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22.魔操術

謎多き『十傑』の魔導師エルルク・ミントが最も身近な存在であるシルヴィを就けている。

チェスがエルルクに気に入られていることは明らかだ。

それが面白くない者たちは多かった。

ただの落ちこぼれならば、糾弾しやすい。

だが、チェスは魔法に関して徐々に認めざるを得ないほどに成長していった。


「よし、大分当たるようになったな」

「そんな……数日前は全然できなかったのに!!」


木製の板がボロボロに穴だらけいなるのを満足そうに誇るチェス。

実技の的当てで、チェスは魔力の球を放ち、的を破壊することに成功した。

通常10年を掛ける修行を数日で済ませた。

これまで馬鹿にしていた学生たちは騒然とした。

教師たちも、出来るようになっては評価せざるを得ない。


「うむ、どうやら学長の推挙は適切だったらしいな。ここまでの天才は見たことが無い」

「そりゃどうも」


魔術師だった前世の早く、小さく、回数をこなすための魔法は現代的な魔力操作技術に似通っていた。


一度思い出した感覚を繰り返し鍛錬し、身に付けていく。

気が付けばチェスは『魔操術』を会得していた。


チェスの快進撃はアルフレイドをはじめとする他の学生たちにはひどくプレッシャーとなった。





「いい加減にしてくれないか? あなたがいるとここの品位が下がるんだ!!」


学生たちは毎日チェスに学院から出て行くよう迫った。

最初の頃はもっともらしい言い分に反論できなかったチェスだが、品位や格を持ち出され始めて火がついた。



(なぜおれが我慢してる? 最近頭を使い過ぎて、忘れてたぜ。喧嘩を売られてたら買うのがおれだ)



「ここの品位を気にしている暇があるのか?」

「なに?」

「実力主義はここも同じだろう? おれに上から物申せるのはおれを魔法で上回る者だけだ」

「ぼくらがあなたに劣っているだとでも!?」

「どうだろうな? 少なくとも、実技でおれより成績が低い奴はいると思うけどな? 品位ってのは実力に加点されるのか?」


チェスの言葉に学生たちの勢いは失速した。


「おれが気に喰わねぇんなら、闇討ちでもリンチでもすればいいだろ」

「これだから野蛮な冒険者は……付き合っていられないな!!」

「魔導師同士の力量を比較検討することは有意義なことです」



それまで沈黙していたシルヴィが口を開いた。


学生たちが動揺した。



「そ、そんな……シルヴィさん」

「シルヴィアです」

「あ、あの……シルヴィアさん。ですが、この者が魔導師などと」

「チェス様はエルルク様の客人です。そのチェス様と基礎的な魔法実技を介し、実力を知ろうとする方がいらっしゃらないことが不自然でなりません」



シルヴィははっきり苦言を呈した。



「も、申し訳ありません!!」

「何を謝ることがございましょう。私はただ、不自然だと申し上げただけです。この学院は学生同士の切磋琢磨を推奨しています。排他的な組織運営はエルルク様の望むところではありません」



彼女の言葉は学生たちの凝り固まった思考に喝を入れた。


魔導師同士が競わなければ学院にいる意味がない。個人指導を受ければいい。

だが、王侯貴族が多い学院では地位に固執するあまり実力を競うことに抵抗する者たちが多い。

俗世の地位や家柄に関係なく魔法の実力を評価する学院内に置いて、それは悪しき風習と言わざるを得ない。



「よし、勝負してやる。ありがたく思え!!」

「シルヴィさんは基礎的なと言ったが、おれは容赦はしない。散々馬鹿にしたんだ。やるからには命賭けろよ?」

「ふ、こっちのセリフだ!!」



アルフレイドとチェスの勝負は単純攻撃魔法と防御魔法のみを使用する基礎戦闘訓練として行われることとなった。



エルルクにチェスは呼び出された。




「チェス様、勝算は?」

「さぁ……魔操術は現代で初めて知ったからなぁ」

「……そうですね。魔力の微細な制御による物理化と自在な操作は多くの魔法の基礎ですが、確立されたのは最近ですから」


魔操術は魔力を操ることで魔法式を介さずに魔法現象を引き起こす術。


その魔法は『放撃』と呼ばれる単純攻撃魔法と『盾』と呼ばれる単純防御魔法の、二つ。応用の幅が広く、単純攻撃魔法類と単純防御魔法類として系統立てられる。


これらは複雑な魔法式はおろか、天授技能(スキル)すら要らないため、魔導師の人口を大幅に増やした画期的な魔法であると同時に、ベースとなるのが基礎的な魔力操作のみのため、入門的な魔法とされる。



「理屈は把握した。魔力操作も問題ない。先生がいいからな」



チェスはこれらを講義で学んだわけではない。

資料庫で文字と共にシルヴィから教わった。



「フフフ、あの子もまたあなた様の実力を知りたかったのでしょう。そうでなければ何のためにあなた様に仕えているのかわかりませんわ」

「何のためって、何か目的があるのか?」

「シルヴィはあなた様のお役に立っているでしょう?」

「まぁ、世話になってる」

「そうですか。そのことを忘れないで下さいね?」



含みを持たせたエルルクの真意をチェスは尋ねなかった。






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