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64.ミノス迷宮

 一行は崩れかけた石造りの門を通り、迷宮内部へと進む。

 暗く、海水が流れる中を何とか生きている道を辿り、進む。



「前に入った連中はどこだ?」

「さぁ? もうずっと先に進んだんじゃない?」

「道は1つじゃない。ばったり会うとは思えないな」



 ウロウロとまごつくリーダーステルを制し、何度かいざこざを繰り返したのち、先導者としてようやくチェスが認められた。


 部屋から部屋へ。迷わず進んでいる。


 後方から後をつける試験官たちは不思議に思った。



「あいつ、ここの情報を?」

「いやそれはない。出身が離れているし、地図なんて無いんだ」

「この迷宮は海水の満ち引きで道筋が変わる迷宮だ。迷わず進めるとは思えん。ということは天授技能(スキル)だろう」



 チェスはこの施設を前世で頻繁に訪れていた。数世紀もの間、この国の魔導協会は覇権的力を有していた。当時魔導士だったチェスは報告や調べものなどでよく来ていた。



(海水が入らなそうな道……当時の隠し通路を知っていて助かったな)



 希少な情報を隠すため、隠し扉や隠し通路は至るところにあった。当時の魔導士なら大体察しが付く。



「こんな道あったのか」

「ああ、あいつ……魔物のいない隠し通路を」

「そろそろ一階層を抜けるぞ」




 試験官たちの間に緊張感が走る。

 それを察した一行。



「ここからが本番ってわけね」



 階下へと下る道。

 上から海水が滝のように流れている。

 それを突き破って早速魔獣が現れた。

 巨大な蟹の化け物だ。



「待ってたぜ!!」



 カタックが大剣を振るい、飛んできた蟹を打ち下ろした。



 周囲で独特な足音がする。



「結構いっぞ!!」

「あ、あの!! 囲まれてますよぉ!!」

「ちっ、視界が悪いわね!!」



 滝の音が足音をかき消し、反響して位置が掴みづらい。



「新米はここで脱落するだろう」

「即席のパーティではこの数の魔獣を相手にするのは厳しいだろう」

「こちらも気を引き締めろ。あいつらを死なせないのが仕事だぞ」



 試験官たちが臨戦態勢を取る。

 そんな中、チェスは落ち着いて周囲を観察していた。



(まだ設備は生きているだろうか? うむ……)



 設備。それはここが魔導協会だったころ、当たり前に作動していた魔導装置。


 手探りで壁の突起物を確かめる。

 そこには確かに壁とは違う感触の複雑な構造体が埋め込まれていた。



「『光よ、照らせ』!」



「え? なに?」

「詠唱か?」



 チェスが叫ぶと、フロア一帯が明るくなった。




「な、なに!!」

「これは!!」



 その現象に試験官たちが度肝を抜かれた。


 魔法を使ったのではないとすぐに理解した。

 光っていたのは天井に残っていた魔道具だからだ。



「君、まさか古代遺跡の魔道具を動かせるの!!? というかできるならやる前に言え」

「悪い」



 ステルがまぶしさに目をつぶって叫ぶ。



「いいから集中しろ。来るぞ」



 隠れていた蟹たちがその姿を現した。



「ふん、見えてれば楽勝だぜ!!」


 カタックが片っ端から蟹を討伐していく。



「『電撃』!!」


 ステルも魔法を駆使し、蟹を次々と討伐していく。

 クゥートはアワアワとしていいところなしだ。



「すいません!! すいません!!」



 チェスはステルが魔法を放ち終えた後、フォローに入る。硬い甲殻を持つ大きな蟹に足払いを仕掛ける。

 四本の巨大なはさみを掻い潜り、巨体を支える6本の脚のうち片側三本をまとめて刈り上げ、転がす。


 ひっくり返った蟹へスタックの持つ灰色の塊が叩きつけられる。


「ありがと」

「おれがひっくり返す」

「なら、おれが叩き潰す」

「まとめて始末するわ」

「えぇっと!! あの……」



 三人は上手く連携し、蟹を掃討した。



「それで、どういうこと?」



 小休止を取ったチェスたち。

 ステルが質問する。



「そうだぜ……お前、魔導師だったのかよ!?」

「武闘家じゃないの?」

「あ、あの剣はその……使わないんですか」

「役に立ったおれには不満があるのか?」

「違うわよ! 確かに、役には立ったけど……ちょっと試験官? 彼、この迷宮来たことあるんじゃない?」


 これについては試験官たちも協議の必要性を感じていた。



「口出しは本来しないんだがな。チェス、君はこの迷宮を知っているのか?」



 チェスは壁を指さした。

 壁の魔導装置にはよく見ないと分からない文字かひび割れか判別困難な凹凸がある。


「読んだだけだ」


 試験官たちをはじめ、ステルやカタックは驚いた。


「君は古代ミノス語が読めるのか!?」

「なんで冒険者やってるんだ!? 学者になれよ……」



 古代ミノスは古代言語のひとつ。全容を理解している者は極わずかしかいない。

 だが、その極わずかしかいない専門家でも、この魔導装置を起動することはできないだろう。

 壁の文字は起動式で、親切な使い方の説明ではない。




「なるほどな。知識も列記とした力というわけだ。迷宮に前もって訪れていたわけではないというなら問題はない」


 疑いが晴れて、チェスは再び一行を先導する。




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