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幕間 ギルドの受付

私の名前はロイズ。

冒険者ギルドで働き始めて三年目の18歳。

上司からも同僚からも冒険者からも受けはいいと思う。


我ながらこの小さなギルドにはもったいないくらい器量よしで要領もいいのだ。



そんな私が密かに注目していた冒険者が一人いる。


彼の名前はチェス。

私より13歳年上の31歳。

顔は中の下。愛想が無いから恋愛対象としてはいまいち。

でも、結婚相手としてならありかもしれない、という話。



この冴えないおじさんについて、私は他の街の住人より詳しく知っている。

彼の記録はギルドにまとめられている。

別に男漁りのために冒険者ギルドに就職したわけじゃない。でも華の盛りは今。


まずチェスさんは見た目は平凡だ。さっきも言ったか。

とにかく目つきが悪い。とにかく目が怖い。

育ちの悪さって顔に出るんだねって感じだ。

おまけにぶっきらぼうだ。お口もサイテー。


「この依頼を受ける」

「達成した。換金しろ」



しばらくはこれだけしか聞かなかった。


「無しだな」と、私の中の『無し』リストに載ったチェスさん。そんな彼が『有り』リストへと栄転したきっかけ。




それはつい最近起きた。

チェスさんが強盗に遭い、しばらくギルドにいなかった。「別に問題ないっしょ」と高をくくっていた私よ、愚かなり。



薬草採取でクレームが起きた。

私はちゃんと冒険者を斡旋した。私は悪くない。

でもこれが結構問題になった。


街の外れに住む学士様がすごい剣幕だった。

なぜかこの街の人がみな『学士様』と呼ぶ、若い女性。悔しいが私より面がいい。いや、ダサいローブにボサボサ髪、化粧もしてない。総合的には負けてない。


「チェス君はどこぉ?」


おどろおどろしい態度。

何処から出してるのかわからない声。

静かだけど、怒ってる。とてつもなく。


「それが、強盗に遭ったらしく」

「……うそ」

「ですが薬草採取なら別の冒険者を」

「これを見て」


学士様は薬草を受付に置いた。



「根っこを斬り落として葉っぱだけじゃすぐこうなる? これじゃあ意味ないんだけど……」

「ですが……これは一般的な取引される薬草の状態からかけ離れてるとは言えませんし」

「……一般的に取引されている状態の薬草なら一般的な取引で買うよね?」

「あぅ、はい」



この人も眼が怖い。冷や汗が止まらなくなる。

まるで魔物ににらまれた時みたいだ。


「君、もう少しチェス君の働きぶりを参考にした方がいいよ」



このチェスさんロスの影響は思わぬ事態にまで波及しました。



「ロイズ、大変なことになった」



最悪の会話の切り出し方を私にしたのはギルド長。

え? なぜそんな話を新参の私に?



「学士様のポーションが品薄だ」

「はい……」

「お前、わかってないな!? この小さな辺境の街で、おれたち冒険者ギルドが成立しているのはあの方が高水準のポーションを安くギルドや神殿に卸して下さっているからだ!! それがなければ」

