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29.探求

定例会議の後すぐにチェスはクノンティスに呼び出された。



「腹は決まったかね?」

「これから決める」



チェスはエルルクに義理がある。

だからと言って派閥争いに加わる気は無かった。

必要な作業が研究棟でできるなら、利用する気でいた。



「よく来てくれた。何やら研究しているようだな」



エルルクの強気の態度の源がチェスにあることは察していた。

チェスの行動を監視させて、頻繁に研究書を読んでいることを確認したうえで声を掛けた。


チェスが研究棟側に付けば、エルルクには成す術はない。




(わしが魔法を衰退させているだと? ばかばかしい。わしが魔法を広めたのだ。わしあってこそのこの学院なのだ……前時代の遺物め)


クノンティスは徹底的にエルルクを追い詰め、総会でこき下ろす計画を建てた。



「魔石を加工したい」

「ほう? 杖を作るのかね?」

「いいや」



チェスが作ろうとしているものは魔力を保存する器。

魔力備蓄装置だ。

そのことは伏せた。


そのアイデアについては秘密だ。


チェスは研究棟で一通りの説明を受けた。

一通りの素材、魔力が漏れない特殊な部屋、専門の書物。確かに揃っている。



(ダメだな)



チェスは腑に落ちた。

エルルクが引き留めない理由。



チェスが作ろうとしているものはこの現代の研究者たちでは作り得ないものだ。

そのことをすぐに悟った。



「この杖を見よ。ボアレウスの魔石を組み込んだ一級品だ」

「もう十分わかった」

「どうした? 最先端の魔石応用技術の粋を結集させた一品だぞ!」



怒りをあらわにする研究員たち。

チェスは呆れた顔を隠す気も無い。

それどころかあざ笑った。



「薄めた酒をみんなで仲良く飲んで喜んでやがる。おめでたい連中だな」

「なんだと」



クノンティスが激怒した。

顔は紅潮し、眼が血走っている。


「何が一級品だ。単純化された魔法ばかりだ。そんなものを作るなら魔術師を育成した方がいい。エルルクの言い分は正しいぜ」

「我らを愚弄する気か」

「愚弄だと? 木の棒に魔石にくくりつけてるだけで偉そうだな」



チェスは過去と現在を比べた。

本来ならば、大昔の魔法技術より現代の魔法の方が優れてなければならない。

しかし実態は逆だ。


チェスはここに、結界魔法の装置だとか、転移魔法陣だとか、飛行装置だとかを期待してきた。


だが、見せられたのは杖ばかり。


現代魔法は単純化を追求することで魔導師人口を増やした。

しかし、その過程で複雑な魔法に関しては実用性が否定され、書庫の文献に記載があるのみとなった。



「使い手のことを考えてのことだ。魔力を込めるだけで強力な魔法が使える。それがどれだけの命を救うか想像してみろ」

「ああ想像した。これを使えば簡単に人を殺せるな」


実際に杖が魔獣や魔物の被害から人を救うために役立てられているのか。

そんなことはチェスは知らない。

知らないことが問題だ。


クノンティスらが言う救いはフテナでは見たことが無い。



「知った気になるなよ小僧。生活を豊かにし、護る。それが魔道具の神髄だ」

「嘘だな」



(こいつ、何でもわかってる顔して世の中を知らねぇのか)



「お前、バカだろ」

「口を慎め、若造がぁぁ!!」

「じゃあ、この杖はいくらだ?」

「……金貨100枚だ。それだけの価値ある仕事をしているのだ!!」

「人を救うなんて言うが、この杖を持てるのは金持ちだけだ。てめぇらの言う人間には貧乏人は含まれてねぇのか?」



一同が黙り込んだ。



「人を殺せる道具は簡単に造れる。だが、人を救う道具はそうはいかねぇ。回復薬、結界装置、転移魔法陣。それらは複雑化された魔法理論の先にある。てめぇらは率先してそれらを潰えさせている。人殺しの道具を売って儲けた金で、さらに人殺しの道具を金持ちに売る。どんなお題目を掲げようと、てめぇらは魔法を衰退させてるんだよ、この寄生虫共!!」



チェスの剣幕にクノンティスが後退った。

反論する者がおらず、研究者たちは目を泳がせる。



「戯言! 戯言、戯言じゃ!! 実績は確かなもの!! 杖を持った部隊は確実に成果を上げている!!」

「部隊か。つまり、こいつは一本あってもダメなんじゃねぇの? 複数配備してやっと効果があるって程度の半端なもんが金貨100枚だ? 馬鹿が!! 計算できねぇのかてめぇら!! 普通に魔術師雇った方が安いだろ!! 金持ちの箔付けに利用されてるだけじゃねぇか、違うか!?」



「き、貴様ぁ!! 言わせておけばぁぁ!!」



クノンティスが杖を構えた。

魔石が輝き、魔法式を構築。

魔法が放たれた。



炎の弾がチェスに向かう。



その前に魔力の壁が現れ弾を跳ね返した。

『魔操術』の『魔力盾』



「見ろ。その程度だ」

「はぁ……はぁ……」

「てめぇらの誰か一人でも、辺境の集落で暮らしたことがあるのか? そこにこんな半端なものがあっても役には立たねぇ。飢えは無くならねえし、病気も無くならねぇ。収穫も増えねぇ。それで何が人を救うだ!! てめぇらは魔導師失格だ!! 全員辞めてしまえ!!!」



チェスは反論できない者たちの憎しみの籠った視線を背に受けながら研究棟を後にした。


チェスに言い負かされたクノンティスたちは、崇高な目的を否定され怒りに震えていた。



「所詮は荒くれ者。我々の役目の尊さは理解できん」

「ならば、この学院にはふさわしくありませんな」

「言いたいことを咆えおって……後悔するがいい」



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