66.迷宮魔物
三階層で階層主の下にたどり着いたチェスたち。
「さて、やるわよ」
青白い光に照らされたホールに、佇む魔物。
階層主はフィールドとある種同化しているため、建造物を自在に操る。
脚を踏み入れると巨大な柱でできた通り道に壁が出現した。
鱗を持つゴブリンのような小さい魔物。
魚人族に似ているが、鰓やヒレは後付けのように見える。
チェスたちの戦いが始まった。
(『解析鑑定』)
チェスが敵の戦力を見極める。
個体名 ミノス迷宮第三階層主
種族 マーマン
脅威度 獰悪級
権能 『海流・大うねり』『水鉄砲』
「気をつけろ!! 海流を操るぞ!!」
チェスが警告した途端、ホールの天蓋から海水が瀑布となって流れ込んだ。
「うっ、うわ!!」
真っ先にクゥートが呑み込まれた。
「うぉ!! くっそ!!」
カタックは上へ回避する手段が無い。
「こんなやつ、私の魔法で――」
「待て!! 電撃系はやめろ!!! 全員感電するぞ!!」
チェスの言葉にステルが間一髪静止した。
浮足立つ試験参加者。それを見下ろす試験官たち。
それと、チェス。
柱を駆け上り、退避していた。
「へぇ~、身軽だな」
「剣士だったと思うが、剣士らしいところを一度も見てないな」
「状況判断と反応の速さは大したものだが、戦闘力は不合格だな」
「ぼくは評価するけどね。冷静で指示を出せるタイプはパーティに欠かせない人材だよ」
「それでメンバーを死なせてたらダメじゃないの?」
(なるほど、よく考えられた試験だ)
この海水の濁流の中では戦闘に応じられる者は限られる。
ただの前衛戦士タイプや臆病な弓使いは対応できない。電撃系の魔導師は攻め手をよく考えねば自爆する。
チェスは片手でロープを取り出すと同時に柱の彫刻に打ち付けるようにして巻き付け結んだ。もう片方をカタックへ投げた。
「登れ!!」
ヘイトを稼いだチェスへマーマンの『水鉄砲』が放たれる。
数リットルの質量体が一直線にチェスへ向かい、試験官たちが警戒する。
水しぶきが舞い、壁にひびが入るがそこにチェスの姿は無い。
マーマンは外したことに動揺し、クールタイムが発生。
「こっちだ!」
チェスが壁の梁から自らの居場所を伝える。マーマンの標的は完全にチェスへと移行。
その隙にカタックがステルを引き上げる。クゥートは波に攫われもたついている。
チェスは腰のポーチから素早く三本のナイフを取り出し流れるように投擲した。
マーマンの鱗を貫通するが浅い。
チェスは怯まない。ダメージが無いのは織り込み済みだ。
マーマンの権能『海流 大うねり』が発動する。
部屋に満たされた海水が大きくうねり、高波を発生させる。壁のヘリに立っているチェスに逃げ場はない。
上以外には。
チェスは壁を歩いた。
そのまま天井を逆さで立っている。
天授技能『吸着』の再現。
それを脚の裏に付与した。
「よし……やれ」
再び攻撃が外れ、ショックで動きが止まるマーマン。
そこにステルの『電撃』がさく裂した。
水の魔物マーマンには効果絶大だ。バチバチと音が鳴り、身体を痙攣させ、煙を上げた。
「やったわ!」
海水から退避が完了し、ステルの魔法が決まった。
試験官はまだ見守る。
「詰めが甘いな」
ステルの魔法はマーマンを倒すには至らなかった。
水に濡れていた自分への反動リスクを恐れ、威力が半端になっていた。
「ナイフが誘雷針になり雷魔法の攻撃が集中したにも関わらず仕留めきれなかったな」
「ああ、C級らしからぬ威力だ」
「いや、暴走せず、威力を調整したのでは?」
「調整して倒せないなら意味は無いさ」
「いや、倒すまでは問題無さそうだ」
試験官の視線は天井に張り付いていたチェスへと向かった。
『吸着』を解いたチェスはマーマンの頭上から舞い降り、抜刀した。
水面に着地するように『一撃』を放ち、マーマンの首が刎ね飛んだ。
「ほう! 剣士と言うのは伊達ではなかったか!!」
「野郎、今の一撃はB級並みだぞ……!」
魔力で構成させていた肉体がその実体を保てずに崩壊していく。おぞましい迷宮魔物も散り際は一種の滅びの美学がある。
淡い発光と共に美しく消え、肉も骨も残らない。
後に残るのは核となった魔道具のみ。
チェスは海水に飲まれながら、魔道具をつかみ取った。
短剣だ。
「水属性の短剣か」
「ああ、それちょっと見せなさいよ! 私のだから!!」
「いやいや、なんでだよ」
「く、くそ……ぼくが活躍する暇が無かったじゃないか……こんなの不公平だ!」
流れ込んだ海水は部屋の扉が開くと同時に排水されていく。
試験は終了した。
試験官たちの採点と評価も完了していた。




