で低ランク冒険者を装い、この試験に選ばれるよう手間暇をかけたのは『転移』を獲得することが最大の目的だった。
「よもや、見破るとは……若造、その慧眼見事なり」
ラベルは弱者の擬態を看破したチェスに期待した。
(こ奴、小癪にも魔道具でステータスを隠し居るわ。だがそれは強力な天授技能を隠し持つと告白するも同じ……ワシの演技を見破る辺り、『読心』か『看破』か……どちらでもよい。欲しい……!)
チェスに遅ればせながら試験官たちが異様に気が付き、警戒態勢に入る。
ラベルはまずチェスと『転移』を持つ試験官をターゲットに『烈風』を放った。
他はどうでもよかった。
莫大な魔力が込められた『烈風』は風の刃を乱れ撃ちし、迷宮の壁ごと周囲にいる冒険者たちを切り刻んだ。
「おお、いかんなぁ……気が高ぶってやり過ぎたわい!! がはは!!」
ガラガラと音を立てて崩落する天井や柱の中、ラベルは今回の収穫を確認するため自らを『解析鑑定』した。
ラベル(180)
種族 只人
職業 冒険者
レベル 62/25
天授技能 『技能喰』『不老』『限界突破』『魔力増強』『解析鑑定』『認識阻害』『回復』『烈風』『魔装』『空歩』『威圧』『暗視』『鉄壁』『発火』『炎舞』『加重』『吸水』『耐久』『落石』『聴覚強化』『剛腕』『身体強化』『疾風』『解毒』『魔力盾』『操虫』『超視力』『振動感知』『魔力障壁』『振動刃』『視覚共有』『魔力感知』『直感』『軟体』『痛覚遮断』『帯電』『放電』『武装強化』『火事場』『疲労軽減』『獣眼』
「無い! 『看破』も『読心』も『転移』も無いだと!!?」
『直感』からがミノス迷宮に入り手に入れた天授技能。
ここに来るまでに手にかけたのは6名。
ステル、スタック、クゥートは運が悪かったとしか言えない。戦闘直後の疲労、試験の緊張からの解放。そこにたまたま『烈風』の一発が当たった。
その他巻き込まれたのはラベルの目の前にいた試験官二人。
(あの男には出ごたえがあった。まさか、天授技能を持っていなかったのか?……『転移』の奴も捕らえたはずだ)
ラベルの誤算は二つ。
『転移』の天授技能を持つB級冒険者ヴァレオンはこの天授技能を使いこなしていた。属性魔法と同じくこの『転移』は基礎魔法であり、応用が可能。彼は少ない魔力と早い発動を可能とする獲得術式『空間魔術・達』を会得していた。
空間魔術『瞬間移動』で退避し、姿を隠した。
もう一つの誤算。
それはチェス。
自分以外に大量の天授技能を持つ者の存在を、ラベルは想定していなかった。
エルルクから受け取った指輪をしていなければラベルの『解析鑑定』で天授技能は知られ、『技能喰』でその天授技能が奪えなかったことからチェスの生存が確定的となっただろう。
しかし、ラベルは単なる自分の思い過ごしと、チェスが生きている可能性を排除した。
「ちっ、つまらん。逃げたポーターを探さねば……」
その無防備な首に、再びの『一撃』が迫る。




