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34.総会

魔法都市、エルルク魔導学院。

大講堂に学生や研究や、それに街や周辺の魔導師たちは一同に会していた。

彼らは観劇に来たのではない。

この学院の今年の成果を確認に来ていた。


クノンティスは総会を前にして、落ち着かない様子だ。

壇上のすぐ前の席を確保し、陣取っている。杖を握る手には汗をかき、脚が上下に揺れる。

期待に胸を高鳴らせていた。

これから学院が自分のものになる。はやる気持ちが抑えられない。


「結局、あの男は戻ってきませんでしたね」


派閥の男がご機嫌な話題をふる。


「ふん、そういえば、大口を叩いた愚か者がおったなぁ」

「ええ、エルルクは何もめぼしい対策も根回しもしていません」

「すでにあきらめたか。前時代の遺物め。今日でおさらばだ」


学術研究派閥はすでに根回しを済ませていた。

総会には王国の重鎮たちも参加している。

クノンティスがすぐ隣の座る貴族たちと視線を交わし、挨拶する。反対の席にも頭を下げ、互いに笑みを交わす。

資金力を持つ王国貴族たちがクノンティス陣営を通じてこの魔法都市の内政に食い込もうとしている。



「クノンティス。今日は期待しているよ」


後ろの席に来た一人が声を掛けてきた。


「お任せを」

「長らく、王国はこの魔法都市との関係で辛酸をなめてきた。一地方都市が王国と対等などとあってはならないゆがみだ」

「おっしゃる通りです。私が学院長となった暁には都市の運営も大転換を図り、王国とのよりよい関係構築のために邁進してまいります」

「うむ」



結論ありきの総会が始まった。

壇上に研究者が上り、発表を進めた。


「今年、我々は王国の魔導機関へ、杖の供給をし、特にかの有名な」



自分たちの実績を誇示する。

如何に自分たちの技術が有名人に使われているかを自慢げに発表していく。


彼らにかかれば利用者の功績は全て自分たちのもの。



締めくくりにクノンティスは壇上に上がった。



「我々の報告は以上になります。しかし、もう一つ大事なお知らせがあります」



エルルクに対する糾弾が始まった。



「私はこの学院の悪しき慣習を見直すべき時だと思っています。一部の権力者が、特定の学生を優遇し、特別扱いをし、学院の予算を私的に流用する。こんなことがこれからもまかり通って、果たして健全な運営がなされるのだろうか!?」




エルルク陣営も黙ってはいない。

魔術師たちが立ち上がり壇上に向かって声を荒げた。



「その一部の権力者とは誰のことかはっきり答えたら如何か!!」

「主任研究員という立場を利用しているのはあなたでは!!」

「学院の待遇が不満ならば出て行けば良いではないか!!!」



反論に共感する学生はやけに少ない。

戸惑うエルルク陣営が周囲を見渡す。皆視線を逸らす。


「なんだ……?」

「学生は杖という安易な戦力増強に眼がくらんでいる!」

「それに、一部のエリートが優遇されることをおもしろく思わない者の方が多い。総会という場で多数決を取られれば、弱い者の方が強い! クソ!」



皆、手っ取り早く魔法が使える杖を求めている。

それに王国出身者が多いことも影響した。

エルルクという絶対的権力者が退任すれば、多くの者が利益を享受できる。


弱い者が徒党を組み、強者から奪う。

大義など無くとも正義にできる。

見せかけのお題目だけあれば、人は利益を優先する生き物なのだ。



「魔術は一部の者の力だ。長年にわたり、魔法は独占されてきた。もうそんな時代は終わったのだ。今こそ変革の時ではありませんか!?」



会場から拍手が巻き起こった。



「我々は魔法を普及させる!! 誰もがその恩恵を受けられる、公正公平な力の分配をもたらします!! この学院がそれを主導するべきなのです!!!」



クノンティスの演説は大いに盛り上がった。


その後のエルルク陣営の発表は静かなものだった。

討伐した魔物や、関わった事件、解決した問題などは文句のつけようがない。

だが、それが返って一部のエリートの功績独占という空気が出来上がっていた。


困惑し壇上を降りる魔術師たち。



「このままでは……」


シルヴィもワチやエルルクと上層階の貴賓席で演説を聞いていた。

シルヴィは未だに帰らないチェスに不安を露にする。

この数か月、チェスは一度も連絡を寄こさなかった。


「チェス様、本当に戻ってくるでしょうか?」

「ウフフ、心配しないで。必ず戻ってきますわよ」


深刻な空気が流れるなか、エルルクは涼しい顔をしていた。

エルルクはワチに眼を向けた。

隣の席のワチがまっすぐ見返す。


「チェス君は戻ってきます」

「ウフフ、そうよね」


黒いレースの手袋でワチの頭をなでる。

ワチはチェスをつなぎとめる保険だ。


「ですが、この空気を変えるほどの研究成果を断った数か月で……」

「シルヴィ、御安心なさい。こういうことは前にもありました」

「そうなのですか?」



不安で仕方ない様子のシルヴィが希望を眼に宿した。


「ええ。ワタクシから実権を奪おうとする者は結構居りますのよ。でも、大体2,3年もするとボロがでて戻って欲しいと頼まれますからね」

「……エルルク様、一端奪われるのですか? それでは」



シルヴィは落胆して肩を落とす。


「一度失敗しないと学ばないんですよ。人間は」

「ですが今回は、街の運営にも関わります。王国がこの都市を取り込んでしまったら、もう元には戻りません」

「ウフフ……そこは、大丈夫ですよ」

「え?」


エルルクは意地の悪い笑みを浮かべた。



「奪われたら力で奪いますから」

「……エルルク様、それは……」



主の思い切りの良さに思わず言葉に詰まるメイド。


「ダメかしら?」

「いえ……」

「要するに圧倒的な現実の力を見せつければ、皆さん幻想から解放されるのです」




彼女にはすでに、その姿を特殊な眼で捉えていた。


眼をつむり、悠々と歩く遅刻してきた投資先を追う。




「来ましたね。彼らの目を覚ます圧倒的現実が」



大講堂のドアが開く。



「なんだ貴様! 部外者は立ち去れ!」



すぐ傍にいた者が入ろうとする男を引き留める。



「邪魔」



男は吹っ飛んだ。



「ぐぁ!!」



全員の視線が注がれた。

そこにいたのはガラの悪い短髪の冒険者がいた。


クノンティスは忌々し気な視線を注ぐ。



「ふっ、恥をかきに戻ったか」



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