42.同居
街の外れで大きな爆発があった。
「学士が実験に失敗したらしい」ということで誰もが納得した。
「ひ、ひどいじゃないか。私の家を吹き飛ばしたのはチェス君なのに」
「だから、こうして埋め合わせをしているだろう」
チェスの魔法でカーミラの家は全壊全焼。
持ち物は焼け焦げた服だけとなってしまったので、借りている戸建てに住まわせることにした。
といっても、彼女は権能で服を作り出せる。今はそれを着ている。ただし、真っ白いワンピースは似合っていない。彼女の権能『森羅転生・白光』は魔力を物質に変換できる。ただし、つくったものは全て白い。
「あと、数刻で消えてしまう。元は魔力だし」
「急ぐぞ」
家で掃除をしていたシルヴィは煤だらけの二人を見て無表情だったが、仕事が増えたことに何も感じなかったわけではあるまい。
「シルヴィさん、ワチ。エルルク学長の古い知り合いで、おれの……育ての親です」
カーミラは口をパクパクさせている。
「早くあいさつしろよ」
「知らない人間がいるよぉ……」
チェスはため息をついた。
「人見知りすんなよ。誰よりも年寄りのくせに」
「いや~。だって、人間はすぐに話し方変わるし、流行も変わるし。それに! よそ者は未知の病原菌を持ってたりするんだよ?」
大抵の人間がカーミラを見ると根源的な恐怖を感じる。だから大抵は素顔を見せずに行動する。
街の人間で彼女の素顔を見たことのある者はほとんどいない。
「すいませんシルヴィさん。引きこもりなもので」
「いえ。初めまして、エルルク様の傍仕えをしておりましたシルヴィアと申します。この度、チェス様の身の回りをお世話するようエルルク様から仰せつかりました」
「うわぁ……ちゃんとしてる子だぁ……」
シルヴィはカーミラを直視しても平然といつものように丁寧なお辞儀をしてみせた。
「私が怖くないの?」
「はい……少し、エルルク様に似ておられますので」
「ああ、あの子は私の娘だからね」
チェスとシルヴィはそろって目を見開いた。
「まさかエルルク様の御母堂様とは知らず、失礼いたしました!」
シルヴィは恐縮して膝をついた。
「嫌な親子だな……どうりで」
「それより、そのちんまいのは大丈夫かな?」
ワチは何かを感じ取ったのか、玄関で失神していた。
「……ワチが困るようなら出て行ってくれ」
「こ、困るよぉ~。置いてよ~」
チェスはシルヴィにカーミラの世話に任せた。
シルヴィの眼にカーミラは人間として映った。
「煤を落としますので裏庭へお回り下さい」
「え……? いや、自分でやるからさ」
「お手伝いいたします」
「ぐいぐいくるよぉ~」
焼け焦げた服を引きはがし、身体を拭く。風呂などという気の利いたものはないが大きい桶があれば事足りる。
カーミラの身体にはシミ一つなく、大理石でできた彫像を思わせた。
「……エルルク様より、チェス様の試練の後、お支えするように仰せつかっております。その試練は終わったのでしょうか?」
「どうしてそう思うの?」
「チェス様の顔です」
「顔?」
「少し、晴れやかな顔をされておられましたので」
「そうか……君はよく見てるね」
髪を梳かし、ガウンを着せる。その姿は髪の色こそ違えどやはり、エルルクとよく似ていた。
「エルルクは随分君のことが気に入っているらしい。大方、その症状をチェス君に何とかしてもらおうという算段でしょ」
「わかるのですか?」
シルヴィは驚いた。
他人の魔力量を推し量るのは神業だ。
カーミラの『魔眼』はシルヴィの状態を正確に読み取っていた。
「黒魔術……それも大規模な儀式魔法を受けたね。かなり厄介だ」
「そこまで……」
「君は魔力が回復しないんじゃない。魔力を取り込めない体にされた。一時的な状態異常ではないね。いわば呪いだ。エルルクがどうにもできないわけだよ」
シルヴィは表情に影を落とす。
「アハハ、そう落ち込むなよ。君の方がまだ可能性がある」
「可能性?」
「神の慈悲……奇跡の可能性だよ」
シルヴィは意外に感じた。
カーミラが天を仰ぎ手を合わせて祈る。
呪われた王族と死にたがりの吸血鬼はチェスと暮らすことになった。
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今日は連投します!




