50.動く甲冑
全身鎧の騎士が斬りかかってきた。
一番手前にいたチェスより先にグレイが動いた。
槍の穂先はないが石突きで剣の軌道に割り込み逸らす。
しかし切り返しが早い。つんのめった体勢から片手で背後のグレイへと正確に振り下ろしを放つ。
振り下ろしなら負けないと、チェスが『一撃』が割り込む。
互いの剣がぶつかり合う。
チェスはその手ごたえに驚き、急遽『身体強化』を使った。
(き、斬れねぇだと!?)
並みの鈍なら容易く断ち切る『月光鳳蝶』と互角。
パワーと剣技は上。
「はっ!!」
ゼータが指先から『魔力糸』を放出し、騎士の身体を絡めとり動きを封じる。
グレイが上から槍の石突きを突き立てた。
兜に直撃。槍の方が砕けた。
「何着こんでんだ、こいつ!!」
『魔力糸』をぶちぶちと引きちぎる。
三人が一斉にかかっても騎士は淡々と迎撃する。
剣術、魔力操作、隙の無い武術。
「アハハ、がんばれ~」
カーミラはその戦いを座って観戦していた。
身軽なグレイが『魔装武闘』で蹴りを見舞う。魔力を纏った脚が繰り出されるが鎧に跳ね返される。ゼータは『魔力鋼線』を指先から勢いよく放つ。巨大な魔力の刃がしなり、叩きつけられる。
魔力同士の衝突により激しい閃光が暗闇で明滅する。
騎士の持つ剣が魔力を纏い、ゼータの『魔力鋼線』を受け止めていた。
二人の連携の隙に、チェスは騎士の背後に回り込んだ。
全身でぶつかるように体当たりする。『魔力通し』で自身の魔力を叩き込み、魔力を弾こうとする。鍛冶師の天授技能と格闘士の技の融合。本来なら魔力を弾き、獲得術式の効果を打ち消しただろう。騎士は片手でチェスに反撃した。魔力が籠っている。効果はないようだ。
(おれの技能ではダメか……!)
「ギブアップする?」
「誰が!!」
チェスは刀を仕舞い接近した。
『超反応』へと天授技能を切り替える。
すさまじいキレの斬撃を寸前で躱す。
だが、反撃する隙が無い。
「クソ」
「チェス、ソロじゃねぇんだわ」
「連携しな」
実戦における連携の経験不足を実感する。
チェスは考えを共有する。
頷く二人。すぐさま実行する。
グレイとゼータが足止めをする。その隙にチェスは地面に触れる。
『錬金分解』で地面の建材を砂に変えた。
「あはは、上手い」
自重で砂に足を取られる騎士。
「でもそれじゃダメなんだよ」
騎士は跳躍して砂を脱出した。
剣に魔力が籠り、放たれた。
獲得術式『魔剣術』による斬撃、『飛剣』
三方に放たれた『飛剣』はゼータの『魔力糸』を格子状に展開した守りを切り裂き、チェスの『一撃』では止まらず、グレイに回避する暇を与えなかった。
三人とも大ダメージを負った。
カーミラが立ち上がる。
彼女は知っている。何せ、この騎士も彼女が作ったゴーレム。闇魔術で過去の勇者の動きを組み込み、魔導甲冑と魔剣で補助する。実際の勇者ほどではないが疑似勇者と呼べるほどの力。
冒険者の等級で言えば間違いなくS級以上。B級二人とD級の三人では相手にならない。
チェスたちは立ち上がった。『耐久』により、ダメージを軽減した。
同じく、ゼータ、グレイも致命傷には至らなかった。二人は自分たちの身体に起きた変化に驚く。
「付与魔術を使ったか」
カーミラの見立て通り、チェスはギリギリで『耐久』を二人に付与し、即死を回避した。
追い込まれたおかげでチェスに前世の感覚が蘇る。
記憶と理解、学んだ魔力制御が即座に前世の付与術を再現する。ゼータとグレイにさらに『身体強化』と『超反応』を付与する。
「これは……」
「チェスの魔法?」
