魔法少女ユイカ
唯香が国王様に、『ウンコ、パンツ』としか言えない呪いをかけてしまったため、室内がざわめく。国王様のボディーガードたちが、唯香に向かって一斉に銃口を向けたかと思うと、唯香を完全に包囲する形で取り囲んだのだ。
このままでは、唯香は国家転覆罪の犯人となってしまう。俺は、銃口に包囲されている唯香に言った。
「ゆ、唯香っ! 早く〝呪い〟を解くんだッ!」
すると、包囲されている唯香の弱々しい声が聞こえてきた。
「こんなに沢山の人に囲まれてたら変身できないから、〝呪い〟なんて解けないよぉ〜。お兄ちゃん、助けて〜」
くうっ、仕方がない。俺は、一番近くにいたボディーガードに、おずおずと話しかけた。
「あのー、妹もああ言ってるので、〝呪い〟を解くために、少しばかり離れてやっては頂けないでしょうか?」
「何だ貴様は! さては貴様も、国家転覆を狙うテロリストだなッ! お前も入れっ!」
ボディーガードはそう言うと俺の腕を乱暴に掴む。俺はそのままボディーガードに高く持ち上げられると、唯香の所に投げ込まれてしまった。
「イテテ……。なんて乱暴なボディーガードだ」
俺はそう言いながら、体を起こそうと、床に手をつくと、柔らかい感触とともに「ひゃんっ」という声が聞こえてきた。
「えっ、これって……」
俺は自分の手の方を見る。俺の右手がなんと、妹の……んんっ? どうみても唯香の体には一切触れていないのだが……というか、そこに居るはずの唯香が……居ない?
「えっ、どういうことだ?」俺は、立ち上がって唯香を探そうと、再び両手を地面につく。
「ああんっ! お兄ちゃん、あんまりボクのおっぱい揉まないでよぉ……」
確かに唯香の声は聞こえるのだが、その姿はどこにも見当たらない。
「まさかお前、地面に変身してる?」
「そんなことしてないよぉ……。ただ、ちょっと〝男の人には見えなくなる魔法〟を掛けてるだけだよ」
「えっ? 何その特殊な……というか、魔法?」
「とりあえず、お兄ちゃんは今、ボクに覆いかぶさってる状態だから、早くそこをどいた方が良いと思うよ」
それは、そうなのだろうが、姿が見えないのでは対処しようがない。
「もう、しょうがないなあ。じゃあ、お兄ちゃんには姿が見えるようにするね。ちょっとだけ、目を瞑って、そのままじっとしてて」
そう聞こえたかと思うと、俺の両頬にふわっと温かい感触が触れる。俺が目を瞑って、両頬の温もりを感じていると、不意に息が詰まってしまい目を開けた。
目と目が合う。唯香が俺の頰を両手で支えて、唇を重ねていた。
「――なっ? お前……ッ。俺たち兄妹なんだぞ! こんなことしちゃダメなんだぞ!」
「あはっ! お兄ちゃん、ボクのこと、ちゃんと見えるようになったみたいだね。それと――」唯香は、いたずらっぽく笑う。「お兄ちゃん、まだ自分の戸籍見てないんだね〜。……あのね、ボクたち、実は血が繋がってないから、結婚出来るんだよ」
「えええっ?」俺は、妹から告げられる衝撃的な事実に、激しく動揺する。「嘘だっ! 俺だって自分の戸籍くらい見たことがある。その時、ちゃんと確認してるはずだ」
「お兄ちゃん、戸籍謄本と戸籍抄本は、違うんだよ。どっちがどっちかまではよく知らないけどさ……。だから、お兄ちゃんはきっと、ボクのことを書かれてないほうを見たんだよ」
「ちょっと! 唯香ちゃんっ! それ、本当なの?」
そう言って、包囲網の外からミユキが割り込んできた。どうやらボディーガードたちが唯香を見失っているようで、包囲網はかなり手薄になっていた。
「えへへ〜っ、さあ〜、どっちだろうね? ミーちゃんはどっちを信じる?」
「えっ? それは……っ。唯香ちゃんは私にとって〝妹みたいなもの〟だから、今まで通り〝ケーくんの妹〟のほうが嬉しい……かな?」
それは俺もそう思う。唯香が言っていることは嘘だと信じたい。そうでなければ、もう今までのような関係でいられる自信がないからだ。
「そんなことより、今のうちに国王様を元に戻すよ」と、唯香が言う。そういえば、包囲されてるんだった。
