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16.魔法使い

てっきり使用人か学生の誰かを案内につけるのかと思いきや、彼女エルルク学長本人が同行した。



傍にいるとゾクリとするほどに美しく、思考を惑わす色香が漂うが同時に謎の恐怖も感じる。

本能が、この目も眩むほどに完璧な女性に警鐘を鳴らしているのだ。



「チェスさん、魔法使いについてどこまでご存じ?」

「……魔法使いとは魔導師、魔術師、付与魔法師などを含む総称、ですよね」

「ええ。よく混同されるのですが、よくご存じですね」



魔術師は魔法を行使する者。

魔導師は魔法を探求する者。

大雑把に言えば戦いを主軸にするのが魔術師で、研究、開発を主軸にするのが魔導師だ。

ただし魔導師の方は戦闘も兼ねるし、学ぶ領域に際限が無い。



「では魔法使いに必要な技能は何でしょう?」



よく魔術師は天授技能(スキル)をただ使っていると勘違いされている。

しかし実際はスキルと魔法は広い意味で同じものだ。

魔法という現象の一つ、神から授かる『天授技能』、それがスキルだ。

もう一つ、人間が得る魔法的な力がある。

それが獲得術式(マジックアビリティ)


魔法使いを名乗る者たちの多くが実際用いる魔法は獲得術式(マジックアビリティ)の方だ。


獲得術式(マジックアビリティ)

「確かに、それは魔法使いに必須の体系です。ですが本質的に獲得術式(マジックアビリティ)天授技能(スキル)に共通する技能があります」

「魔力の微調整……か?」

「素晴らしい」


ここが、本質的に魔法使いとその他を分ける。

例えば『硬化』という天授技能(スキル)がある。


戦士になる者に多い天授技能(スキル)だが、魔導師が使うこともある。

戦士はこれを使用と解除、すなわち『オン・オフ』しか制御しないの対し、魔導師は0~100という思考のもとに、使用する。

さらには『硬化』の対象を自身ではなく他者に付与することも理論上可能。

そこには絶対的な技量の差がある。

それは魔力のコントロール。



広場でまさにそれを実践している学生がいる。

実戦的な的当ての授業のようだ。


天授技能(スキル)『土流』と『風圧』を組み合わせる。

『土流』の天授技能(スキル)を使い、地面の土を石礫のように固める。それを『風圧』で飛ばす。

そうして石を発射する『石弾』という魔法となる。

チェスが先ほど食らった魔法と同じだ。


(大した才能だ。これが学生か……)



しかし、学生たちは当然のように魔法を使いこなしている。



「随分優秀な学生さんたちですね。まだ若いと言うのに」

「能力に年齢は関係ありません。才能と本人の努力です」


エルルク学長が手を叩いた。

先ほどからちらちらと学長を気にしていた学生たちは手を止めた。


どうやら学生たちにとって、学長は最高責任者であると同時に一種の羨望の的のようだ。



「皆さん、こちらはワタクシの愛人です」



時が止まった。

学生たちから殺意が放たれた。


「は? 何を?」

「オホホ、間違えました。こちら『客人』のチェス様です。豊富な実績をお持ちの冒険者様です」


意地らしく笑うエルルク。しかし笑い事ではない。

冒険者と聞いて学生たちの顔に険が走る。

それは突然紹介されたチェスも同様だ。


「アルフレイド・オーディン君、そろそろ動かない的を狙っても上達しないでしょう。チェス様の胸をお借りなさい」



アルフレイドと呼ばれた15歳ぐらいの学生が飛び上がる勢いで背筋を伸ばした。彼の顔は実に感情豊かに変化した。

学長に名前を呼ばれたことと、的当ては卒業のお墨付きをもらったことに喜びながら、なぜ冒険者ごときの相手をしなければならないのか、不本意な感情を露わにしていた。



「あぁ、ちょっとエルルクさん?」

「貴様、学長を馴れ馴れしく呼ぶな!!」

「アララ」


抗議しようとしたチェスがアルフレイドにたしなめられる。

おそらく貴族出身のアルフレイドが畏敬を持つエルルクは上流階級か特権身分。確かに不遜な態度だったと二の句を継げないチェス。



「申し訳ございません、チェス様。彼は狭い世界で少々得意になっているのですよ。学生の向上心を刺激するために、お手伝いいただけませんか?」


物腰は丁寧で、美しいがチェスはそれを脅しと受け取った。拒否する権利など無いのだから。



(まさか、おれの無礼が癇に障って痛めつける気じゃないだろうな……)



「では、微力ながらお相手を務めさせていただきます」



チェスは剣を抜く。

無論、使えない魔法など当てにしない。


「貴様、ランクは?」

「Dランク」

「はぁ……ぼくも買いかぶられたものだ」



周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

学長が現れたことでギャラリーが増えている。



(学生の経験のためというなら、本気を出した方がいいんだろうが、おれも油断ならない。一回当たったらアウトだ)



アルフレイドは『石弾』や『風圧』の天授技能(スキル)を重ねて使う『空気砲』を駆使する。

チェスには当たらなかった。


アルフレイドが驚く。



「な、なぜだ!? ぼくの魔法発動のタイミングがわかるのか!?」

「ああ……そうらしいな」



チェスも自分で驚いていた。


(一度受けたからか……あの時は避けられなかった。何が違う……?)


チェスは思考を巡らす。

自然と浮かぶのは自分のものではない記憶。


結論はすでに出ていた。

いや、元々持っていた。



(なるほど、これが実戦だと思わぬ穴になるのか……魔獣相手なら即戦力だろうが)



「スキルを両手で使い分ける癖は対人戦では直した方がいい」

「な、なに!?」

「両手の動きでタイミングがわかるんだよ」


アルフレイドは天授技能(スキル)発動の使い分けを右手と左手で行っていた。



それが今のチェスにはわかりやすく映った。

決して分かりやすいものではないのだが、前世の知識があるからか、理解より先に確信がある。


「そんなわけが……!!」


アルフレイドは耳を貸さず、『空気砲』を連発する。



(さっきの魔導師は杖を併用していた……前世では無かった技術だからわからなかったのだろうな。いや、ならばなぜ使わない……?)


「く、くそぉ!!」


結局一発も当たらず魔力切れを起こした。



「とても参考になる試合でしたね」

「学長、ぼくは……」


アルフレイドは学長の前で失態を演じたことを恥じて俯いている。



天授技能(スキル)を用いた魔法は消費魔力が大きい。よくあれだけ連発できましたね。ただ、動く相手は難しいと理解できたでしょう」

「はい……あの、この冒険者は一体」

「それはワタクシにもまだわかりません」


魔導師の魔法が当たらない。

これは当たり前のことではない。



「それにしてもチェス様、なぜ魔法で反撃をしないのでしょうか?」

「……え?」

「先ほどは使っていらしたのにね」



エルルクの冷たい眼がチェスを覗き込んでいた。


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