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15.魔導学院

子どもだからと容赦をするチェスではない。

すぐにターゲットを見つけた。


廃屋の暗がりでチェスに認識されたことを相手も気が付き逃げ出そうとする。

しかし、すぐに捕らえた。



「くぅ、離せよ!!」

「三秒以内に手紙を返せ。さもなければ脚を切り落とす」

「ひぃ……あ」


すでに抜刀しているチェス。

子どもはすぐに諦め、手紙が入ったチェスの雑のうを差し出した。



「よし……」



チェスが掴み上げた子供の脳天に拳骨をくらわした。


「いってぇ!! 何すんだよ!! 返しただろ!!」

「クソガキ、まだてめぇから大事な言葉を聞いてねぇ。泣き言じゃねぇ。てめぇの事情は知らねぇ。筋を通せねぇって言うならおれから時間を奪った分はおれの憂さ晴らしで払ってもらうぞ」



冷徹な眼に子供は震えあがった。



「ご、ごめんなさい……」



チェスは掴み上げていた子供を乱雑に突き放した。



「……あ、おい! おれの、は……」

「……おれはてめぇのか? なら神殿に行けよ。届けてある」


チェスは事前に神殿を訪ね、財布を拾得物として預けた。神殿を介すればチェスが持ち主から盗んだものではないことは証明される。ついでにワチも預けてきた。



「くそっ…‥」

「ああ、そうだ。もう一つ聞いておくことがある」

「……なんだよ」

「誰に頼まれた」



それは少年の動揺を誘う質問だった。



「何のことだよ……おれは、お上り野郎がいたから」

「まぁいい。これに懲りたら盗みは辞めておけ」



チェスはそれだけ言って廃墟を去った。



(誰かに嵌められている……そういえば、魔導師の一人が言っていたな。『あの方の眼から逃れられない』……誰のことだ?)



チェスはその脚ですぐに手紙を届けることにした。

目的地は都市の中心地。

魔導学院だ。



「ここ、か?」


魔導学院は王侯貴族の住まう宮殿のような場所だった。

街から隔絶された高く長い壁。

そこから除くいくつもの高層建築物。


門は解放されて人が行き交うが、着ている服はチェスがみすぼらしく見えるほどに誰もかれもが立派だ。

さすがに場違いすぎて気後れするチェス。


明らかに入れる雰囲気ではない。



「これが学校?」


聞いてはいたが、もっと地域密着型の、自営業的、寄り合い的な自由研究の発表場所を想像していた。


チェスがどうしようか考えあぐねていると不審に思ったのか門番が近寄ってきた。



「君、何か用事でも?」

「あ、はい」



普段は不愛想で通しているチェスもこの時ばかりは態度に気をつける。


「その、こちらで働いているエルルク・ミントという方に、カーミラ・アル=ハノーヴァから手紙を預かってまして」



門番は明らかに動揺していた。

門番は仲間とヒソヒソと相談し、やがて誰かを呼びに行った。すぐに駆け足で上官らしき物々しい男と部下たちがやってきた。


「エルルク様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」



態度は丁寧だがチェスは冷や汗が出ていた。

城を思わせる重厚な石造りの建物。それらが乱立し、まるで迷路だった。

学内をあちらこちらと進むと建物の上層階の突き当り、両扉の部屋にたどり着いた。


学長室と控えめに表札がついている。


警備の兵が扉を開け、入室を促す。

チェスはそれらしい作法を記憶の底から引っ張り出し、入室した。



「冒険者のチェスです。依頼人カーミラから手紙の輸送を頼まれて参りました」

「どうぞ、お入りになって」



美声。

チェスの身体が硬直した。

老人と思っていたエルルク・ミントが若い女性だったことに驚いたからではない。


声から伝わる禍々しさ、人間離れした美貌、全て見透かしたような氷のような眼。


全てが恐ろしい。

こういう経験は人生で一度味わったことがある。

絶対的強者を前にした感覚だ。

ふと傍に控えていた使用人らしき女性が手紙を受け取り、エルルクに手渡した。



「そうですか。なるほど。これはこれは……」



氷の目が文字を追い、停止した。

照準が自分へ向けられ、またもや冷や汗をかく。



「チェスさん、ここがどういう場所かご存知かしら?」



酷くゆっくりした話し方だ。時間がどろりと溶けていくような錯覚を覚えるほどに。



「魔法を学ぶ、学校と伺っています」

「そうですね。魔法の可能性を追求するべく研究が行われています。ご覧になりますか?」



意外な提案だった。

こういう魔法に関する知識は部外秘。

こんなただのお使いをしている冒険者にわざわざ見せる意味がわからない。



「いきなり失礼しました。何分この学内は閉鎖的で、外の実力者との交流をする機会は珍しいのです。あのカーミラが信用する冒険者様の目から見て、ここの学生たちの実力がどう映るのか気になったものですから」

「ああ、そういうことでしたら、自分でよろしければ、見学させていただきます」



チェスは納得した。

冒険者という実力主義の世界では、魔法使いはやや扱いが難しい部類だ。

経歴がすばらしく能力が申し分なくても、実戦で役立たずになることが多い。

それは実戦経験の少なさが原因。

彼らは戦いの悲惨さや血生臭さを知らずに魔法使いを名乗る。


ゆえに実戦的な指摘はカリキュラムに必要不可欠。

とはいえ、冒険者ギルドに頼んでは面目が立たない。


「では参りましょう」


チェスは学内を案内された。


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