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9.魔獣討伐


山へ向かおうとして荷物を納屋に置いたチェスを村人たちが取り囲んだ。



「余計なことをすんな」



結局チェスは、軟禁されることになった。



「馬鹿な奴らだ」



村人たちはチェスでは信用できないからと、街まで行き別の冒険者を連れて戻るという計画を建てた。



「そんな悠長なことをやってるときじぇねぇだろうに」

「どうしてみんなチェス君の言うとおりにしないですか?」

「馬鹿だからだよ」

「ふ~ワチが話してくるです~。チェス君はぶっきらぼうで言葉がとげとげしてるからきっと誤解されてるですよ。ワチがチェス君はとっても優しい好青年で評判だと説明してくるです~」

「うそじゃねぇか」



ワチが納屋から飛び出そうとするのを掴んで止めるチェス。



「ぐぎゃ」

「ちょろちょろすんな」

「えぇ~!」

「村の有様をみただろう。魔獣が襲撃して来ている。この村は今夜にでもまた襲われる」

「えっ!」


恐怖で顔が引きつり、身体を震わせるワチ。



「日が高いうちに山に入っておくべきだった。そうすれば罠を仕掛けようもあったが、もう遅い。備えも何もないこの村はお終いだ」

「でも、村の人たちは?」

「これがあいつらが選んだ道だ。村とともに滅びるしかねぇな」



呆気からんというチェス。


「……じゃあ、チェス君は何でここにいるんです?」

「……あぁ? 何でも何もねぇだろ。軟禁されてるんだからよ」

「ん~? チェス君なら逃げられるですよね?」

「……ふん」



チェスはワチの口をふさいだ。




夜。


見張りはぬぅと音も無く表れた巨大な狼に背後を取られていた。


その口が首にかみつく寸前まで見張りの男は何も気が付かなかった。


男が聞いたのは空気を薙ぐ音と、ボトリと何かが背後で落下した音。



「うわっ」



振り返ると、首を失った巨大な四肢が力なく倒れるところだった。

熱い血潮が顔に飛び散ってきた。


その横には刀を携えた男。


「あっ!」


かがり火で顔を確認する。

その男はチェスだった。


「なんでぇここにぃ?」


暗闇に狼の遠吠えが響く。


村人たちがあわただしく火を焚き、警戒する中、それらは現れた。



「くそっ、来たか!! やってやるよ! 村はおらたちが護る!!」



威勢よく面に出て村の外へと出る。

そこで青年は、巨大な狼ににらまれ、身体の動きを止めた。

恐怖で身体が硬直してしまった。



グレイウルフの権能『威圧』

恐怖心を抱く相手の動きを奪う魔法。


青年は槍を落とし、尻餅をついた。



「う、うわぁ!! 誰かぁ!!!」



若く体格に恵まれた青年。

彼には自信があった。


山でクマやイノシシを狩ったことがあるし、ゴブリンを撃退したこともあった。

自分は戦えると確信していた。

しかし、彼に欠落しているものがあった。



ヤン(34)

種族 只人ヒューマン

職業 村人(農民)

レベル 5/15

天授技能(スキル) 『体力回復』



レベルによるステータス補正と戦闘用スキル。

レベルは基礎能力に力が上乗せされる割合を示す。

仮に素の状態の力を100とすると、ヤンが限界まで引き出せる潜在能力は115。15パーセント増にできる。


だが只人(ヒューマン)の力が15パーセント増えたところで中型の魔獣には敵わない。


その差を補うには戦闘用の天授技能(スキル)が必須。

ヤンの天授技能(スキル)『体力回復』は魔力を消費し体力を回復するだけ。


他にも訓練に培った技能や日頃の鍛錬により基礎能力を上げるなど、能力を向上させる手段は様々だ。

しかし、ただの農民にはそれがない。


一般人では中型魔獣には絶対に敵わない。



迫るグレイウルフ。

硬直し、動けないヤン。

死を覚悟した。


その真横から黒い影が現れた。



「お、おめぇ……」


チェスだ。


ヤンへ権能を使ったタイミングで忍び寄り、刀を振るった。

グレイウルフは気が付き、威嚇するがチェスに権能が通用しない。

『威圧』は恐怖した相手の動きを止める。

チェスに恐怖は無い。

その一撃が当たればグレイウルフを殺せると知っているからだ。


グレイウルフの顔面が割れた。


刀を上段から振り下ろす一撃。


頭蓋ごと切裂いた。



これに天授技能(スキル)は一切使っていない。

鍛えた体と、この技だけを鍛錬することで得た達人並みの技能。


師から教わった唯一の技だけで、チェスはD級冒険者となった。



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