幕間 カーミラ
酷い話をしよう。
人間が時々ひどい話をしているでしょう。
どこかの国と国が戦争して何人死んだかって。
多分私の方がたくさん殺してるんだよね。
最初は普通にその辺にいたから、食料にしたりね。
別に食べなくてもいいんだけど、口寂しいときにパクっと。
人間という生物が私にとってはその他の生物と同列だった時代が結構長かった。
それから人間が文明を作ってからは控えるようにした。でも、人間の反応を見るために、暇つぶしに殺した。
子どもが蟻をつぶしたりするでしょ? あれと同じ。
人間が文明を作った理由が割と、私を殺すためだったりすると知ったのは結構後になってからだった。
でも、私もかなり、人間に肩入れしていると言わせて欲しい。
何せ、他の魔物からの誘いを全部断って人間の観察に費やしたんだからね。
おかげで全面戦争の時代もあった。
私を慕う魔物もいたけど、魔物とも人間とも戦っていたからほとんど死に絶えた。
そのころから私は焦り出した。
終わらない。それは私の意思じゃない。
他の生命が生まれて必ず死ぬ定めを持っているのに対し、私には死がやってこなかった。
どうやったら死ぬのか実験してみた。
心臓を潰しても再生するし、首を斬り落としても復活してしまう。火山に浸かって跡形も無く消えたはずなのに、気が付くと塵芥から元に戻っていた。
いつからか私は死を諦めていた。
ならば逆に人間を私に近付けてみてはどうかと考えた。
知恵を授け、学ばせ、導いた。
しかし人間の成長速度はとてもゆっくりだ。
永遠の時間を持つ私にはちょうどいい。
うっかり目的を忘れてしまっていたこともある。
そうして気長に文明が大きくなるのを待った。
結論から言えば、これは正解だったけど、失敗だった。
やり方は合っていた。
勇者が生まれた。
私は神を信じていないけど、何らかの力が働いていることはわかっていた。
その力が勇者に力を授けている。
私が知り得ない力だ。
【奇跡】、【加護】、【神聖術】―――魔力とは異なる体系と法則。
私を殺せると直感した。
神に選ばれた勇者ならば。
けど、私は待ち過ぎた。
魔物たちも人間との戦いで成長進化していた。
私は魔物に肩入れしていた方が良かったのかもしれないと後になって気が付いた。
勇者は未熟だった。
何度も私に立ち向かってきたけど、勇者という存在は一代ではとうてい私に敵わない。
そこで、定期的に勇者と戦うことにした。
辺境の地に堂々と住んで、数百年おきに現れる勇者と戦う。それは功を奏し、勇者という存在はより強く、力を継承していった。
しかし、またもや誤算が生じた。
魔王だ。魔王に勇者を取られた。
当初、私を殺すために構築しされたシステムは、私を倒すという機能を全うできないために、魔王を名乗るどこぞの魔物を討伐することが目的に挿げ代わり、勇者があまり来なくなった。
私は考えた。
何せ考える時間は無限にあるから。ちなみに私は睡眠もしない。
名案が生まれた。
勇者が魔王討伐に出向く前にこちらに導く伝説を作ればいいのだと。
私は魔導師の集団が運営する魔塔にこっそり侵入して、それっぽい伝承を紛れ込ませた。
私の居場所と、もたらされる力について。
具体的には来たらいい武器をあげようという話だ。
私はもう一つ手を打った。
定期的に私の因子を引き継ぐ者を生み出し、各地に送り出した。
その一人がエルルク。
ホムンクルスだ。
彼女はかなりいい仕事をしてくれた。
でも私が親のような存在だと知ってからは戦わなくなってしまった。遺伝子が拒絶しているのかもしれないね。
勇者エヴァンは私と戦って剣を手に入れ、魔王を討伐。その後もずっと来てくれた。
私の希望は齢98歳で老衰によりこの世を去った。
それから数百年。
エヴァンの仲間だった剣聖グラスは時折フテナに顔を出す。
エルルクはフテナに私を殺せる魔術師を発掘するための私塾を開いたらしい。
そして現在。
気まぐれで育てた子供が大人になった。
チェス君だ。
彼はいろいろなものが欠けていた。
それがある日突然補われていた。
天授技能、共感性、愛情……
私はふと思い至った。
彼に全て託そうと。
これまで私はただ死ぬことばかりに拘って、その意味について真剣に考えてこなかった。
でも、私はチェス君の糧になることに何ら抵抗がない。むしろ、それで彼の運命が変わるならこんなに報われることはない。
心底そう思った。
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