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10.狩り


暗闇で音も無く襲撃するグレイウルフをチェスは瞬く間に2体屠った。



(相変わらず気味の悪い力だ)



いくらD級冒険者といえど、山から下りてきた魔獣の襲撃ポイントや正確な位置、数など分からない。


しかし、チェスにはそれが何となくわかった。

理屈は分からないが狩人と盗賊の技能。使えるものは何でも使う。

グレイウルフを出し抜いて、襲いに来る隙を狙い二体を順当に倒した。



(あと、三体か……)



「てめぇら家の中に入って黙ってろ!! 邪魔だ!!!」


叫ぶ村人たちを黙らせる。

大声を出し、自分の方へ引き寄せる。

刀にはグレイウルフの血がついている。手早く拭う。

グレイウルフの首を持ってかがり火の外へ。



(追って来い。この村の最大の脅威を排除しろ)



グレイウルフは仲間を殺された怒りで釣られ、まんまとチェスの方へと誘導された。

巨大な狼が一直線に駆ける。


「ちっ、二体か……」


かがり火の無い暗闇でチェスを挟み討つように二体のグレイウルフが飛び掛かる機会をうかがう。

チェスは決断した。

天授技能(スキル)を使うことを。



(おれの魔力では戦闘系スキルを使えても1回か2回が限度。なら選択肢は1つ)



チェスは即座にその難易度の高い選択をした。



グレイウルフが権能『威圧』を使った。

そのタイミングを見計らい『重力波』を使った。

チェスの背後で軽やかに動いていたグレイウルフの脚が地面に埋没し震えている。


闇魔法基礎スキル『重力波』重力を発生させる魔法スキル。

本来はこの『重力波』を巧みに操作し、様々な魔法へと発展させていくが、チェスにそんな魔力操作技術は無い。

一瞬グレイウルフの動きを鈍らせればそれで十分だった。


背後の方を『重力波』で止めている間に正面を斬る。

牙の一咬み、爪の一振りを受ければ致命傷。

巧みにかわし、執拗に首を狙う。チェスは振り下ろし以外は拙く、護りの剣術は知らない。必殺でなければ即ゲームオーバー。

だがその制限と覚悟が、技の完成度を上げた。



技の名は『一撃』



「三体目」



首が飛んだ。


振り下ろし、即座に上段に構える。


この非合理的な戦闘スタイルの唯一の利点はごく短い戦闘で完結するという点。

逃走を図り、背を見せたグレイウルフ。

この上段振り下ろしの『一撃』だけを使ってきたため、走りながらでも切っ先をブレることなく技を放つことができる。


『重力波』で動きの鈍いグレイウルフが逃走することはできなかった。


走りながら追いつき、首目掛けて刀を振り下ろした。


「四体目」



四体目の首を飛ばした。



天授技能(スキル)一つでここまで違うのか! おれは今、どれほど強い?)


「きゃあああ!!」



村の中央から悲鳴が聞こえた。



「ちっ、こっちは足止めか」




ソロ冒険者にとって厄介なのは敵がばらけること。そして護衛対象がいること。


複数の敵から複数の護衛対象を護ることは難しい。



それはソロ冒険者を20年やっているチェス本人がよく分かっている。

そもそも『一撃』が正面からのぶつかり合いに向いていない。

まず敵の隙を作ることが前提となる。


その点は抜かりなかった。




グレイウルフの残り一体は飢えていた。

得物を求めていた。


においで唯一の脅威が村の外れへと遠ざかったことを確認し、得物を狩ることにした。

脅威から村の対角線へと回り、人や家畜の気配が集まる建物へ。


グレイウルフは狡猾な魔獣だ。

人間との長きに渡る戦いの結果、悪知恵の働く個体が残った。

本能に従い、最短距離を進む。

ところが、その脚が止まる。



狡猾ゆえにどんなに飢えていても、警戒心は緩まない。



グレイウルフが脚を止めた理由。

それは掘り返された地面。その下に鉄が仕込まれていることまでにおいで判別した。



罠。



その可能性を考え、慎重に進む。



人が通った足跡をにおいで判別し、安全な道を探り着実に得物へと近づく。



ふと直感で辺りを警戒する。

あの脅威がどこにいったのか。



チェスはすでにその背後で刀を構えていた。

天授技能(スキル)『隠形』で気配を断ち、不意を打った。


「ちっ!」


そのグレイウルフは間一髪死角からの『一撃』を回避した。


(外した……『隠形』が効かなかった? 完璧じゃなかったのか? いや……においかもな……)



「勘のいいやつだ。群れのリーダー……ダークウルフか」



グレイウルフには違いないが、他の個体より一回り大きく毛並みは黒い。魔獣における進化は一個体で起こる場合がある。



即座に権能『威圧』を使う。


「うお?」


グレイウルフとは違い、チェスの身体の自由を奪うことに成功した。

手ごたえを得たことに満足したダークウルフは即座にその脳天にかぶりつこうとした。


チェスはすでに魔力が尽きていた。

万事急須。


その顎は的を外した。

チェスの頭を大きく外れてよろよろとふらついていた。


「ようやく効いたか」



ダークウルフが動きを止めた。

代わりにチェスが動きを取り戻した。



「所詮は獣だな。バーカ」



チェスはダークウルフの首を切り飛ばした。


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