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49.ゴーレム

 ギルドで噂を聞いてチェスはピンときた。


 容姿もさることながら、そういうめんどくさい紛らわしいことをするのはカーミラの特徴だ。

 チェスは夜、家を抜け出すカーミラを追跡した。


「ボケ老人じゃねんだ。さっさと帰るぞ、ミラ婆」

「しゅーん。話ぐらい聞いておくれよ」

「お、おいちょーと待て!!」

「その人、誰なんだい、チェス?」

「あぁ? 見て分かれよ。ミラ婆だ。ああ、逸れ学士の薬師って言えばわかるか?」


 二人共目が点になる。

 おどろおどろしい見た目の紅いボサボサ髪。

 古びたよれよれのローブを纏う変わり者。

 それが薬師だ。

 しかし、目の前にいるのは噂に違わぬ妖艶な美女。


「ミラ婆、こっちはゼータとグレイだ。名前ぐらい聞いたことあるだろう。フテナで最上位の冒険者だ」

「……どっちが女で男だい?」


 チェスの陰に隠れるカーミラ。


「悪いな、極度の人見知りだ」

「いや、それはいいけど、一体何してたんだぁ~?」

「ああ、それは知りたいね。まさか、冒険者を脅かすためじゃないだろ」

「いや、理由は君たちだよ。あそこのゴーレムを起こさないで欲しかったんだけど」

「ゴーレム?」


 カーミラは説明を始めた。

 事の発端はチェスがカーミラの自宅を吹き飛ばしたことだ。カーミラは旧市街で暮らしていた時の地下室の存在が知られると危惧した。チェスが吹き飛ばした家の地下と繋がっていたからだ。案の定、その衝撃で隠し通路の存在が明るみになっていた。カーミラは冒険者を追い返すことにした。


「というわけだよ」

「あのゴーレムは?」

「侵入者を追い返すためのものさ。ただ、問題があってね。古すぎてどうやら製作者の私を認識していないようなんだ」

「ぶっ壊せよ」

「いや、それがね。不用意に破壊すると増えるようにできてるんだよ。あれはかなりの私の血を混ぜて錬成したからね。迷宮全体の魔力と同調することで魔力切れを起こさずに無限に増え続ける。おまけに、あれが増えることで周囲の地盤が崩れて地下への道が閉ざされるようになってるんだ」


 説明を聞いてチェスは呆れた顔をした。


「ちょっち待ってよ。じゃあ、この地下迷宮は薬師様が作ったってこと?」

「うん、まぁ自信作です、はい」

「褒めてねぇんだよ。厄介なもん作りやがって。仕方ねぇ、入れねぇように通路を塞ぐぞ」

「待って待って!! あそこには大事なものがあるんだよ」

「あぁ? 大事なもの? 金か?」

「まぁ、お金もあるけど。大事と聞いてお金を連想するように育てた覚えはないよチェス君」

「うるせぇ。自分で学んだんだよ。大事なものは大体金だろ」

「大事なものは美女だけど、魅力的ではあるよねぇ~お金」

「そりゃ冒険者だからさ、一攫千金は夢だね」


 三人は目の色を変えて地下迷宮へと挑戦することにした。


「お前らは帰れ。関係ねぇだろ?」

「そうはいかないね。乗り掛かった舟だ」

「おれなんて槍ぶった切られてんだぞ」

「そうか。新しいの買えよ」

「アンタには貸しがあっただろ?」

「ちっ」

「ワチちゃん、料理が上手になったみたいだねぇ」

「高位冒険者がたかりやがって。覚えてろよ」

「みんな、今から取りに行こうとしてるのは私のお金だよ? まぁいいんだけど」


 四人は霊廟の部屋へと戻った。

 立ちふさがる二機のゴーレム。

 手順通り無力化する。

 正解は天井の日光を出す魔道具を止める。これには二人、四本の腕が必要となる。カーミラとチェス。二人が天井に張り付き、相当量の魔力を注ぎ込んだ。チェスは魔力回復リング一個分を丸々を丸々消費した。


(この魔力、どこにそそがれてんだ?)


チェスはただ停止するだけに消費される大量の魔力の行方が気になった。

その間ゴーレムを足止めする囮が二人必要になる。ゼータとグレイは反撃できないので走り回る。何とか成功し、暗転すると同時にゴーレムが沈黙した。


「さぁ急ぐよ。すぐに起動し直すからね」


 カーミラが誘導し、ゴーレムが元居た場所の真ん中の地面から地下へと入った。


 ◇


 地下に入ると下へと続くらせん状の階段が続いていた。

 松明で照らしながら進む。


「で? さっきのは何だよチェス」

「あぁ?」

「とぼけんじゃないよ。アンタ、魔法が使えたのかい?」


 チェスはそんなことかと無視する。


「お前、おれの槍ぶった切って置いて説明なしかよぉ」

「ああ、わりぃ。受け止めようとしたんだがな」

「嘘つけぃ! たたっ斬るって感じだったぞ!」


 グレイが咆える。


「うるせぇ。探索中に大声出すな」

「なんだよ。お前……そんなんじゃモテな……くそぉ!! 美女二人と同居している奴には何を言っても無駄か」

「その美女だけど、あんな感じだったっけかい?」


 ゼータが後ろを指さす。

 挙動不審のガウンを羽織った眼鏡の女。


「そうそう、お前あんな美女と同棲とかうらやましいぃ」

「ミラ婆だぞ。ババアだ」

「聞こえてるよ」

「容姿が変わったのはシルヴィさんの介護のおかげだ」

「介護て」


 グレイとゼータが振り返ると、眼を泳がせる。


「おれたちのこと嫌いなのかな?」

「居ちゃ迷惑とかかい?」

「ただの人見知りだ」

「もしかして…‥アタシらに囁いてたのも……」


 カーミラとしては自分と視線を合わせることへの相手へ配慮、癖のようなもの。発狂する者や失神する者がいるためだ。しかしそれが災いするなどとは考えなかった。


「ああ、そうですよ! どうせ人見知りですよ!! でも私は人見知りの中ではしゃべれる方なんだよ!」

「開き直るな。紛らわしい」

「いや~でも、こんな美人になら手招きされてついて行くのもわかるよ」


 自分のとった手段に同意したグレイに「そうでしょ」と頷くカーミラ。


「騙されんな。若作りしてるだけで、本性はバケモンだぞ」

「はぁ? お前、女性になんてことを」


 グレイがチェスに掴みかかる。


「まあ、化け物ではあるよ」

「え? そうなんですか」

「そうだよ」


 グレイとゼータは首を傾げた。

 付き合いの浅い彼らからすれば、目の前にいるのは地下迷宮に薄着、サンダルで来ているただの美女。

 からかわれただけだと二人は解釈した。それが嘘ではないとすぐ知ることになる。


 チェスたちが下へと降りていくと広い空間に出た。

 カーミラが指をさす。暗闇の中にかすかに通路が見える。


 松明の光をかざす。

 一体の騎士が立っていた。


 騎士が剣を抜き斬りかかってきた。



いかかだったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。

ブックマーク、評価を励みにして連載しております。

不定期に連続投稿することがありますのでぜひブックマークだけでもお願いします。

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