55.最上の模造品
ミスリルの刀をの製作に入る。
この工程は三日三晩休まず続けられた。
まず刀の型を取っておく。
そうでないとさすがに後で鞘に入れた際収まらなくなるからだ。
次に波紋をデッサンして記録する。これは思い通りにできるかは分からないが、ガガロンの経験と職人の技で寄せることはできる。
ようやくミスリルの加工に入る。
そのままでは『錬金分解・加工』はできないため、『魔力通し』で内包する魔力をはじき出す。ミスリルは魔力の浸透性が高い分、それも一苦労で、二人で何度もトライする。
「どうだ?」
「おおう! 空だ。取り掛かるぞ!!」
魔力を空にしてすぐに作業に取り掛かる。
本番はここからだ。
ミスリルに銀の粉を塗して火入れする。
こうすることでミスリルは銀を取り込んでいく。
一振りの刀に対して純銀を二振り分も取り込ませる。
カーミラに教わった手法だ。
彼女の場合は聖剣に昇華するためにさらに希少な鋼材と合金化したので、より複雑な工程が必要だった。ただ加工し直すなら、方法は単純だ。それがミスリル銀への加工。
休まず火を一定の温度に保ち、ミスリル銀へ。
刀が重くなった。
「よし」
ミスリルは銀との相性がよい。その組成の隙間にぴったり入り込み、熱を加えることでミスリルとは違う性質の合金となる。
そうしてようやく加工しやすくなる。
「『錬金分解』」
全体の組成を緩める。純粋なミスリルでは微動だにしなかった天授技能が、効力を発揮する。
『錬金分解』が作用し、ミスリル銀が柔くなる。
銀との結びつきを緩めるだけだから難易度は低い。
「叩くぞ」
「おう」
折れた部品ごと一つの塊にする。
それを刀の形へ打っていく。
後は純粋なミスリル鋼になるように、叩いて熱して製錬する。銀が不純物が弾きだされ、火花となる。
それをひたすら繰り返す。
二人で汗だくになりながらハンマーを振るう。
形を整えながら高温の純ミスリル鋼へと叩いて引き延ばし、叩いて整えを丸一日繰り返す。
微調整の段階で再び銀を加える。峰と刃で強度の差をつけるためだ。刃は純度を高くし、峰は衝撃に強くなるようやや銀との合金の比率を残す。
『魔力通し』でさらに刃には魔力を流しながら加工する。
魔力の通りを良くして強度を高める工夫だ。
この時、刃に独特の波紋が生まれる。
そうして二人休みなく工房で作業し、ついにミスリルの刀を仕上げた。
「おお、こりゃ……」
「ああ……」
壮麗にして優美。
刀は刃に魔力を漂わせ、まるで脈動して命を持つようだった。
二人はそれをしばらく黙って崇め、言葉を失っていた。
二人は柄にもなく、互いに手を叩き合った。
「うぉぉ!!! うはははは!!!」
「やったぞぉぉ!!!」
疲労困憊の二人はヘロヘロのまま出来上がった刀をすぐにエドのもとに持っていった。興奮冷めやらぬ間に二人共早く感想が聞きたくてしょうがなかった。
「これが……あの?」
エドは刀を受け取り、抜いて茫然と眺めた。
圧巻だった。
かつてこれほどの名刀は見たことが無い。
持つ手が震えた。
自分が持っていることが恐れ多くて仕方が無い。これを手にしていることを知られたら、それだけで誰かに殺されるのではないかとさえ思えた。
「ふむ……素晴らしい。素晴らしい出来だ。これ以上ない、いや、想像以上の出来栄えだろうな」
にやりと笑うエド。それを二人は素直に賞賛とねぎらいとして受け取った。
鞘に納め、ようやく平静を取り戻した三人は来たる納品の日を待ちわびようと、盛り上がり、酒盛りに走った。
「これは奉仕の心ゆえだよな?」
「違いない!」
「元はどうか知らんが、これ以上ない出来だよな?」
「最高の仕事をしたぞい!」
「いやぁ、楽しみだなぁ!! 領主様もきぃぃっと、お喜びくださるだろうなぁ!!」
エドは上機嫌で二人を兵舎に泊まらせ、歓待した。




