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28.定例会議

定例会議は大いに荒れた。


巨大な部屋には各学部、研究室の責任者たちが着席している。


「学長はこの学院を私物化している!!」


エルルクを糾弾する学術研究派閥。


「学院には厳格なルールがあるのです。それを無視して何の試験も無く冒険者を仮入学させるなど勝手が過ぎます」

「ウフフ、そうですか?」

「あなたは反省していないんですか!! その冒険者を屋敷に住まわせ、食事などの世話までしているそうではないか! あなたの私的な交友関係をとやかく言う気はないが、学院の資材や設備を使わせ、資料庫まで開放するなど私物化以外の何物でもない!!」


そんな人物に予算の決定権を委ねることはできない。


全てはクノンティスが実権を握るため、あらかじめ根回しの上エルルクの排斥を目論んだ会議だった。

無論、エルルク派閥も黙ってはいない。


「馬鹿な! この学院はそもそもエルルク様が私財を投げ売って建てた私塾だぞ!!」

「それは昔の話だ。今となっては多くの者が関わり、この学院を支えている。この学院は個人の所有物ではない」

「貴様らはこの都市を王国に売るつもりだろう! そこまでして金が欲しいか!!」

「何!! どこにそんな証拠がある!! 無礼者が!!」



エルルク率いる魔術師派閥と、クノンティスに同調する学術研究派閥は対立を深めた。


「ウフフ、別にチェス様はワタクシの愛人でも何でもないんですが……」

「ならなぜ、特別扱いを」

「それだけの能力があるからですよ」

「能力を評価するなら客観的な成績を基にするのが教師でしょう!!」


エルルクは落ち着いた様子で茶を飲む。

まるで昼下がりのティータイム。穏やかそのものだ。


「いいでしょう。ワタクシの行動が不服でしたらこの学院の学院長の任を降りましょう」


静まり返る会議室。


「ただし、それは総会で決めてください」


総会。

それは年に一度開かれる成果確認のための会議。



「その言葉、撤回なされぬな?」

「ええ。皆がワタクシを必要ないと思うのなら、この学院はクノンティス、あなたに差し上げましょう」



クノンティスらは自分たちの活躍がエルルクを追い詰めたと考えた。思わずこみ上げる笑みを必死にこらえる。


「それが総会の総意ならば、不肖クノンティス、この学院を任されよう」


だが違う。

エルルクはこれまでの長い学院の歴史より、これから半年の方が大事だと考えた。



彼女はチェスに全てを賭ける決意だ。



「ワタクシの理想とする魔道は万人に等しくもたらされる恵みではなく、卓越した個の力です。魔導が万人のものとなったとき、それはただの暴力と化します」

「何たる傲慢な考え方だ。魔道とは人々の生活をより豊かにする可能性。それゆえ、その技術を継承し広めることこそ重要なのだ。学長、貴方は浮世離れし過ぎておる。人を信じられなくなっている。時代は移ろうものなのだ」



エルルクは笑いを堪えた。



「あなた方は人間というものを盲目的に信じすぎているようですね」

「何?」

「人は愚かです。だからこそ、誰に力を委ねるのか、責任を持たなければなりません」

「神にでもなった気ですか、エルルク学院長」

「そういう貴方はいつから俗物になったのですか? クノンティス主任」


クノンティスはバンとテーブルを叩き、怒りをあらわにした。


「まぁいいだろう。総会まで半年。所詮あなたは一部の魔術師を指導した戦闘教官に過ぎない。魔法を武器としてしか考えないあなたを支持する者などたかがしれて―――」

「クノンティス」



エルルクは話し合いを終わらせた。

たった一言で。



「あなたは魔法を衰退させてます」



クノンティスらは反論しようとしたができなかった。

氷の様に冷たい眼が、彼らの心臓を射抜いた。

恐怖で身体に力が入らなかった。



両者の主張は水と油。

魔法は武器となり得る。だから選りすぐるべきと主張するエルルク。

魔法は武器ではない。だから広く人々の生活に役立てるべきというクノンティス。



どちらを支持するのか。

それらは全ての学生と関係者が集まり、年間の成果をお披露目し評価する総会で決定することとなった。



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