「無ければ……」

「冒険者ギルドだけじゃない、街全体の生活基盤が揺らぐ」

「うえっ?」


傷薬に熱冷まし、火傷用の軟膏、痛み止め。目薬、咳止め。酔い止め。下痢止め。それに魔力回復ポーション。

この街には薬屋が無い。私も幼いころから病気になると神殿で薬をもらったものだ。その薬は学士様が格安で神殿に卸している。

この街の住人は皆、学士様のお薬で健康を保っている。

冒険者にとっても命綱だ。

天授技能(スキル)に使用する魔力を回復できる魔力回復ポーションは、かなり貴重で高価。ここではほぼ原価で売っている。

だからこの街には正教会もある。正教会の『治癒』には大量の魔力が必要だからだ。

正教会があるから、兵士も駐在している。正教会は貴族と蜜月関係にある。

だからここの領主も公衆衛生に資金をかけている。

そうでなければこんな辺鄙なところに街なんてできない。


「―――ってことだ! わかったか!?」

「はいぃ!!」


そう考えると、この街はある意味、学士様がいるから成立しているのであって、学士様が薬をつくらなくなったら、経済基盤が大きく変わってしまう。下手をしたら空中分解だ。



「で、学士様に随分適当な態度を働いたらしいな」

「そんな!!」

「どうにかしろ!! ちゃんと仕事できる奴を斡旋しろ!!」

「えぇ~!! わかりました……まず学士様のところに行って」

「やめろぉ!!! あの方は訪問を嫌うんだ!! 家を訪ねても許されていたのはチェスぐらいだ」

「あぅ、どどど、どうすれば?」

「だから、チェスの仕事ぶりを確認して、それを引き継げる奴を探すんだよ! 間違ってもD級以下にやらせるなよ? 金はかかってもいいからベテランを見繕うんだ!!」

「はいぃ!」


街の有名人がなぜあんな冴えない冒険者を気に掛けるのか気になった。

調べてみて彼の仕事ぶりに驚きましたね。


『冒険者なのに、冒険してない』


バカにしてないですよ?

ここ数年の彼の依頼達成率はほぼ100%。

ほぼなのは、依頼者の依頼内容が悪い場合だけだ。嘘ついてたり、ゴネたりね。


確実にこなせる依頼をずっと続けている。

簡単な依頼でも指名依頼が多い。


そして、かれこれ20年も働いている。ベテランだった。


「この人、能力判定がすごい低い。D級ライセンスは試験結果だけなら不合格ね。冒険者ギルドへの貢献でギリギリ合格になってる……」



人に歴史あり。

三年働いて、冒険者で大切なことは強さや顔だけではないと学びました。



「ふぇぇん、いないよぉ……薬草採取完璧にできそうなベテランさんなんて……」



諦めかけたその時チェスさんが戻ってきました。

幸い、チェスさんはすぐに復帰してくれて、薬草採取もすぐ達成してくれました。



「チェスさん、あなたの技術をもっと新人に広めていただくことできませんか?」



私はこの街の住人として、そして冒険者ギルドの受付として彼の仕事を受け継ぐ人材を育てる必要があるのだと――



チェスさんは「意味がわからん」という顔をしていました。



「馬鹿。んなもんとっくに昔からあいつはやってくれてるよ」

「え、ていうか、あの人天涯孤独なソロ冒険者ですよね?」

「ああ、だが、結構な数の新人を輩出してる。よく分からんやつだ……だが、見てみろ」


ギルド長が見せてくれたのはチェスさんが推薦した冒険者ライセンス試験合格者の記録。


「ふむふむ……え? この名前どっかで……あれ? この人も……彼って……ええ!!!」

「『全剣』のスロウス。『百計』のルツ。そして『剣姫』フィオナ。ここ最近、王都あたりで名を上げている高位冒険者たち。こいつらは皆、チェスが面倒を見ていた連中だ」


『全剣』のスロウスは、斬撃系のスキルであらゆるものを切り裂く達人。

『百計』のルツは、完璧な戦略で最小戦力で最大戦果をもたらす知将。


特に『剣姫』フィオナはまだ15歳でS級冒険者。

剣速が早すぎて無数の切り込みが一撃に見えるほどだという。


「もしかして、チェスさんってすごい人?」


核心を持ったのは初めてチェスさんの喧嘩を見た時だった。

絡んできた冒険者パーティを素手でのしてしまった。



「か、かっこいい!!」

「ばか、言ってねぇで止めろよ!」

「無理ですよ!!」


喧嘩が終わった後私はチェスさんに声を掛けた。



「チェスさん、結婚してください!!」

「あ?」

「ちげーよそうじゃねぇ!! 注意しろよ!!」



ブックマーク、評価を励みにして連載しております。ぜひよろしくお願いします。

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