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38.悪酔い

街道で山賊退治に出向いた冒険者たちは、自分たちが全く見当違いだったことを思い知った。


街道には確かに障害物が設置されており、やり口は山賊だ。

案の定山賊たちが一斉に攻めてきた。

しかし所詮は戦闘の素人。


冒険者の相手ではない。

次々と屠っていく。

しかし、倒しても倒しても、キリがない。


ようやく異常に気が付いた。


「なんだぁ? 体が上手く、動かん」



冒険者たちを襲ったものの正体。

それは山賊ではない。

元から山賊などいない。


魔獣、ショウジョウ。

人を食らう強大な二足歩行の猿。

その権能は、酒精を蒔き、広範囲に混乱をもたらす『酩酊』

この魔獣は知能が高く、独特な狩りをする。

山で迷った人間を、人間のフリをして誘い込む。

だがここのショウジョウたちはさらに効率的な狩りの仕方を見つけた。

たまたま山賊を相手にしたことで学んだ。

山賊が街道を塞ぐ一連の行動を学び、山賊に見立てて止まった馬車を次々と襲って食い物にしてきた。酒を手に入れるためだ。



ここまで回りくどい狩りをするショウジョウは通常はいない。しかし、ここは辺境の奥地。

生きるための知恵を持った個体が生き延びた結果この地特有の進化を遂げていた。


ショウジョウたちは群れとなっていた。


脅威度は単体で【獰悪(イービル)

群れでは【暴虐(アウトレイジ)】だ。


禽獣(モンスターズ)】―――人に害する魔獣の類。D級相当案件。

獰悪(イービル)】―――魔獣・魔物の襲撃。C級相当案件。

暴虐(アウトレイジ)】―――群れによる襲撃。B級相当案件。

死滅(デストロイア)】―――上位魔物の出現。A級相当案件。


脅威度は対応する冒険者ランクと紐づけられている。

これはB級冒険者相当の案件。しかし、B級のような高位冒険者が荷馬車の警護を行うことは稀。

魔物という天敵がいないこと。

騎士団からの積極的な討伐が無いこと。


ショウジョウたちは着実に支配を広げていた。



この日までは。





冒険者たちはその衝撃で『酩酊』から覚めた。


あまりの衝撃。

地面が抉れるような轟き。


日が沈んだ闇夜を照らすオレンジ色の熱風。

それらが無数のショウジョウを吹っ飛ばしていた。


彼らがそれらを目撃して無事でいられたのは魔力の盾が構築されていたからだ。

もれなく全員に、強固な単純防御魔法が施されていた。冒険者パーティの魔術師はその強度から発動者の力量を推し量る。

少なくとも自分より上。

熟練の老魔術師を思い描いた。



爆炎の中を漂う人影。

自分たち以外の異分子。

酔いでぼやけた視界を眼を凝らし見据えた。


炎の揺らめきで逆光を背負う男に、一同見覚えがあった。



「……草取り名人?」



つい先ほど、自分たちが任務を横取りした相手。

ギルドでひとしきり馬鹿にされていた男。

その身体は自分たちと同じく魔力の盾で護られている。


周囲を見渡すとバラバラになったショウジョウたちが転がっていた。

何が起こったのか察しは簡単に付く。


ショウジョウたちが撒いた酒精を含む霧に火をつけた。


口から撒いていた個体は体内にも引火して爆発していた。



問題はそれを誰がやったのかだ。



おもむろに、暗闇から巨大な人影が飛び掛かってきた。



「まだいやがったのか!!」



無数のショウジョウは自分たちの狩りを邪魔したチェスに一斉に飛び掛かる。


チェスは冷静に刀を上段に構える。

二足歩行から四足歩行へ。

突進してくる巨体をひらりと躱す。


天授技能(スキル)『超反応』を駆使した反撃。

首は一撃ではじけ飛んだ。

首切り役人の早斬りショーでもやっているかのように、淡々と首を刎ねる。


後方から煙に紛れて別の個体が接近していた。



明らかに他のショウジョウよりも大きく機敏。

群れのボスだ。

長く鋭い爪がチェスを襲う。

上段から切り込む隙がない。


その攻撃の合間に、口から『酩酊』を仕掛ける。


冒険者があっと声を漏らす。

状態異常攻撃は致命的だ。『酩酊』状態ではもはや戦いにならない。


チェスはそれを待っていたかのように、酒精の霧ごと魔力の壁でショウジョウを囲んだ。

無論、ショウジョウ自身は自分の『酩酊』で混乱することはない。ゆえに、ショウジョウにはその意図が理解できなかった。

チェスの狙いは密閉した空間での帰化したアルコールへの着火。



その早業は権能発動の直後、盾で覆う魔術と天授技能(スキル)『発火』がほぼ同時に展開された。



激しい光と轟音と共に爆ぜた。

爆発は魔力の壁を突き破った。


「ちっ、ミラ婆みたいにはまだ無理か」


厄介な魔獣をたった一人で討伐した男。

酔っているからか、それとも揺らぐ炎で見まちがいえているのか。


「お前、チェス、だよな?」



相手は反応しない。

興味がない様子だ。



「なんで助けた?」


チェスは笑みを浮かべた。

作り笑いと分かる。


「同じ冒険者だろ? 困ったときは助け合おうや」



チェスは模範的な解答をしたと思った。

だが、心にもないことを言ったせいでその言葉はとてもうさん臭く聞こえた。



一同の下へ馬車が追いついてきた。



「全員御無事でしたか。よかったです」

「チェス君強いです~。さすがです~」



難局を乗り切った冒険者たちは安堵する。

窮地は脱したのだと。



しかし、馬車に乗り込もうとしてチェスが押しのけた。


「何してやがる。乗るな」

「え?」

「馬の脚が遅くなる。お前らは走って戻れ」



眼が本気だった。

むしろ、なぜ乗せなければならないのかという目をしている。

なぜというなら、冒険者たちが乗っていた馬車はチェスが吹き飛ばしたからである。




「チェス様、そういう言動は慎んだ方がよろしいかと」

「……困ったときはお互い様、ですね」



冒険者たちは察した。

自分たちを真に助けてくれたのは、高嶺の花のごとき品のいいこの女性なのだと。


 

「チェス君が素直? ん~?」



彼女のいないところで、逐一「厚かましい」「冒険者止めちまえ」「いつまで乗ってんだ」「臭い」という聞こえる小言を聞きながら疲弊しフテナに戻るころには誰も口を開かなくなっていた。





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