23.実技演習
アルフレイドには勝算があった。
天授技能を用いた魔法はチェスに見破られたが魔操術では魔法式が無いためタイミングを見て予測することは不可能だ。
「魔操術でこの私に挑もうとは」
魔法とは才能だ。
しかし、魔操術を扱う魔力制御そのものは鍛錬によって培われる感覚だ。
幼少期から親の期待を受け、魔法教育を施されていた彼は魔力制御を繰り返してきた。
アルフレイドは魔操術で負けない自信があった。
グスタ―に止められていた実技を受けたのも、勝ちを確信してのこと。
「フフ、あいつに勝てば私の評価も……」
父親はこの学院ごと街を乗っ取ることが目的だが、彼は違う。
一人前の魔導師となり、エルルクに認めてもらう。
そうすれば、王国でも一目置かれる。それは家のためではなく自分のためだ。
そうなってしまえば父親も文句は言えなくなる。
(ぼくが自由になるにはそれしか無い。学生でいられる間に、功績を残さなければならないんだ)
アルフレイドはすでに勝ったつもりでいた。
問題は勝ち方だ。
魔操術はあくまで魔力を操作するだけ。
天授技能やそのほかの高度な魔術とは異なり、殺傷性は低い。
「ふむ、粘られて判定になると万が一という可能性もある」
勝負の判定は審判に委ねられる。
アルフレイドはコネを使い、万全を期すことにした。
万が一にも判定負けにならないように策を弄することにした。
「念には念を入れておこう」
アルフレイドは街の兵舎を訪ねた。
学院の生徒というだけで入れる場所ではない。
顔見知りに通してもらった。ここでは王国の大貴族の子息という身分は良く効く。
「後輩の頼みとあっては聞かないわけにはいかないな」
「ありがとうございます」
出迎えたのは二人の憲兵。
「なんの。そのチェスとかいう男にはこちらも煮え湯を飲まされたからね」
「先輩たちにまで迷惑をかけるとは……全く、エルルク様はなぜあのような野蛮な輩を」
「アルフレイド、寛容なあの方に取り入った報いを受けさせるのだ。それが我々の恩義の報い方だ」
「もちろん、心得ております」
アルフレイドはシルヴィの姿を想像した。
自分では手の届かない存在。
美しい容姿と品のある振る舞い。
エルルクの実子であるとも噂される。
不満の多くはチェスがシルヴィといつも一緒にいることだった。
実力を示せば自分に対するシルヴィの評価も変わると期待した。
純情な男子の決意。
それが自分を盲目にしていることをアルフレイドが気付くことは無かった。
◇
魔法実技当日。
見物人が多く詰めかけた。
エルルクの客人ということでチェスの注目度は高かった。
学院の建物の間、広場に遮蔽物の無い小さなサークルが設けられた。
そんな中、チェスはアルフレイドと対峙した。
「公平に勝敗を審判するために外部の者を呼んである」
その審判を見てチェスは眉をひそめた。
「魔導憲兵隊の者だ。よろしく」
その顔にはあざがあった。
チェスが『風圧』で壁に打ち付けた時にできたあざだ。
審判としてやってきたのは街の憲兵として、チェスとひと悶着を起こした二人組だった。
「安心しろ。判定は公平にする。誰の目にも明らかな結果にならない限り、試合は止めない」
二人から発せられる明確な敵意を前にしても動じないチェス。
その態度に不気味さを覚えるアルフレイド。
(この期に及んで実力で私に勝てるつもりか? ついこの間まで現代魔法の一端も知らないという風だったくせに……どこからそんな自信がくる)
気圧されてはいけない。
自分の勇姿を想い人が見ている。
そう思いなおすアルフレイド。
一方、その視線の先にいるシルヴィは奇しくもアルフレイドと同じことを考えていた。
(チェス様の学習能力は異常とも言うべき速さ。ですが、魔操術は研鑽の時間がものをいう。おまけに、チェス様の魔力量は魔導師としては致命的なほどに少ない。勝算があるとは思えませんが)
シルヴィがチェスに教えたのは基礎中の基礎。
『放撃』と『魔力盾』のみ。
「チェス様……判定になったら」
「シルヴィさん」
不安を口にするシルヴィの言葉を制した。
シルヴィはハッとした顔でチェスの背中をみた。
「これは勝負だ。魔法の技能で劣っていようが、勝負なら負けない」
「チェス君、がんばれ~!!」
対戦の様子をエルルクは学院長室から眺めていた。
「ウフフ、勇ましいこと」
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