62.一波乱
マイカとチェスにやり込められた冒険者たちは一矢報いるためならどうなっても構わないという心づもりだった。
「あの女、ここに泊まってるらしいな」
「ああ、跡をつけたらこの宿に入っていった。間違いねぇ」
「散々俺らをコケにしてくれた礼をしなくちゃな」
三人の男が下卑た笑いを浮かべ、宿の裏手から侵入する。
「あの女のにおいだ。間違いねぇ」
一人が天授技能『嗅覚強化』で部屋を割り出し、鍵穴をこじ開け、ドアを開け放った。
「っ! 誰!?」
驚き目を見開くマイカ。
三人はその隙に飛び掛かろうとする。
天授技能を使われる前に身動きを封じる算段だ。
言い争う位から喧嘩になり、それがエスカレートして殺人に発展することはままある。
ところが動きを封じられたのは三人の方だった。
「天授技能『魔力糸』だ。逃れられないだろ?」
見えないほど細い魔力の糸が三人をからめとっていた。
三人対一人の綱引きとなっているが、三人の背後にいる女は一人で抑え込んでいる。
「女の部屋に鍵をこじ開けて侵入。言い逃れはできないねぇ?」
「だ、誰だ!?」
「ぶち殺すぞ!!」
「舐めんじゃねぇぞ、オラぁ!!」
夜の寝静まった宿屋内に怒号が響き渡る。
「はぁ、やだねぇ。口だけのでくの坊は。女の子一人を相手に三人で群れるだけでもみっともないのにねぇ」
女は『魔力糸』を解いた。
「おら、かかってきな。あたしはチェスみたいに甘くないからね」
三人は振り返って相手を認識した。
「うっ、てめぇは!!」
「くそぉ!!」
「なんでこんなところに、B級が―――」
即座に逃げる三人。出入口は女がいるため、窓を突き破った。
「女性の敵はおれの敵だねぇ!」
着地と同時に、槍を持った男が三人の間を駆け抜けた。
「……っ!? なんだ?」
じくりと熱い脇腹を押さえるとどろりと熱いものが噴き出していた。
直後、駆け巡る激痛。
「う、うわぁ!!!」
「ぐぅぅ!!」
「痛てぇ!!!」
「安心しなよ。死にはしない。ただし、死ぬほど痛いところを刺したよん」
手にするミスリルの槍を見れば、この街で知らぬものはいない。
「ゼータにグレイ……なぜあんたらが……」
「そうだな。前まではお前らみたのは放置されてきたけど……状況が変わったのさぁ」
「冒険者ギルドは冒険者間の争いに関与しない。でも、悪事は記録されてるんだよ。あんたら、前にも似たようなことしたそうだね」
冒険者の情報はギルドに蓄積される。ただし、ギルド職員はその情報を外部に漏らさない秘匿義務がある。
ただし最近冒険者でありながら指導員になった者にはその職務の性質上、冒険者の記録を閲覧する許可が下されている。
「ふひひ……あんたら高位の冒険者のくせに、あんな奴の言いなりかよ……少し喧嘩強いだけで、魔物退治もロクに経験したことないただの薬草採りなんかによぉ……」
「はぁ……あんた、そう言われてるけど?」
チェスが兵士を連れて現れた。
「回復のポーションだ。そこまでおれを侮りたいなら引導を渡してやる。掛かって来い」
困惑しながらも投げつけられた三人は回復ポーションを飲んだ。
出血が止まる。
リーダー角の男がチェスに向かい突進する。
「死ねぇ!!!」
剣を振り被る。
チェスは刀を抜いて上段に構えた。
すれ違いざま、男の首が落ちた。
「ひ、ひぃ!!」
「うわぁぁ!!」
兵士たちが逃げようとした残りの二人を斬りつけた。
「いい腕じゃねぇか、鍛冶見習い」
「あとはこちらが受け持つよ」
「ああ、頼む」
◇
一線を越えた冒険者がチェスに討たれたというニュースはすぐに街中に広がった。
反応はまちまちだ。
やり過ぎ。
大げさ。
過剰。
冒険者は無法者ではないと証明した。
兵士を動かしたのは画期的。
冒険者ギルドはこの事態を重く受け止めた。
「D級冒険者か」
フテナから遠く離れた都市。
王都のギルドで、この行動は議題に挙がった。
「冒険者同士の喧嘩、で、収めるには引っかかる」
「現地のギルドからの信頼は厚いようだが」
「情報が少ない。大した活躍はしていないな。むしろよくD級になれたものだ」
「E級へ降格で良いのではないか?」
「いいや、待て。ギルドへの不信感を抱かれるのはまずい。特にあのような辺鄙な場所では、我々の価値基準を押し付けると運営が滞る危険がある」
「ならどうする?」
「再試験だな」
「……なるほど。実力を確かめることがペナルティ。その上で実力がそぐわなければ降格もありうると」
「その逆もあり得るがね」




