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45.買い物

本日の投稿は42話から!

『ガガロン=ガルド』はやや敷居の高い店だ。

店主はドワーフ。頑固で気難しい。おまけに街の兵士や教会騎士の武具を整備する御用鍛冶師。

新人が訪ねても買えるようなものは売っていなかった。


多くの新人や中堅は武器が無ければ市に出ているものを一か八か買うしかなかった。

そんな高級店に新人冒険者が足を運ぶ。


「すげぇ……こんないい剣がこの値段で!?」

「これなんて新品みたいだ!!」

「今度から二本目はここだな」



ある日を境に営業方針が大きく変わり、安価で性能のいい中古を取り扱うようになった。

人づてにすぐ評判が広がり、来客が大幅に増えた。


「試し切りするか?」



革のエプロンと手袋をした若い職人が接客してくる。


「え? あ、いいんですか!?

「ああ。有料だけどな。巻き藁代」

「お願いします!!」



新人が剣を振るう。

巻き藁に剣が刺さる。



「ああ……う~ん」

「貸してみろ」



その職人が剣を奪い取り、構えた。

「何してるんだこの人」という視線を無視し、職人が剣を振るった。

空気が斬れる音がした。


一拍置いて巻き藁が斜めにするりと落下した。



「うわぁぁぁ! すげぇぇ!!」

「叩きつけるな。反りを利用してスライスする。全身を使って円を描くように」

「は、はい!!」

「で、どうする?」

「買います!!」

「毎度あり。で、鞘とベルトは? 買うならメンテナンス用の油をつけるぞ」

「それもお願いします!!」

「毎度」



流れるような実演販売からの付属品の同時購入。

鞘や革のベルトは新品だ。原価が安い分利益が出る。それに、すぐに壊れるからリピーターになる。剣単体より付属品を買わせることで利益を取る。それでも十分安いので客は満足して買っていく。



「なんだそりゃ……おめぇ、冒険者やめて商人になったほうがいいじぇねぇか?」


ガガロンがチェスの手馴れた手腕に呆れる。

前世商人だったせいか、接客業はお手の物。

おまけに収益や経費の計算まで始めた。



「おまけにあれだけあった不良在庫をよくもまぁ、こうも売りもんするとは」

「まぁ、多少ズルをしたからな」

「まさかおめぇが『錬金加工・分解』の天授技能(スキル)を持っているとはな」



錆だらけの剣の錆を『分解』で取り除いた。

折れた剣は短剣や槍の穂先に。

それだけではない。

火入れし直し、刃こぼれを修繕。焼き入れして強度やバランスを再調整する思い切った改修も行った。


特に、火入れや打ち直しした武器に魔力を通しながら行う作業はガガロンに引けを取らなかった。

魔力を通すことで、使用者の魔力が宿りやすくなり敵の魔力による影響を受けにくくなる。

この工程を行うと魔獣討伐で刃こぼれしにくくなる。


「チェス、客の相手ばかりしとらんでこっち手伝え!」

「おう」


ガガロンはチェスに工房を使わせ、自分の仕事の手伝いもさせた。



一先ず、金の心配は無くなった。





「どうしておれまで?」

「だって、君が服を買ってくれるんだろう?」

「いや、おれは実験機材を買うつもりだったんだが」



まとまった資金が手に入ったのでチェスはまずカーミラが薬師として働けるように、生成用のすり鉢や寸胴鍋や撹拌機などを弁償すると切り出した。

だが、いざ買い物に繰り出すと話が変わった。



「いやいいよ。神殿が貸してくれるからね」

「先に言えよ。おれは帰る」

「待て待て。服だって必要だよ」

「……金?」



チェスが財布を渡そうとする。それをひっこめさせる。



「そうやってシルヴィちゃんにもお金を渡して買わせるの? 買って来いって?」

「む……別に問題ない、よな?」

「はぁ、君にはまだ教えていない重要なことがあったようだ」

「……なんだよ?」

「エスコートの作法だよ」


二人で市場を歩く。

周囲の目を惹くのはカーミラだ。

超越的な美貌。太陽光を跳ね返す無敵の肌。

赤い宝石のような瞳。艶めく黒髪。


そこに眼鏡をかけている。眼鏡は貴族か学者ぐらいしかかけていない珍しいものだ。

眼鏡のレンズはカーミラの魔物としての異物感を和らげる効果がある。


白いブラウスに黒いロングスカート。まんま普段のシルヴィの服装だ。普段は身体を縮めているが店先でやるわけにいかないため、今日は元のサイズだ。

ブラウスがややきついため少し解放気味。スカートも足首より上まで丸見えだ。それが余計に周囲の視線を集める。


「なぁ、姿を自在に変えられるならもっと人目を惹かない見た目にした方がいいんじゃないか?」


チェスは視線の多さに辟易とする。


「ごめん。これが真の姿だから。罪な女だよね私って」

「ああ、隣を歩かれると疲れる」



カーミラは無言でチェスに腕を回した。

怨嗟の念がチェスに送られた。



「そんなに睨まなくても。ごめんて」


どちらかと言えばチェスは無骨な顔立ちだ。悪く言えば強面。目つきも悪い。周囲を歩く者たちは悪者に連れ歩かされる美女という構図を思い浮かべたに違いない。



「家を吹っ飛ばしたこと、まだ根に持っていたのか」

「いや違うけど。人の家を吹っ飛ばしことは数日でうやむやにはならないよ。それよりこんな美人に引っ付かれてその態度が許せないね。少しはどぎまぎしてくれよ」

「おれはお前の本性を知っているからな」

「それはそうだね」


それは自堕落で不健康な生活力の無さを指したが、周囲には深い男女の関係をにおわした。すれ違う男が舌打ちをしていた。



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