国王様
俺たちは、マーヤの案内でお城の最奥部にある部屋まで来ていた。道中、城内の兵士やメイドが恭しくマーヤに頭を下げる姿を何度も見ることになり、改めて彼女が王女であると言う事実を認識するのだった。
「ケイスケよ。それほど緊張せずとも良い。妾と結婚した後は、お主がこの国を収めることになるのじゃ。あやつらは既にお主の下僕も同然。こき使っても良いのじゃぞ」
「ちょっと泥棒猫ッ! ケーくんは私と結婚するのッ! あんたなんかと結婚させないわよ」
ああ、また始まっちゃった。この二人は顔を合わせると必ず喧嘩してるな。俺が半ば呆れながらもその様子を見ていると、唯香までもが参戦しだす。
「ボクもお兄ちゃんと結婚する〜」
「いやいや、お前は兄妹だから無理だってば」
「えー? 私が主役を演ったアニメでは、最終回に兄妹で結婚してたよ。それに、みんなが結婚できたら面白そうじゃん」
「それは、そういう世界だったんじゃねーの?」と、言ったところで、俺はふと疑問が湧き、ミユキと喧嘩をしているマーヤに尋ねる。
「マーヤ、この世界って、重婚とか出来たりするの?」
その問いかけに、みんなが一斉に静まる。マーヤは少し考え込む仕草をした後、こう答えた。
「ふむ、この国で重婚が禁止されていたという事実は無いはずじゃが、それは『男は子作りの際に殺されるもの』という枷があるからかもしれぬな。
父上に聞いてみねば分からぬが、重婚だけなら出来るのでは無いかのう……」
なるほど、子作りが出来ないとなると結婚とは呼べないかもしれないし、少し難しい話のようだ。
「ちょっと待ちなさいよ、泥ボ……齋藤真綾! 『男は子作りの際に殺されるもの』なら、どうして『父上に聞いてみる』ことが出来るの? あなたの言うことは、何処か矛盾してるわよ」
あっ! 言われてみればそうだ。確かに変な話だ……。俺と唯香が、ミユキの疑問に同調すると、マーヤが答える。
「それはじゃな、我が王家には凄腕の蘇生術師がおるのじゃ」
「「「蘇生術師……?」」」
俺たちは声を揃えてマーヤの言った単語を繰り返した。文字どおりに解釈すれば、人を生き返らせる職業が、この世界には存在しているということになる。
「まあ、その辺も含めて、父上に聞いてみれば良い。ちょうど陛下たちも到着されたようじゃ」
マーヤが指差す方向を見ると、五歳くらいの男の子を抱えた女性が、部屋へと入ってくるところだった。
「あの二人が、妾の両親――国王と王妃じゃ」
「はあぁ? あの子供……みたいな人が、マーヤのお父さん?」
「ああ、そうじゃ。妾は、父上が二十一歳の時に産まれておる。そして、今の父上は五歳。
不思議に思うかもしれぬが、あれが妾の実の父親じゃ」
マーヤがそう説明すると、王妃様が俺たちに挨拶をしてきた。
「いらっしゃい、はるばる異世界からようこそ。せっかくいらしたのだから、こちらの世界を存分に堪能していってくださいね」
そう言って王妃様が国王様を床に下ろすと、国王様も挨拶をした後、俺たちに話しかけてきた。
「お主らが、〝亀の世界〟から来た住人か。なるほど、見た目は我らとあまり変わらぬようだな」
ん? 〝亀の世界〟って何だ? そう疑問に思っていると、マーヤが国王様に言う。
「父上。妾はまだ、彼らに〝亀の世界〟の説明をしておりませぬ。どうか、そこからじっくりと、彼らに教えて差し上げて下さいませ」
「何? まだそんな段階であったか……それではワシからお主らに、世界の理を教えよう」
国王様はそう言うと、この世界のことを教えてくれた。国王様の話を要約すると、こんな感じだ――
イソップ寓話に『ウサギとカメ』というお話があるが、俺たちの世界では『亀が勝利』しているのに対し、こちらの世界では『兎が勝利』しているそうだ。
そして、昨日マーヤから聞かされた『兎龍王子の逆転箱』というお話は、『兎が龍空城へ連れて行ってくれる』話であるのに対し、俺たちの知っている『浦島太郎』は、『亀が龍宮城へ連父上に聞いてれて行ってくれる』話だ。
