7魔獣の襲撃
「レオ様、ここの部屋をお使い下さい」
「あ、ああ。ジネット嬢、君は」
彼がそう言いかけた時にけたたましく警鐘が鳴り響いた。
「いかないと。レオ様はどうぞ避難してください。ケイティ、レオ様をお連れして」
「畏まりました」
「レオ・バルベ様、どうぞこちらに」
「ジネット嬢、君は避難しないのか?」
「私は魔獣を討伐せねばなりませんから」
私はそう言うと部屋の窓を開けて庭へと飛び出した。
「ジネット様、どうぞ」
庭の隅で待機していた従者の二人が大斧を運んでくきた。
「ありがとう。助かるわ。詳細を」
ジネットが大斧を片手で持ち、先ほどとは違い勇ましい姿をレオ・バルベは渋い顔で見ていたのをケイティは心配になった。
彼は本当にこの領地でやっていけるのだろうか、お嬢様を嫌いになるのではないか、と。
「南西方向に十体のオーガが出現しました。身体が大きく、城壁を壊し侵入しようと試みているようです。城壁はオーガの力であれば一時間保つかどうか、です」
「付近の住民は避難したの?」
「もちろんです。現在城壁の見張り小屋から火矢と投擲でオーガが近づかないように攻撃中です」
「分かった。私とマリリンで十分ね」
私は犬笛のような笛をポケットから取り出し、勢いよく吹く。
すると厩舎からマリリエットグリーンが鳴きながら私のところまで飛んできた。
「マリリン、オーガが十体出たみたい。南西方向だって」
「グォォォ」
マリリエットグリーンは返事をするように一声鳴いたので私は彼女に飛び乗り、そのままオーガがいる南西の見張り台までマリリエットグリーンと向かった。
「……あれね」
城壁を越えたとき、大きな石を持ったオーガが目の前に現れた。
三メートル近い大きさのオーガが城壁を壊そうとしている。今回のオーガは群れを率いるだけの知能はあるようだ。
城壁の見張り台から魔法や投擲でオーガを攻撃している。
「マリリン、いくわよ!」
「グォォォ」
私の掛け声でマリリンはオーガの背後を取るように旋回する。城壁から一番遠い場所にいたオーガの前で私は大斧を持ったまま跳び、落下の威力を合わせるようにオーガを一刀両断する。
―ドオオオオォン。
真っ二つになったオーガは血しぶきを上げながら地面に崩れ落ちていく。
「まずは一体完了ね」
マリリエットグリーンは群れの真ん中にいる別のオーガをヒョイと口に加え、振り回しながら急上昇し、勢いよく叩き落としている。
「さすがマリリン!私も負けていられないわ!」
斧を一文字に振り、前にいた背中からぶった斬る。身体の大きなオーガは動きもゆっくりなので大斧で倒すのが楽でいい。
これが小型の魔獣であれば剣の方が楽だが。
残りのオーガも流石に気づいたようで振り返り、私に向かって攻撃を始めた。
私は飛んでくる大きな石の塊を避けながら氷の槍を出し、オーガに投げつける。
「ギャァァァォォォ!!」
氷の槍はオーガの額を貫き、ドスンと後ろに倒れた。
よし、これでまた一体倒せたわ。
別のオーガは私を叩き潰そうと手を振げている。
「そんなに遅くて私が倒せるとでも?」
私はサッと避けると、オーガの手は地面を力強く叩いた。もちろん私がその隙を逃すはずはない。
屈んだオーガの肩に足を掛け、飛び上がり斧で叩き斬る。
―ドスン。
地面に倒れ込んだオーガは頭が割れ、血だまりができている。
他のオーガも城壁からの攻撃とマリリエットグリーンの攻撃で全て倒すことができた。
マリリンは全てのオーガを倒し終えるのを確認した後、私の前に降りてきた。
「マリリンありがとう。助かったわ」
私はマリリエットグリーンにお礼を言いながら撫でると、彼女は一声唸り、肉片を空に投げ、口から火を吐いて肉を焼いたあと咥えている。
どうやら食料を確保して厩舎に持ち帰るみたいね。
血の付いた斧を水魔法で綺麗に洗い流し、マリリエットグリーンと一緒に中庭へと戻る。
「マリリン、ゆっくり休んでね」
「グゥ」
マリリンはオーガを咥えたまま厩舎へと戻り、私は自分の部屋へ帰った。
いつ魔獣の襲撃があるか分からない。
どんな魔獣が来るのかも。そうして私達はそれが当たり前の生活なの。
でもレオ様にはその当たり前の生活が上手く伝わらなかったみたい。
翌日、私は朝食を摂りに食堂へ行くと、レオ様の姿があった。
「レオ様、おはようございます」
「……ジネット嬢、おはよう」
我が領の朝食は貴族の食事風景とは少し違い、軍隊の方式を取っている。つまりみんなと同じ場所で同じ食事を食べるの。
たまに私には多くフルーツや甘味が付いてくる時もあるけれどね。
私達は朝食を取り、席に着いた。
「ジネット嬢、今日はどういったことをするのだろうか?」
「そうですね。午前中はみんなと一緒に訓練をします。午後からは領地の見回りをしましょうか」
彼はどこかホッとしたような顔つきをしている。
まさか一日目から魔獣の群れの中に放り出すと思われていたのかしら。
いや、父だったらやりかねない。というか過去にそれをして何人かの婚約者候補はあっけなくこの地を去っていったわ。
ひと月の間に徐々に慣れてもらえればいいと思うの。
そういえば今日の午前は武器を使った訓練だけど、明日は魔法の訓練だったはずよね。教官はとても厳しかったはず。大丈夫かしら。
―そうして瞬く間にひと月が経っていた。
レオ様は日に日に窶れ、覇気がなくなっているように感じる。やはり彼にとって辛いものだったのかもしれない。




