30.難題
チェスはクノンティスらと決別した後、窮地に立たされていた。
それは工房と人材の確保の問題だった。
「ここは今使っている。他所へ行ってくれ」
研究施設は学生向けに学部塔の方にもある。
しかし、どこの研究室も工房も満員で、空きがない。
チェスの研究を手伝える者も設備も使えなくされていた。
「妨害か」
「嫌がらせですね」
チェスは研究棟に殴り込み、居座っている役立たずの連中を追い出そうと考えた。
「シルヴィさん、実績のない奴らは追い出しても問題ないですよね?」
「大いにあります。今成果が無くとも今後何かの成果へとつながる可能性があります。だからこそエルルク様は過干渉をしてこなかったのです」
「ですよね」
チェスはすぐに意見を翻した。
「あの方ならあるいは……」
シルヴィが思いつきを話した。
「誰かいますか?」
「学外ですが、優秀な魔工技師の集団がいます」
学院の外。
魔法都市の都市運営に携わる職人たちがいる。
彼ら魔工技師たちは主に古くからある結界装置を維持、管理している。
複雑な魔法式を扱っている数少ない古流魔導師たちだ。
「学院の卒業生ですし、彼らはエルルク様を尊敬しています」
チェスたちは学院の外へ出た。
学院内で全て賄えたためチェスとワチにとってはひと月ぶりだ。
「わ~い」
「遊びじゃねぇぞ」
「どこか、寄りますか? 服飾店や菓子店などございますが」
「気を使わないで下さい。ワチ、遊びじゃねぇんだぞ」
しゅんと大人しくなるワチ。
「チェス様、帰りに寄るぐらいでしたら」
「ですね」
「やった~!」
シルヴィに案内されて学外の施設へ。
立派な城壁。手入れが行き届いている。その一角が城のように建物になっている。
中も重厚な神殿のような作りをしている。
実際、半分は神殿。
技官として魔工技術を修めた神官がほとんどだ。
「おや、お客人とはめずらしい」
技官は笑顔でチェスたちを出迎えた。
都市を護る中核的なシステムをになってはいるが、住んでいる人々はそのことをあまり意識していない。
訪問客は少ない。
それはいいことだ。
キチンと結界が機能し、異常がないからだ。
「いいですよ。ぼくらは職人です。作れと言われれば造ります」
「そうか」
丁重に来客室に案内され歓待された。
エルルクからの紹介状を持ったシルヴィに、職人たちは快諾。
だが、そう簡単にはいかなかった。
設計書と工程を記したメモを見せた。
「これは……」
「しかし……」
「こんなことが」
魔工技師たちは目を見開き、何度も内容を確認した。
「魔石を分解するだと」
「いや、魔法式を対消滅させるというアイデアはすごいが」
「魔法式保存に関する魔法式を見つけるというのか」
「複雑な工程の連続……現代の魔法技術でこんなものを作ろうだなんて」
技師たちは最初数人だったのがどんどん上役がやってきた。
会議の様になっていく。しかし、難題に全員顔をしかめた。
「できねぇのか?」
「理論上可能だとは思う。だけど、最低でも『錬成術・天』の錬金術師と『付与術・天』の付与魔法師が必要だ」
「いねぇのか?」
チェスの質問に一同が顔を見合わせる。
チェスからすれば、天下の魔法都市。
それぐらいいると踏んでいた。
「チェス様、錬金術師は大陸になら数人いるかもしれませんが……付与魔法師はほぼいません」
「え? だが……」
チェスはこれまでに物体に魔法式が刻まれている魔道具をいくつも見ている。
「魔法式を物体に書き込むのは魔工技師の仕事だ。魔力で付与する付与魔法師とは違うんだよ」
チェスの記憶違いが災いした。
昔は両方、付与魔法師の仕事だった。
そしてそれらは即席付与と呼ばれる魔力による付与と、物体に刻む恒常付与で専門分野がちがっていた。
即席付与は廃れ、付与魔法師も消えた。恒常付与の技術は魔工技術として残った。
「なんで付与魔法師はいなくなったんだ?」
「多分、成果が見えにくいからだろう」
「そうですね。恒常付与、魔工技師の仕事は後に残りますが、即席付与術は戦闘向けです。実際戦うのは仲間で、功績が評価されにくかったんだと思います」
チェスには身に覚えたがあった。
「ど、どうしましょう?」
珍しく狼狽えるシルヴィ。
このままではチェスの計画はとん挫。
総会で非難は避けられない。
エルルクの威光に傷がつく。
そればかりか、学院長退任を迫られることだろう。
「チェス様?」
「仕方ない……一度帰るか」
「……はい」
諦めて帰る。
そう聞こえたシルヴィは肩を落とした。
だが、チェスの眼は死んでいなかった。
「雑貨屋と食料店に行こう」
「はい……食事は屋敷で用意しますが」
「お菓子は?」
「要らん。三日分の旅支度をする」
ブックマーク、評価を励みにして連載しております。ぜひよろしくお願いします。




