53.錬金加工
チェスはカーミラからミスリルの性質について詳しくレクチャーを受けた。
「こんな辺鄙な街で請け負う仕事じゃないね。ミスリルは産出する鉱山が限られる上に、数千年前に採りつくされたから今や素材だけでもアークだよ」
「わからないってことか?」
家でくつろいでいたカーミラは得意げに笑みを浮かべ、いつものよれよれの白衣に着替えた。
「ミスリルは対魔の鋼材でもある。私を殺しに来た勇者たちが皆持っていたから一時期研究し尽くしたものさ」
「対策するためにか?」
カーミラは首を横に振った。
「私を殺せる聖剣をつくれないかと思ってさ」
「ねじ曲がった情熱だな。勇者たちもさぞ迷惑だろう」
「いや、ちゃんと聖剣にして返したんだけどね。感謝されて使ってくれなかった」
「聖剣できたのかよ」
単なる魔石を埋め込んだり、魔法を付与した剣を魔剣というのに対し、聖剣は神や天使、精霊が祝福することで特別な加護を内包し、使用者にその加護を与える。ゆえに聖剣は「在る」ものであり、「作る」ものではない。
「方法は錬金術が使える君なら簡単さ。試してみるといい」
それを試すにはミスリルが必要だ。
◇
チェスとガガロンは工房に呼び出したグレイに事情を説明して槍を提供させる。
「だからってなんでおれの槍ぃ!? いやだいやだ!!」
「大丈夫だ。失敗しても何とかしてやるから」
「うそだぁ!! うわぁ!!」
グレイからミスリルの槍を奪う。
カーミラの地下迷宮での獲得品。
「よし」
「よしじゃねぇよぉ!! やめろぉ!!」
(ミスリルは魔力を込めると硬度が増す。古代恐熊の爪と似ている。だが、問題はつながりの強さだ。無理やり分解すればばらばらになるが、弱ければ全く加工できん)
チェスはその点についてちゃんとカーミラから聞いてきていた。
「おめぇ、学士様とはどういうつながりだ?」
おもむろにガガロンが尋ねる。
「そうか、親方はこの街に住んで長いんだったな」
「……あの方はおれがこの街にくるずっと前からいた。街の連中は魔族だと思っているようだが、違う」
「……そうだな」
「分かっているならいい。だが、大自然がわしらに恵みと気まぐれな災害をもたらすのと同じく、あの方はただお前に恵みをもたらすものではないぞ」
「ああ。わかってる」
チェスは理解していた。
「今度東の都に連れていく約束をさせられた」
「てぇと、サンメリーダか。なんだそりゃ。そんだけか」
「そんだけとは何だ。大仕事だぞ」
チェスとしては魔物のカーミラを連れて都市へと入るのはかなりのリスクだ。しかも、二人きり。シルヴィとワチを留守番させている間はゼータ辺りに面倒を見てもらわなければならない。
そもそも、この街からカーミラを出してもいいのかが分からない。
神殿は一応カーミラをこの地に封じ込めるために建っている。何か不都合があるかもしれない。
何の問題も無く出られるのか、それを試そうとしているのは明らかだ。それに加担するのもどうかという話である。
「単なる小旅行で済めばいいな」
「全くだ」
チェスは作業を終え、槍をグレイに返した。
「あれ? 元通りだ?」
「何言ってやがる。新品同然。お前の手癖に合わせてゆがみを微調整してやってるだろ」
「ほ、ほんとだ!! 前の槍と同じ感触だ!!! チェス、お前鍛冶仕事もできんのかよ!! 便利だなぁ!」
チェスはミスリルの加工法をマスターした。




