25.次なる一手
「チェス君の勝ちです~!! やった~!!」
喜びはしゃぐワチをよそにチェスはほっと胸をなでおろしていた。
三人は広場から学院長室へと向かった。
すれ違う者たちは誰も嫉妬や侮蔑の視線を向けない。
チェスは魔術師として認められた。
「……チェス様、力を隠されていたのですか?」
「いや……」
チェスがアルフレイドに勝てたのはもちろん前世の力だ。
魔術師だった時の感覚を基に魔力操作を習得した。しかし、それだけではチェスの上達ぶりは説明がつかない。
「魔力操作は一朝一夕で身に付きません」
「ああ、逆に他の五感と違って衰えることは無く、歳を重ねるごとにその練度は上がり続ける。だから老練な魔法使いほど魔力操作に長けている、ですね?」
「え、ええ」
そのことはチェスに確信を与えた。
衰えないのなら思い出す工程などいらない。
すでに有しているその感覚を知ればいい。習うより慣れろというわけだ。
チェスはより高度な魔力操作を実践してみることにした。それには高度な魔力操作を実際見た方が早い。
シルヴィは魔法を使えないので、使える知り合いをあたった。
エルルクだ。
彼女は『十傑』と称されるほどの大魔導師。
彼女の魔力操作は『魔操術・天』の域にある。
チェスはその魔力操作を間近で観測し、まねた。
そう、【不動制御】、五角格子の『魔壁』、死角からの『魔弾』の狙撃……それらはエルルクの魔法そのものだ。
チェス(31)
種族 只人族
職業 冒険者
レベル 20/20
天授技能 『解析鑑定』『錬金加工』『錬金分解』
『回復』『治癒』
『身体強化』
『異空間収納』『重力波』
『鷹の目』『気配察知』
『看破』
『演算』
『風圧』『発火』
『隠形』『超反応』
『耐久』
『判読』『魔力集中』
『魔力通し』
獲得術式 『魔操術・達』
加護 【火精の加護】
【聖神の加護】
改めて自分のステータスを確認したとき『魔操術・達』を習得していると判明した。
魔力を制御する方法を習得したことでこれまでは『解析鑑定』で見えなかった獲得術式とその習熟度まで見えるようになった。
『魔操術・達』はアルフレイドの『魔操術・熟』より上。
勝てる確信は戦う前から持っていた。
チェスたちはエルルクのいる学院長室に入った。
「で、どうだった?」
「ウフフ、それはワタクシが尋ねることです。でも、大変良くできました」
エルルクは黒いレースの手袋でぱちぱちと拍手をする。
「エルルク様……やはり」
彼女は小さくうなずいた。
シルヴィはすっかり恐縮した。
彼女はチェスに教えるべき重要な、実戦を想定した使い方を提示していなかった。
(到達点のイメージが、魔法の練度を飛躍的に上げた。チェス様を侮り、基礎しか教えなかった私の至らなさでエルルク様のお手を煩わせてしまった……)
猛省しているシルヴィ。
「シルヴィ、アルフレイド君を焚きつけましたね」
「……はい」
チェスの実力を測るため。
彼女はアルフレイドの自分への好意を利用し、チェスにけしかけた。
「えぇ? そうなんですか?」
そんなことをしていたとは知らず、驚くチェス。
「すいません。敗けて得るものがあるかと思いまして。私は、魔法をお見せして教えることができませんので」
シルヴィが頭を下げた。
ワチは経験上、これが危険なことだと知っていた。
激怒するチェスが容易に想像できる。
そろりと距離を取り、耳を塞ぐ。
「師は弟子に試練を与えるもの。頭を上げてください、むしろ感謝してます」
チェスが直角に頭を下げた。
「えぇ~! なんかチェス君が違う!!」
恐縮するシルヴィ。
見たことの無いチェスの態度に、やや不満気なワチ。
「確かによくやりました。ですが、彼もまた有能な魔導師。あまり邪険にしてはだめですよ」
「はい……」
シルヴィは反省した。
未熟なチェスとアルフレイド、二人をぶつけて何かの変化を期待した。
乱暴なやり方だったことには違いない。
しかも、まさかチェスがアルフレイドに勝つとは思っていなかった。
(ついこの間まで魔力の近くで躓いていたのに、エルルク様の術法を短期間で模倣するなどあり得ない。一体この方は……)
彼女はチェスが自分には推し量れない大きな秘密を抱えていることに気が付き始めていた。
「ですが、ギリギリでしたね。あなた様は決して魔力量が多くはありませんもの。ワタクシの戦法をそのまま真似ても実戦では無意味ですよ?」
「わかってる。その辺は考えている」
「アラ? どうするのですか?」
エルルクが首を傾げる。
「魔力を備蓄する方法を考える」
その言葉にはシルヴィはもちろん、エルルクも耳を疑った。
「できるのですか?」
「できる」
チェスはエルルクに書類を渡した。
錬金術師と付与魔法師の一生についてだ。
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