唯香は魔女っぽい姿に変身して、何やら呪文を唱え出す。これが、呪いを解く呪文なのだろうか。
「焔よ。刃となりて、彼の者に罹りし厄災を打ち砕け。唯香の名において命ずる……てゆーか、詠唱だる〜い。なんかもう、めんどくさいから、……えーっと、『そんな〝呪い〟は最初から存在しない』ッ!」
唯香が呪文なのかよくわからない詠唱を終えると、なんと、国王様の姿が突然、大人っぽくなった。
「おおっ? ワシにかかっておった呪いが完全に解けたようだぞ?」
大人っぽくなった王様は、無事に喋ることができるようになっていた。
「あーあ、本当はお兄ちゃんが王様にキスしたら、元に戻るようにしようかな〜と思ってたんだけどなぁ〜」
唯香がさらっととんでも無いことを言った。
「はははっ、もしそうなっていたら、お主は確実に死刑になっていたであろうな。稀代の魔女よ。じゃが、ひとまずは礼を言おう。呪いを解いてくれたこと、感謝するぞ」
国王様の言葉を、マーヤが補足する。
「陛下は、蘇生術の副作用で、『肉体の時間が逆行し続ける〝呪い〟』に罹っておったのじゃが、唯香殿の〝魔法?〟とやらで、無事に治ったようじゃ。本当に感謝する」
唯香が調子に乗って返す。
「えへへ〜っ。王様の呪いを解きやすくするために、わざと別の呪いを上書きしたんだよ〜」
絶対、嘘だ。唯香が嘘をつくときの癖――自分の髪を執拗に触る――が、これでもかというほどに出ている。まあでも、これくらいの嘘なら黙認しておいても問題ないだろう。
「あと、なんか解呪の効果が強すぎたみたいで、この世界にかかってた『全てが真逆になる』って言う設定も無くなっちゃったみたい……」
「「「ええええぇぇぇっ?」」」
この場にいる者全員が驚くなか、一人だけ冷静な唯香が言う。
「だって、さっきボクが『お兄ちゃんと王様がキス』って言ったら、王様は『死刑にする』って言ったよね。それってつまり『価値観がボクたちと同じに戻った』ってことでしょ?」
そういえば、確かに国王様はそう言った。その言った本人も一緒に驚いていたということは、誰も価値観が戻っていたことに気づかないままでいたということだろう。
唯香の一言で、自分たちの状況に気がついたらしい〝兎の世界の住人〟たちと、ちょうどタイミングよく光線銃の効果が切れた俺たちは、自分が下着姿でいることに気づくと一斉にそわそわする。
誰もが下着姿を恥じらうなか、唯香が魔法を使った。
「最初から詠唱省略ッ! 『みんなの衣服をババーンと出しちゃって』ッ!」
――だから、何なんだその詠唱? と思っているうちに、全員が服を着ていた。その衣服は〝中世ヨーロッパ風の衣装〟という感じだ。
「へえー、まるで異世界に来たみたいだな」
「ケーくん、ここ異世界だよ」
俺の素朴な感想をミユキが現実で返す。そういう意味で言ったんじゃないんだけどな……
「ケイスケよ、大丈夫かえ? 妾のおっぱいでも揉んで一旦落ち着くが良い」
「マーヤが、おかしなことを言いだすが、俺はいたって正常だ。
いくら金髪でもマーヤの残念おっぱいを揉むほど俺は落ちぶれてなんかいない。俺が好きなのはミユキのようなグラマラスなボディなのだから……。
ああ、今すぐミユキの胸に顔を埋めたい。ミユキっ! 好きだッ! 愛してる!
……けっ、ケーくん。こんなところではダメよ。みんなが見てる……
構うものか、なんなら皆んなに見せつけてやれば良いだろう
そう言うと俺は、ミユキの胸に顔を埋める。
ミユキの豊満な胸から漂う香りに、俺は――」
「はい、ストーップ! ……おい、ミユキ。いきなり変な小芝居を始めるなよ」
「……あーあ、これからがいいところだったのにぃ〜」
いや、あのまま放っておいたら、俺の『語り』がミユキの『騙り』に乗っ取られてエロ小説になっていたに違いない。
とりあえず、俺たちがいる〝兎の世界〟は、唯香の〝魔法?〟によって、中世ヨーロッパ風のファンタジーな世界に変貌を遂げたのだった。




