6 レオ様の滞在
レオ様から連絡があるとすれば明日か明後日になるだろうし、それまでは少しゆっくりしたいわ。
「ケイティ、明日からの予定は何かあったっけ?」
「三日間は特に入っておりません。魔獣からの襲撃に備えておくくらいですね」
「分かったわ」
その後、レオ様の家から書類が届くまではのんびりと過ごし、執務や魔獣退治といつものように日々を過ごしていた。
数日で書類が来ると思っていたけれど、やはりあちらの家としても嫡男が辺境の地に向かうことは抵抗があったようだ。
バルベ伯爵から『ジネット嬢を嫁に貰い受けたい』と連絡があり、父は私が辺境伯を継ぐため、反対にバルベ伯爵子息が婿にくるように伝えたようだ。
バルベ伯爵もその意味を理解しているため、『もう一度息子と話し合う』と言っていたみたいね。
レオ様からの手紙では親をどう説得するか、ということで今は悩んでいるみたい。
……仕方がないわよね。
私のことを思ってくれただけでも十分だわ。
そう諦めかけた頃、とりあえず、体験するということで話が纏まったみたい。
陛下からの許可も降りてひと月ほど彼は辺境伯で暮らしてみることになったの。
「レオ様、お久しぶりです」
「ジネット嬢! 会いたかった」
青い顔をしてドラゴンから降りてきたレオ様は私の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「ドラゴンは大丈夫でしたか?」
私はいつも一人で乗るため小型のドラゴンで問題ないのだが、レオ様はドラゴンに一人で乗ったことがないため操縦者が必要となり、中型のドラゴンでやってきた。
中型のドラゴンは力強い分、スピードも早い。
魔法で風圧を軽減しているとはいえ、大変だったと思う。
「……ああ。何度か死にかけた気がするが、大丈夫だ」
「よかったです」
私は彼を父の執務室へ案内しながら彼にここの説明していく。
「レオ様、ここベルジエ領はどんな場所か知っていますか?」
「魔獣の襲撃から国を守るための領だと聞いている」
「……そうですね。私達がここで食い止めなければ魔獣が各領地まで移動し、田畑は食い荒らされ、王都は壊滅すると思います。
それを防いでいるのは私達ベルジエ領の者たちです。ここは同時に魔獣と共存できるように研究もおこなっているんですよ。
王都の魔獣騎士団で騎乗されている魔獣は全てここベルジエ領で育てられた魔獣なんです」
「研究施設があるのか」
「ええ、最近王都でも人気になりつつあるコカトリス料理。あれも我が領で毒を無害にする方法を発見し、食料にするまでに至ったんです」
「それは凄いな」
「執務室に行く途中ですからついでに厩舎も覗いていきますか?」
「ああ、頼む」
私は小さな違和感を覚えつつも、今までの令息とは違い、レオ様が断らなかったため嬉しくなって言葉早くに厩舎の案内をはじめた。
「こ、ここはドラゴンの部屋、か。こんなに大きいドラゴンを見たことがない」
レオ様は少し驚いている様子だったので私がそっと横から果実を投げてみる。
グァァ。
大きく口を開けたドラゴンの口に果実が放り込まれ、美味しそうに食べ始めた。
「ね? 可愛いでしょう?」
「……あ、ああ……。そうだ、な」
「この子は私と初めて主従契約をした子なんです」
「主従契約?」
「ええ。我が領にいる魔獣は外で生きてきた野生の魔獣とここの厩舎で生まれた魔獣と二種類あって、外で主従関係を結べた子だけがここに入ることができるんです。
この子は大人しいから主従関係を結ばなくても厩舎に入っていたけど、他の人を襲っちゃうかもしれなからって私からドラゴンにお願いして主従関係を結んで貰ったんですよね」
そう説明すると、ドラゴンはフンッと興味がなさそうに鼻息をかけてまた目を閉じてしまった。
「主従関係を結ばずに……」
「大丈夫です。今はマリリエットグリーンと結んでいますから」
「マリリエットグリーン……。ドラゴンの名前だろうか?」
「はい。可愛い名前ですよね」
「あ、ああ……」
「あっ、時間を取ってしまいましたね。執務室へ急ぎますか」
「ああ、そうだな」
私は説明を切り上げ、父のいる執務室へと向かった。
歩いている間、彼は何かを考えているようで会話をすることはなかった。
きっと彼は私と今後のことを考えてくれているのね。
「お父様、レオ・バルベ伯爵子息が到着されました」
「ああ。待っていた。君がレオ君か」
父がそう一言話すとレオ様は礼を執り、挨拶をする。
「レオ・バルベです。この度はベルジエ領にお呼びいただきありがとうございます。ベルジエ辺境伯にお会いできたことを嬉しく思います」
「ようこそ我がベルジエ領へ。私がここの領主、ジョセフ・ベルジエだ。よろしく。レオ君はひと月この領に滞在するだったな。慣れるまでが大変だと思うが、是非生き残って欲しい」
「生き残る……」
父の言葉にレオ様は顔色が悪くなった。私は彼を見てすかさずフォローする。
「もう、お父様。生き残るだなんて酷い言い方です。私とマリリンがそうさせませんからっ」
「そうだな! ジネットがいれば問題ないだろう」
マリリンことマリリエットグリーンは自分が住む厩舎が壊されるのを嫌っているせいか、魔獣襲撃にすぐさま対応してくれる。
討伐にも快く参加し、敵を焼いたり、食べたりしてくれるの。頼もしいパートナーよね。
そうして簡単に父と言葉を交わしたあと、彼がひと月滞在する部屋へと案内する。




