表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/91

21.過去の記憶


今から数百年前。

当時の勇者、剣聖、英雄と共に大賢者としてフテナに集結し、戦ったエルルク。

古い文献にある例外的魔物を今世で討伐し、来たる魔王との戦いに備えるためだった。


エルルクは『十傑』にして歴代最高の魔導師と言われていた。

そんな彼女が、その魔物の前には歯が立たなかった。


『やはりだめだったか』


美しい魔物が地面に伏す自分をしゃがみこんで覗き込む。心配しているような素振りだった。

その魔物は自分に似ていた。


『せっかく造ったのに……やっぱりどの種族を掛け合わせてもこれが限界か』



エルルクは両親を知らず、魔法の才覚で塔の魔導師となった。

魔力の総量、操れる属性の数、老いない体、不自然なまでに整った容姿。

自分が異常だと言うことは知っていた。

なぜなら、エルルクの種族は魔族でもエルフでも竜人族でも天使族でも悪魔族でも無く、只人族だったからだ。


その理由がわかった。

エルルクはカーミラが自分を倒すために錬成術を駆使して造り上げた人造人間(ホムンクルス)だったのだ。


幾度との無く挑戦を繰り返した。

それは勇者が老衰で死ぬまで半世紀ほど続いた。

後半の方は戦闘後に座談会を開きお茶を酌み交わすような不思議な関係となっていた。


エルルクの魔法のいくつかはカーミラが伝授した。


エルルクはフテナから近い場所に学院を建設し、カーミラを監視しながら彼女を倒せる者が現れるのを待った。それが使命だった。


そんな中、チェスが現れた。

カーミラが送り込んできた。

数百年接触してこなかったあちら側から。

エルルクは全てを察した。



カーミラはチェスならば自分を殺せると確信したのだ。

それほどの能力をチェスは確かに秘めていた。



「エルルク様?」

「……ああ、ちょっと昔を思い出していました。彼が何者なのかはこれから彼が教えてくれます」

「はい」




文字を習得するため資料庫に籠る。

それは明け方まで続く日もあった。

ある程度基本的な文法や語句を理解すると、エルルクへの報告をする。



「これは……物語ですか?」

「まぁ、そのようなものです」


シルヴィが覗き込むとチェスはそっと内容を隠す。


(なぜ今物語を?)


他人から見ればそこに書かれることは遠い昔の誰かの物語。だが、チェスにとっては自分のことのように思い出される記憶の断片だ。


前世のことはシルヴィには知らせていない。

無論、何も知らない方が安全だからだ。

彼女は自衛できないのだから当然のことだった。


「読ませていただいてもよろしいですか?」

「な、なぜ!?」

「添削致しますので」

「いや、結構だ」

「ですが、エルルク様に提出するのですよね?」

「な、なぜそれを?」

「エルルク様が、チェス様が書く物は預かるようにと」


チェスは渋々書いたものをシルヴィに渡した。


(あの女どういうつもりだ? シルヴィさんを巻き込む気か?)



エルルクにはシルヴィとチェスを近付ける明確な目的がある。

いずれ、チェスには試練の時が来る。

魔物であるカーミラを討伐する。カーミラ自身がそう仕向けている。

エルルクはチェスがカーミラを殺した後のことを考えた。

チェスには支えが必要だ。

そして、シルヴィにもチェスの持つ失われた時代の知識が必要になるかもしれない。

だからこそ、彼女を蚊帳の外には置かず、付き添わせている。

目論見通り、チェスはシルヴィを特別な存在として意識していた。

無論、師としてだが。

その証拠に、チェスはシルヴィに対しては低姿勢で、逆らわない。

シルヴィはチェスの書いた読み物を興味深く読みふけった。


「よく書けてます。ところどころ繋がりが欠けていますが、何とも迫力がある内容ですね」

「そうですか」

「4500年前の小国の魔術師の一生。とても生々しいですね。ですが当時の主流な学閥として、対抗魔法、妨害の研究が盛んだったのは創作ですか?」

「あ。いや。本で読んだんだよ」

「ああ……では、攻めではなく護りの魔法が主流になったのか、答えられますか?」


まさか質問されるとは思っていなかったチェスは驚いたが、答えが浮かんだ。


「戦闘の単位として魔術師はとにかく少なかった。高貴な者の傍仕えの護衛が多く、前線に出ることが少なかった」

「では戦闘経験があまり無かったと?」

「いや、当時は魔族と戦乱にあった。常に魔法で狙われる恐れがあった」

「魔族の魔法にどう対抗したんですか?」

「早くて小規模の魔法を、相手の魔法が完成する前に放つ。その隙に護衛の騎士隊が強襲を―――」



チェスの脳裏にその時の光景が思い浮かんだ。

自分は城から魔法の妨害をし続けている。

早く、小さく、何度も。

その時の焦り、足元に迫る地響き、肌を撫でる生暖かい煙、どこの隊を生かし、どこを切り捨てるべきか、選択する苦々しさ。

それらが臓腑に染みた気がした。



「うっ……!!」

「チェス様? どうされました!?」



トラウマの想起。

チェスは胃液を吐いた。


「はぁ、はぁ……」



(……これを思い出したくなかったのか。大したことねぇな)



「大丈夫ですか?」



思い出した感覚は他にもある。

自分は確かに、高度な魔力操作をしていた。

魔力の節約。

より早く、より長く、より多くの魔法を打ち消すために。



ブックマーク、評価を励みにして連載しております。ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