その偶然のような違いから、この世界では俺たちの世界を〝亀の世界〟と呼び、自分たちの世界を〝兎の世界〟と呼んでいるらしい。
こちらの世界の科学技術は、俺たちの世界よりもかなり進んでおり、その進歩の差は〝ウサギとカメほどの差〟らしい。
つまり、時空間移動出来る絆創膏や、俺たちの世界の言語が理解できるドリンクは、高度に発達した科学技術が生み出した賜物らしい。
また、マーヤから聞かされた『兎龍王子が開けた箱で価値観が逆転した』という説は、この国ではかなり根強いものらしい。
彼らは、『人類が衰退に向かっているのは、価値観が逆転しているせいではないか。だったら人類存続のために価値観を正しいものに戻そう』と考えており、マーヤが俺たちの世界にやって来た目的は、正しい価値観を持つ〝亀の世界の住人〟――つまり、俺たちに〝助けを求めるため〟だったそうだ。
俺は、こちらに来る前から疑問に思っていたことを、国王様に尋ねる。
「国王様、マーヤが持っている光線銃のようなものを世界中に使えば、あっという間に価値観なんて逆転するんじゃないですか?」
「ほう、なかなか鋭い質問だな。しかし残念ながらそれは無理な話だ。あの光線は麻薬のようなものでな、何度も浴びると神経をやられる。それ故、価値観を戻すには、二つの方法のどちらかを選ぶ必要が出て来るのだ」
ん? つまり価値観を戻す方法は、既に理論的には確立されているということかな?
「国王様、その二つの方法とは、いったい、どういうものでしょうか?」
俺が再び尋ねると、国王様はVサインをしてから中指を折り曲げて、人差し指だけを立てた状態にした。おそらく、『二つあるうちの一つ目を今から言うよ』ということを指を折って示したいようだ。
一つ目の方法は『〝タイムトラベル〟で過去に戻り、兎龍王子に箱を開けさせないようにする』というものだった。しかしこの方法は、実行者が現代に戻ってこれなくなる上、〝兎龍王子が箱を開けなかった世界〟という、この世界とは別の世界を新たに作り上げるだけになってしまうため、国が滅ぶ時の最終手段ということになるらしい。
つまり、二つあると言っておきながら、実質俺たちに出来ることは一つしかないのだ。国王様が、立てていた人差し指を折り曲げて、握りこぶしを作る。
「もう一つの方法は、『兎龍王子の箱を作った〝漢姫〟を討伐して、彼奴のかけた〝呪術〟の効果を消し去る』というものだ」
「ええっ? 漢姫の討伐? 兎龍王子の話って、もしかして実話? というか、そもそも、漢姫は生きている人物? それに呪術というのは……」
俺が新たに抱いた疑問に、国王様が答える。
「それはだな、我らのセ――」
「シィィィリィィィアァァァルゥゥゥーッブレイカァァァーッ!」唯香が、突然大声で叫んだ。
「――なっ、何事だっ?」
国王様は、突然言葉を遮られて狼狽える。周りにいる俺たちも、驚きすぎて声が出ないのを尻目に、唯香が澄ました顔で言う。
「もおっ! お兄ちゃんも王様も、だらだらと難しい話ばかりしすぎだよっ! そういうシリアルなシーンは三行くらいでチャチャッと終わらせてよね」
「なっ? でも、これ大事な話だから飛ばしたらダメなんだぞ」
「そんなの、読者は誰も読まないよ。まだ、ウンコとかパンツとか言ってた方がマシだよっ」
唯香はそういうと、魔法使いの姿に〝変身〟して、国王様に向かって杖を振った。
「わあああっ、国王様になんてことを! えーっと、国王様、大丈夫でしょうか?」
「ウンコ、パンツ」
ま、まさか……とは思うが――
「テヘッ、国王様に『ウンコ、パンツ』しか言えなくなる呪いをかけちゃいました」
唯香はそう言うと、舌をペロリと出してウインクをした。
「このバカーッ!」
俺は、唯香を怒鳴りつける。唯香が、何故か楽しそうに笑っている姿が印象的だった。
シリアル=シリアスの間違いのようですね




