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13.魔法都市

チェスはカーミラの下を訪ねた。特に用事がなくても定期的に訪ねている。

カーミラには時折お使いやらなにやら頼まれる。

放っておくと掃除も洗濯もしないのだ。

幼いころからの習慣のようなものである。チェスは掃除洗濯をずっとやらされていたため、カーミラの家に行くとまずどこから掃除をするかを考える。

辺鄙な古い家のドアを叩くと、だらしない恰好の見た目の若い女が出てきた。


「アハ、チェス君お帰り。さぁ、お入り」

「はぁ……」

「嫌なことでもあったのかい?」

「ああ、今な」


相変らずの散らかりようだった。


黙って仕事にとりかかろうとするチェス。


「チェス君、こっちにお座り。お茶を淹れてあげよう。特別にはちみつ入りだ」

「ガキじゃねぇよ。あと、そのカップは洗ったのかババア?」


いつもと違う様子にチェスは仕方なくカーミラの対面に用意された玉座のような椅子にどっしりと腰かけた。


チェスはカーミラに天授技能(スキル)や前世の記憶について打ち明けていない。

自分の変化を知れば、カーミラとの関係が変わるかもしれないことを危惧している。


そして、そのことをカーミラも察している。

互いに、今まで通りを望んでいる。

だから、何も切り出さないことにしていた。


現状維持。

叶うはずもないとわかりながら。


「ちょっとチェス君に頼みたいことがあるんだ」

「金はあるのか?」

「うわぁ、ひどいねぇ。でも、お金はあるから心配いらないよ」


カーミラは封筒をチェスに渡した。


「手紙か?」


笑顔を浮かべ頷く。

手紙は貴族や大商人ぐらいしか利用しない。

だが、見たことが無いわけでもない。

こういう代物を郵送する者を護衛したことがある。


「これを北の都、魔法都市にいる、エルルク・ミントに届けて欲しい」

「エルルク・ミント?」

「私の……まぁ、弟子みたいなものかな。君の姉弟子にあたる人だ」

「ん?」


チェスは興味を抱いた。

自分のような奴が他にもいたらしい。


「おれ以外にもあんたに付き合える変わり者がいたのか。だが、なぜおれに?」


チェスは北の都には行ったことがない。街道が整備されているとはいえ馬車で行けば三日、四日程度の道のりだ。

それに重要情報の運搬は高ランク冒険者が請け負う仕事だ。


「アハハ、そう警戒しないで。中身はただの季節の御挨拶さ。定期的にこういうつながりを維持しないと師弟関係というのは案外もろいものでね。かといってあいさつに往復7日半の道のりは私にはリスクが高い」

「まぁ、そういうことなら」

「君にとっても悪い話ではないよ。エルルクは賢者とも言われるほどだ。つながりがあるに越したことはない。ああ、もちろん旅費と滞在費は私が出すから安心して」


話が上手すぎてチェスは何だか違和感を抱いた。


「怪しむね。隠そうともしないね。顔が……」


魔法に関する知識はのどから手が出るほど欲しい。

何せ魔法スキルがあるにも関わらず、まともに使いこなせていない。


しかし彼女が自分にそこまでする理由が無い。

チェスの主観では。



(ミラ婆はおれに何か知らせようとしているのか?)



「わかった。その依頼受けよう」

「そう……よかった……」


金銭が発生しないのでギルドでの契約は無い。

そこは互いの信頼関係だ。






北の都は自由都市であり、国に属していない。

普段チェスたちが拠点としている街と比べて大きく発展している。いわゆる都会である。


チェスはワチと共にこの魔法都市を訪れていた。



「今日はお祭りみたいです~!」

「逸れるなよ」



人の多さに目を回すワチ。


「おっとごめんよ!」


人ごみで子供がぶつかってきた。


「ふへぇ~すごい人です~……あれ? チェス君なに持ってるです?」

「ん?」



チェスの手には雑のうが握られていた。



「何だこれは?」



中を探ると財布が出てきた。それも複数。

チェスはハッとなり、懐に入れていた自分の雑のうを手探りする。



「やられた」



チェスはぶつかった子供を眼で追う。



「おい、待て!!」



とっさに天授技能(スキル)を使おうとする。

『重力波』による足止め。


周囲が騒然とする。


(あの中には手紙が……)


路地裏に差し迫る前に重力波で子供の動きが止まった。


後は捕まえるだけだ。

距離は目の鼻の先。



今度はチェスの身体の自由が奪われた。

まるで見えない縄で縛られたかのようだ。



「この魔法都市の往来で許可も無く魔法を使うとはいい度胸だな」

「よそ者の冒険者か。貴様はこの都市の法を犯した。よって逮捕する」



二人組の魔法使い風の男女。

口ぶりではこの街の官憲。

状況はチェスにとって最悪。



逃げるという思考にはすぐに至った。

捕まればチェスの主張は通らず、そのまま牢獄。ワチはどうなるのか予想もつかない。


だが、身体を縛る見えない縄から逃れる術をチェスは知らない。

だから、その行動はチェスの考えに基づくものではなかった。



「拘束を抜けた!?」



魔力を放出し、魔力でできた縄を相殺。

その一瞬で縄抜けをして見せた。


「ふひゃ!?」


ワチを小脇に抱え、人ごみに混ざる。

先ほどまでたどたどしかった足取りが嘘のように、人ごみの隙間を器用に駆け抜け、路地裏に駆け込む。



「逃がすな!」

「追うぞ!!」



路地裏を駆け抜け、細い道を右、左と進む。



「ここまで来れば……」



「逃走は不可能だ」

「この魔法都市はあの方が眼を光らせている」



挟み撃ちに合う形で逃走経路を塞がれていた。



「待て。おれは被害者だ」

「言い訳を聞く義理は無い」

「盗んだ財布が動かぬ証拠」

「こいつはおれから荷を奪った奴から盗み返したものだ。そいつを追え」

「問答無用だ」



魔導師が杖を取り出した。

杖に埋め込まれた魔石が輝きを放ち、魔力が即座に魔法式を構築し、魔法という現象を再現する。


無数の石の礫が放たれる。


動こうとするチェスの身体はまたもや魔力の見えざる縄に拘束された。


石の礫がチェスの身体にめり込む。


「チェス君!」


倒れたチェスに寄り沿うワチ。


「どけ!」



二人が倒れたチェスに近づいた。

ピクリとも動かないチェス。


二人は油断しないよう気をつけていた。

突如、横殴りの風が吹いて、立っていた二人は壁に叩きつけられた。


「ぐはっ!!」

「あっ!」


その衝撃で拘束が解ける。

チェスは何事も無かったかのように立ち上がり、ワチを抱えてその場を去った。




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