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18.今世の決意

チェスには滞在先として立派な部屋があてがわれた。

エルルクの賓客として、食事や身の回りの世話は申し分のない待遇だった。


チェスは神殿にワチを迎えに行き、しばらく滞在することにした。



魔法について学ぶ機会が与えられ、何不自由ない生活。

それでもチェスは迷った。


問題は二つだ。


エルルクが求める情報とはチェスが黒魔術『前世反魂』によって獲得した12の前世の記憶。

しかし、チェスはそれらを全て思い出せるわけではない。

自分自身の記憶があいまいであるように、12人分の記憶を正確に思い出すことが可能なのかどうか、チェスにはわからない。


もう一つの問題。

それは、記憶を思い出すことのデメリットだ。


記憶とは人格に大きく影響する。

仮に12人分の全ての記憶が蘇った場合、それはチェスと呼べるのか。

チェスは自我を喪失することを恐れていた。


「このまま、何も思い出さず生きる道もあるか」



使いこなせない技能や天授技能(スキル)はあるが、身の丈に合った生き方をする。

それもありだと考えた。



「チェス君……? チェス君……!!」



目を覚ますとワチが心配そうにこちらを見つめていた。


「ちっ、またあの夢だ」



あの日、天授技能(スキル)が無かったことで家に押し入られ、ワチは死にかけた。


「……大丈夫ですよチェス君。ワチが傍にいるですよ」



ワチが寝汗をかいたチェスの頭を抱きしめる。



チェスは一流の冒険者になることを決意し、家族を護ると決めた。

そのためにはどうしても向き合わなければならないことがある。

眼を背けてはならない。



「ワチ」

「はい?」

「おれは変わる気はない」

「んん?」

「お前の淹れた茶の味が変わっても、それも含めてお前だ。成長したお前がお前として変わらず在り続けられるなら、おれにだってできる」



ワチは首を傾げる。



「チェス君は変わることが怖いです?」

「……ああ」

「……なぜに?」

「あ?」



ワチが不思議そうな顔をした。



「チェス君は変わりたくて頑張ってると思ってたですよ~」



チェスはワチの言葉を否定できない。

そうだ。

どん底から這い上がるために、これまで足掻いてきた。

成り上がろうと必死だった。


何のために?



誰かから認められたかった。

居場所が欲しかった。

誰に理解してほしかった。

誰かを理解したかった。



(おれはすでに手に入れている。前世がどうだろうが、おれの生き方が否定されるなんてことは無い。だってそうだろうがよ。おれは、他の人生に劣ってなんかいねぇんだ)



仕事に、家に、家族、それに天授技能(スキル)は無いが師に教わった技がある。不足は無い。そこからの変化ならばそれは成長だ。



成長する余地があるのに足踏みするのは自分らしくない。おかしい。



チェスの心がスゥっと落ち着いた。

胸のつかえがとれた気持ちだった。



「ワチ……おれは変わったか?」

「はいな。前よりずっと優しくなりましたです」

「はっ……そうかよ」


チェスはワチを引っぺがし、隣のベッドに放りこんだ。



「寝ろ。明日から学院を見て回る」

「ふ~い」



チェスは決意した。

魔法を習得する。


そのために、前世と向き合うことを。




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