4ドラゴン便
王都で滞在している邸は郊外にあり、王宮や貴族が住んでいるタウンハウスと離れている。
何故かというと、庭に小型のドラゴンがいるためだ。
領では魔獣と常日頃戦っているが、仕事はそればかりではない。王宮には魔獣騎士団と呼ばれる騎士団が存在していて、そこで騎乗される魔獣のほとんどを我が領地で育てている。魔獣を育て、王宮に納品しているの。
納品前のドラゴンやヒポグリフなど様々な魔獣が庭にいるため、他の貴族の庭とはほど遠い様相なのは仕方がないわよね。
邸にいる侍女や従者たちはみな軍服を来て出迎えてくれている。
これも我が家特有かもしれない。
いつでも戦闘に出られるように、常日頃から動きやすい服装で帯剣している。
「「「おかえりなさいませ、ジネット様」」」
「ただいま」
玄関に入り、ドレスであることも無視して大股で歩き出すが誰も咎めることはない。
「ジネットお嬢様、すぐに発たれますか?」
「そうね。着替えたらすぐに発つわ。ケイティ、準備は出来ている?」
「もちろんですよ。お嬢様。まさか、令嬢姿のお嬢様が一目ぼれされる日がくるなんて思ってもいませんでした」
「……それを言わないで」
「顔が赤くなっていて可愛いですよ、お嬢様」
侍女のケイティは揶揄いながらも部屋に入り、すぐに私のドレスを脱がせていく。
ケイティ自身も侍女服を脱ぎ捨て下に着ていた軍服を整えている。
他の侍女たちはケイティと私の服を片づけていく。
二人とも帯剣し、そのまま中庭へと歩き出した。
私の専属の侍女であるケイティは平民だが、そこら辺の騎士よりも腕が立つ。
侍女としても優秀でいつも助かっているわ。
「お嬢様、領地で大斧を振るっているという情報、どこから漏れたのか調べますか?」
「いいわ。どうせお父様が王都で話したのでしょう」
「お父様は公爵様と仲が良いからね」
中庭に出ると数人の従者と小型のドラゴン二頭が既に準備をし、私を待ってくれていた。
「「グルルル」」
「ミシャ、ローロ。いい子ね」
「……騎乗準備はいつでも出来ております」
「ありがとう。では領地に戻るわ。貴方たちも休めるときはゆっくり休んでちょうだい」
「ありがとうございます」
従者たちは一斉に距離を取り、礼を執った。
私は姿勢を低くし、待機してくれているドラゴンを撫で、そのまま鞍に乗るとドラゴンはゆっくりと浮上していく。
ケイティの乗るドラゴンも私の後を追うように空に上っていく。
この飛び立つ感覚がドラゴンの騎乗で一番好きなのよね。
レオ様はドラゴンに乗れるようになるかしら。
私は領地に戻ってからのことも考えなければいけないけれど、先ほどの出来事を思い出しては嬉しさと恥ずかしさが湧き上がり、感情を抑えるのに必死になる。
レオ様は一目ぼれだと言ったわ。
私はずっと男の人に好かれないと思っていたもの。
突然のプロポーズに驚いたけれど、嬉しかった。
みんながいる前で。
だって、ずっとあれは本の中でしか起こらないものだと思っていたから。
もしかして他の令嬢はよくあることなの?
もし、彼が私と婚姻することが決まったら……。
どうしよう!?
旦那様って呼べばいいのかしら?
彼は騎士をしていると言っていたわ。
一緒に魔獣の討伐に行って、夫婦で協力しあって魔獣を倒すことになるのよね。
嬉しい。
もしかして夢が叶うのかもしれない。
でも、また彼らのように強い私を見て嫌いになるかもしれない。
今まで学生の頃に何人かの子息が私に声をかけてきたけれど、誰もが領地での私の姿を見た後、存在を消すかのように去っていった。
……もし、今回も同様に私の姿に幻滅したらどうしよう。
考えただけでも涙が出てきてしまう。
せっかく私を好きになってくれたんだもの。
きっと大丈夫。
彼を信じるしかない。
私は一人百面相をしながら領地へ戻っていった。
「「「ジネットお嬢様! おかえりなさい」」」
領民は私の姿を捉えると手を振り、声をかけてくれる。
いつものように私は中庭に降り立ち、邸へと戻っていく。ベルジエ領は東の辺境地で森に囲まれている。
邸は王都とは違い、石造りの強固な建物で高い塀があり、魔獣の侵入をこれまで一度たりとも許したことはない。
「ジネットお嬢様、おかえりなさいませ。久々の王都はいかがでしたか?」
「ポートただいま。王都はあまり変わっていなかったわ。お父様は執務室にいるかしら?」
「旦那様は現在執務の最中でございます」
「わかったわ」
白髪に髭を蓄えた老紳士のような風貌をした執事のポートはにこやかに私の後をついて歩く。
―コンコンコン。
私はノックし、父の執務室へと入った。
「お父様、ジネット、ただいま戻りました」
「ジネットお帰り。久しぶりの王都はどうだったか?」
赤髪で細身の父は書類を持つ手を止めて笑顔で聞いてきた。いつも森では悪鬼羅刹かと思わせる風貌になっているが、こうして改めてみると、父も中々に眉目秀麗なのね。
私はレオ様のこともあり、初めて父の美醜に目がいった。
「特に変わった様子はありませんでした。マリーズ様の婚約者候補の方も良さそうでしたし……」
その後の話をしようとして口ごもってしまった。
父になんて言えばいいのだろう。
「ジネットどうした? 何か困ったことでもあったのか?」
「……いえ、少し問題が起こったといえば、起こりました」
私がそう言うと、父の顔は一瞬にして魔獣を屠る時の顔になった。
「何が起こった?」




