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11.詰め

危険な夜が明け、村人たちが家から這い出てきた。


そこには五体の魔獣の死骸。



「す、すげぇ……冒険者になったとは言っとったが、一人でここまでできるもんなんか……」



これまで多くの冒険者を見てきた村人はその成果に驚きを隠せない。

村の中にまで入り込まれて被害が無かったのは初めてだ。


おまけに、おそらくはこれまでの襲撃を指揮していたと思われる異質な個体も討伐した。



「チェス、すまねぇ、疑って悪かった!!」



まさにケチのつけようのない大功績。

村人たちはチェスに頭が上がらなかった。


「は。能天気なてめぇらの中に思慮のある奴が一人いて良かったな」

「え?」


村人たちは知らなかった。

チェスが軟禁中に抜けだし、工作をしていたこと。

それを手引きしたのが村長だということを。


「村長……」

「チェスが夜にでも襲撃があるというもんでな……」



農村に食料が無いほど不作ならば山にも実りが少なくて当然。魔獣のエサも少ないため、山から下りてくる頻度が多くなる。

それは村長も危惧していたことだった。

加えてチェスは山の観測方法を熟知していた。


魔獣が来る前触れ。山間部にいる害獣が村に降りてくる。低地に住む鳥が山頂で旋回するなどの異常。



「おらも、そろそろな気がしてたで協力したんだ」



山守も異常に気付いていた。



「それにな、チェスの父親はE級止まりじゃった。D級として認められるには並々ならぬ努力が必要じゃ。半端者にはできん。少なくともこの村からD級冒険者が出たことは無い」


チェスの実力を目の当たりにした村人たちには反論の余地は無かった。



「でも一体どうやって……罠を仕掛ける時間なんて無かったはずだ」

「ああ。だから痺れ薬を蒔いた」



チェスは村長と家畜番に、家の周りと家畜小屋をぐると掘り返させた。鍬を一度入れるぐらい浅く。そこに鉄のくぎを埋めた。



「馬鹿どもにもわかりやすく説明してやろう。奴らは罠を警戒できるが、罠を識別できるわけじゃねぇ。掘り返された土と鉄のにおいに反応する」

「痺れ薬は?」

「家の中に入る手付かずの順路に垂らす。奴らは罠を警戒するあまり痺れ薬を鼻から大量に摂取するというわけだ」

「薬のにおいで気づかれるんじゃねぇのか?」



チェスはそこまで考えていなかった。

痺れ薬は調合できる。しかしそれが魔獣に効果があるかは検証したことがない。


前世の誰かなら説明できただろうが原理までは分からない。



「経験則だ」



実際チェスが使った痺れ薬は毒素を持つ花弁を複数かけ合わせた獣用のもの。

これらのにおいの判別は獣でも困難。

例え嗅ぎ分けができてもこれを警戒できるのは過去に引っかかった経験があってこそ。

その効果までにおいで判別はできない。

仮にできたとしても、その時には毒素を受容した後のことだ。



「だから言ったですよ。チェス君に初めから全部任せておけばよかったです~」

「面目ねぇ……」

「そんなこと言ったか、お前?」


村人たちはチェスに気後れした。

村は消えてなくなる寸前だった。



「でも、なんでや。ワシら、おめぇを疑ったのに」

「ああ? 馬鹿にするな。ここまで来て手ぶらで帰れるわけねぇだろうが」

「ふへ~。チェス君はお金儲けで依頼を受けたんじゃないんです~。村が心配だったですよ~」

「あぁ?」


チェスがワチをにらむ。


「ふへ~! だって、フテナ出た時二、三匹狩っても赤字だって……」



正教会から復帰してすぐ、放置されていた依頼を見つけた。

今までなら気にしなかったであろうその依頼書が、ずっと気がかりだった。



「ワチ~、てめぇは前の方が可愛げがあったぞ。元に戻してやろうか?」

「ふへ~虐待はだめですよ~!!」



二人のやり取りを村人たちは微笑ましく見ていた。

家族。

チェスが変わった理由に皆納得していた。



「やっぱ親は関係ねぇな。おめぇはあの親父から解放されて良かったな」



チェスはその言葉に以外そうな顔をした。

込み上げる喜び。

いや、安堵。


第三者から見て、父親とは違うと認められたことがチェスの心に巣くっていたもやもやを晴らした。



「……まぁ、なんだ……身内ともども、迷惑をかけたからな……悪かったな」


ワチが目を見開いた。

チェスが素直に謝る姿を初めて見た。

慌てるワチをよそに、わだかまりが解けたことを歓迎する村人たち。

ただ一人を除いて。


「悪いことをして謝るんは当たり前ぇだ。そいつと親父がやったことは変わらねぇ」

「ヤン、やめな」

「おめぇ助けられてそりゃねぇべ」

「チェスに親父の罪まで背負わせるんは八つ当たりだ」


ヤンはチェスに向き合った。


「けじめは必要や」

「……悪かったな。殴って」



ヤンは意外そうな顔をした。

昨日今日の話ではない。

25年以上前のこと。

二人は喧嘩になり、チェスがヤンを殴った。

子どもの頃やったことなど一々覚えてもいないのだろうと思っていた。


「うらぁあ!!」


ヤンはチェスの顔面を殴った。

悠々と避けられる素人のパンチをチェスは避けずに受けた。


「これでチャラにしてやる」

「はっ、てめぇは少しは鍛えやがれ。全然効かねぇぞ」



さすがにしっかり効いていた。


「ふへ~!! チェス君、鼻血です~!!」

「どっちも頑固やね」

「おい、ヤン! 威勢はええが、おめぇがもっとしっかりせんと」

「そや、チェスをぶっ飛ばせるぐらいになり!」

「うぇ!?」



焚きつけられ困るヤン。

何となく居住まいが悪いチェス。


村人たちとワチは笑顔だった。


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