「付与魔術だ。効果は一時的、次はない」
「で、どうするんだ?」
「足止めしろ。弱点を探る」
『鷹の目』と『解析鑑定』を組み合わせて騎士を観察するチェス。
個体名 勇者ゴーレム
種族 ゴーレム
脅威度 惨禍級
権能 『魔力同調』『熱感知』『高速移動』
獲得術式『魔剣術・天』『魔闘術・達』
魔力の操作でより深く『解析鑑定』を試みる。
『魔力同調』の原理。地下迷宮内に充満する魔力を糧にしている。地下迷宮内にいる限り、魔力切れはない。
ただし、その起点となる魔法式が頭部に集中している。
チェスが駆け出した。
チェスの動きに合わせグレイが剣にしがみつく。アームロックを仕掛ける。関節技の効果はないが片腕は封じた。ゼータがタックルして動きを止めた。
チェスがすれ違いざまに鎧兜の留め金を素早く外し剥ぎ取った。盗賊さながらの早業。
露わになったのは骨。
二人は引きはがされ投げ飛ばされ、魔力切れを起こし戦闘不能となった。
チェスもまた魔力の残量はない。
抜刀し上段に構え、振り下ろす。
騎士は魔剣を盾に頭部の魔法式を護る。
後の先、剣技で弾かれ、体勢を崩したチェスのがら空きの胴に、騎士の横一閃。
「やられた!?」
「チェスー!」
「舐めやがって」
チェスは傷を確かめずに上段に構えた。
「ぶった切る!」
騎士との真正面の戦い、チェスは振らされ、『一撃』は空を斬った。
剣術ではるか上にいる騎士の魔剣は魔力を帯びてチェスの喉元に突き立てられる。喉をかき切られたチェスはそのまま更なる『一撃』の態勢で一歩前へ。
騎士は剣で受ける。
魔剣ごと両断し、その刃は髑髏の額にある魔法式に達した。
騎士は力なく倒れ込んで動かなくなった。
チェスは残心の状態であおむけに倒れた。駆け寄るゼータとグレイ。傷を見て絶句する。骨まで達し気管も損傷していた。出血が止まらない。
「街までは持たねぇよ」
「や、薬師様!!」
「ああ、はいはい」
余裕のカーミラがポーションを並々とぶっかける。傷はみるみるうちに塞がった。あまりの効果に二人共目が点になる。伝説級の秘薬並みの効き目だ。
何事も無かったかのように起きたチェス。
「おーしゃあ!」
「やったね」
「ああ」
三人は互いの働きを健闘し合う。
「なるほどね、装備の差を利用したのかい」
「師匠の刀はその辺の鈍には敗けん」
「いや、結構な業物だよあれも。あーあ。でも仕方ないか、状態はあまり良くなかったし」
魔剣はメンテナンスされてなかったため錆びていた。
「それより、さっきからチェスおかしくねぇ? それだけの力があって何で薬草採取ばっかしてたんだ? 隠してたのか?」
グレイの問いにゼータも回答を待つ。
「んっ」
チェスは面倒でカーミラを指差した。
「ん?」
カーミラは首を傾げるがすぐに察した。
「ああ、私が教えたんだよ。チェス君を育てたのは私だからね」
「隠す意味はあるんですか?」
「チェス君には薬草を採ってきてもらわないと困るからね。それに、力はひけらかすものではないのさ」
「なるほど……でも、この実力を見たら推薦しないわけにはいかないね」
「ここを攻略したら、チェスはC級確定だな」
「行くぞ」
通路の先に進んだ。
しかしそこにいたのは先ほどと同じ、立ちふさがる騎士だった。
「ミラ婆。ああいうのあと何体いんだよ?」
「30体ぐらい」
「よし」
「よしじゃねぇ」
「戻るよ」
チェスはゼータとグレイに引っ張られ引き返した。
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