44.労働
本日の投稿は42話から!
「あ? 無理無理ぃ~!」
「無理だね。そりゃ」
「なぜだ!?」
推薦者として頼んだのはゼータとグレイ。
二人共B級冒険者。条件は満たしている。
ちゃんと卓には酒と肴が乗っている。全てチェスのおごりだ。
「チェスよぉ。推薦ってのはその冒険者の実力が正当に評価されてねぇっていう難癖みたいなもんなんだぜぇ?」
「アンタとは同期だけど、組んだこともないし、あたしらの評価にも影響することだ。お願いされてするもんじゃないね」
二人の言っていることにチェスはぐうの音も出ない。
チェスはいっそのことスキルのことをギルドに報告してしまおうかという考えがよぎった。
しかし、エルルクが黙っていないだろう。
チェスはワチの安全が確保されている今なら、実験のことなどどうでもいいが、エルルクは黒魔術の実験結果がそのものを隠匿してこれ以上関心が広まることを危惧している。
エルルクにどう思われようとどうでもいいが、シルヴィにどう迷惑が掛かるか分からない。勝手はできない。
「ところであんた、しばらく見ないと思ったら美人のメイドを連れ込んでいるってホントかい?」
「おまけに、逸れ学士さんとも同棲してるってマジなのか?」
「お前ら……その情報にいくら払う?」
「本当に金がないんだな……」
「甲斐性が無い男はくたばりな」
ゼータに責められ、グレイにしつこく聞かれてチェスは分が悪いと退散した。
依頼をくまなくチェック。しかし、受けられそうな依頼は長時間の拘束の割に見入りは少ないものばかり。これでも自分一人か小さいワチぐらいなら何とかなった。しかしこのままではもう成立しない。
チェス自身の装備もそろそろ直さなければマズい。機能は変わらないが単にみすぼらしい。そんな冒険者には依頼は舞い込んでこない。
仕方ないので今まで通り薬草採取の依頼を探す。
無い。
受付に並んで尋ねることにした。
「ああ、チェスさん」
ロイスが笑顔で出迎える。
「薬草採取の依頼はあるか?」
「ないです!」
「あぁ?」
「そんな怖い顔しないで下さいよ! だって、薬師様が仕事してないんですもん。しょうがないじゃないですか」
「……ちっ、そうだった」
「薬師様のお家が爆発したって聞きましたけど、チェスさん何か知ってますか? 正教会からも問い合わせあって困ってるんです」
チェスはロイズの問いかけを無視した。
「こうなったら、適当な任務で街の外に出て、適当に魔獣を狩るか」
下手をすると討伐対象に指定されている魔獣を狩ることになる。その場合、依頼を受けた冒険者がいたら横取りとなってしまうが仕方ない。
それでも、このまま帰って収入の充てが外れたことを報告するよりましだと考えた。
考えながらくせでいつも通っている鍛冶屋の前を歩いていた。
「小僧!!」
「うお!? なんだよ、じいさん急に……」
街唯一の鍛冶工房『ガガロン=ガルド』
声を掛けたのはその鍛冶師の親方。ガガロン。ドワーフだ。
「さっさと来い!!」
ドワーフの剛腕で腕を掴まれ、店に連れ込まれた。
ガガロンは顔を真っ赤にして大声で怒りをあらわにした。
「この野郎、半年以上も顔を出さずに女遊びだぁ!? いいご身分だな!!!」
「うるせぇ、何言ってやがる、爺!」
「御託はいい! さっさと刀を寄こしやがれ!!」
「いやメンテはいい。金もねぇ」
「いいから寄こせ!!」
ガガロンはひったくるように『月光鳳蝶』を奪うと引き抜いた。
「ん?」
「だから間に合ってる」
チェスがこの『月光鳳蝶』は有名な業物だと知ったのは先日のこと。
チェスの師は剣聖グラス。その愛刀『月光鳳蝶』はカーミラの権能でも破壊できないほどの傑作。再現不可能な聖遺物級の代物だ。
対してガガロンはこの刀の由来を知っていてチェスには隠していた。いつもチェスに厳しかったのは、パッとしない平凡な冒険者が分不相応な刀を持つのがいけ好かないからだ。それでも刀のメンテナンスを率先して受けていた。
チェスの師から頼まれていたからだ。
「小僧、冒険者やめたのか?」
「あぁ? ぶっ飛ばすぞ。現役だ。てめぇと違ってな」
チェスの悪態を無視してガガロンは刀の刃をまじまじと見つめる。
「かすかに血の匂いがする。最近何かを斬ったな? 儂以外の誰に見せた!? 誰に整備させた!?」
「じ、自分で」
迫り、語調が強まり、眼が鋭くなるガガロン。
「嘘つくな!! 素人にこの刀を研ぎ磨けるわけなかろうがっ!!!!」
「本当だ!! これぐらいいい加減もう自分でできんだよ!!」
「ほう? 生意気だと思っとったが、ここまで自惚れとったか……なら証明せい!!」
ガガロンがおもむろに樽に乱雑に入れられた剣を抜き取り、チェスに渡した。
「研いでみろ! できるんじゃろう!? え!?」
数十分後。
できた。
「できとる……?」
「なんだよ。別にいいだろ」
鍛冶師だったのだから出来て当然。いや、今のように便利な道具が揃っていなかったから、出来は職人の腕次第で、現代の方が楽だ。
「小僧、金が無いとかいっとったな」
「同居人が増えたからな」
「おめぇ、ここで働くか?」
「え?」
それは意外過ぎる申し出だった。
頑固職人、その上、嫌われていた相手が雇うと言ってきた。予想外と言わざるを得ない。チェスは沈黙していた。
「働くと言っても、そのへんに転がっとる廃品の再利用じゃ。普段は鋳溶かすんだが、面倒じゃからおめぇ、修繕できるんなら勝手に売って良いぞ?」
「いいのかよ? なんで?」
「どうせ冒険者が捨ててったもんじゃ。今の手際、中々のもんじゃ。ただの偏屈なガキじゃと思っとったが、今のおめぇは職人の顔しとった。いや、あのボロ剣をここまで見事に研ぎなおし、性能を損なわず仕上げた腕は儂以上かもしれん」
ガガロンは先ほどと代わり、チェスに敬意を払っていた。
「金が無くて困っていたのは本当だ。遠慮なくやらせてもらうが、そっちの新品が売れなくなっても知らねぇぞ」
「あほ抜かせ! 研ぎなおしてもボロはボロ。せいぜい予備か、新米の装備にしかならん。それでも、儂は不良在庫の処分をせんで済むから何も損はせん」
「ならさっそく」
チェスは思いがけない働き口を見つけた。
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