18.今世の決意
チェスには滞在先として立派な部屋があてがわれた。
エルルクの賓客として、食事や身の回りの世話は申し分のない待遇だった。
チェスは神殿にワチを迎えに行き、しばらく滞在することにした。
魔法について学ぶ機会が与えられ、何不自由ない生活。
それでもチェスは迷った。
問題は二つだ。
エルルクが求める情報とはチェスが黒魔術『前世反魂』によって獲得した12の前世の記憶。
しかし、チェスはそれらを全て思い出せるわけではない。
自分自身の記憶があいまいであるように、12人分の記憶を正確に思い出すことが可能なのかどうか、チェスにはわからない。
もう一つの問題。
それは、記憶を思い出すことのデメリットだ。
記憶とは人格に大きく影響する。
仮に12人分の全ての記憶が蘇った場合、それはチェスと呼べるのか。
チェスは自我を喪失することを恐れていた。
「このまま、何も思い出さず生きる道もあるか」
使いこなせない技能や天授技能はあるが、身の丈に合った生き方をする。
それもありだと考えた。
◇
「チェス君……? チェス君……!!」
目を覚ますとワチが心配そうにこちらを見つめていた。
「ちっ、またあの夢だ」
あの日、天授技能が無かったことで家に押し入られ、ワチは死にかけた。
「……大丈夫ですよチェス君。ワチが傍にいるですよ」
ワチが寝汗をかいたチェスの頭を抱きしめる。
チェスは一流の冒険者になることを決意し、家族を護ると決めた。
そのためにはどうしても向き合わなければならないことがある。
眼を背けてはならない。
「ワチ」
「はい?」
「おれは変わる気はない」
「んん?」
「お前の淹れた茶の味が変わっても、それも含めてお前だ。成長したお前がお前として変わらず在り続けられるなら、おれにだってできる」
ワチは首を傾げる。
「チェス君は変わることが怖いです?」
「……ああ」
「……なぜに?」
「あ?」
ワチが不思議そうな顔をした。
「チェス君は変わりたくて頑張ってると思ってたですよ~」
チェスはワチの言葉を否定できない。
そうだ。
どん底から這い上がるために、これまで足掻いてきた。
成り上がろうと必死だった。
何のために?
誰かから認められたかった。
居場所が欲しかった。
誰に理解してほしかった。
誰かを理解したかった。
(おれはすでに手に入れている。前世がどうだろうが、おれの生き方が否定されるなんてことは無い。だってそうだろうがよ。おれは、他の人生に劣ってなんかいねぇんだ)
仕事に、家に、家族、それに天授技能は無いが師に教わった技がある。不足は無い。そこからの変化ならばそれは成長だ。
成長する余地があるのに足踏みするのは自分らしくない。おかしい。
チェスの心がスゥっと落ち着いた。
胸のつかえがとれた気持ちだった。
「ワチ……おれは変わったか?」
「はいな。前よりずっと優しくなりましたです」
「はっ……そうかよ」
チェスはワチを引っぺがし、隣のベッドに放りこんだ。
「寝ろ。明日から学院を見て回る」
「ふ~い」
チェスは決意した。
魔法を習得する。
そのために、前世と向き合うことを。
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