15 オルガ・サラフィス
「ようこそおいでくださいました。陛下から話が通っております。どうぞこちらへ」
王宮のホールで王宮の従者に案内され、私は中庭のガゼボへと向かう。
「ジネット・ベルジエ辺境伯令嬢、今しばらくお待ちください」
そう言って従者はガゼボへと案内し、私は用意されていた椅子に座って待つことにした。
今の季節、少し肌寒い。外でお茶を飲むのなら一枚羽織るのがちょうどいいくらいだ。
私は薄手のケープを羽織っていたが、心もとない気がする。
一人の従者は熱いお茶を淹れてくれる。
「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとう。いただくわ」
そう言って私は湯気を感じながらお茶を口にしていると、オルガ副官が早足でこちらへ来るのが見えた。長身でグレーの髪は一つに纏められていて遠くからでも素敵な男性だとわかる。
彼の様子からしても王女の警備を一時的に外れてきたのだろう。
彼は私の元へきて礼を執った。
「待たせてすまない、ジネット・ベルジエ辺境伯令嬢。私の名はオルガ・ミラフィスだ。よろしく」
「はじめまして、オルガ・ミラフィス公爵子息様。私、ジネット・ベルジエと言います。この度、婚約のための顔合わせにお越しいただいてありがとうございます」
彼は私の向かいに座った。
「ミラフィス公爵子息様、お仕事中に呼び出し、このような場を設けさせてもらい申し訳ありませんでした」
「いや、こちらの方こそベルジエ領からわざわざ来ていただいてすまない」
「あの、サラフィス公爵子息様、色々とお伺いしてもよろしいですか?」
「ああ、もちろん構わない。その前にどうか、私のことをオルガと呼んでほしい」
「オルガ様、私のことはジネットとお呼びください」
「わかった」
私がそう言うと、彼は少し緊張が解けたようでフッと笑みを浮かべた。
「ジネット嬢、少し聞いてもいいだろうか」
「はい」
「先日、新しい婚約者と共に王宮の舞踏会に出席していたと聞いたのだが、彼との婚約はどうなったのだろうか」
私はお茶に口をつけていたけれど、フッと笑ってお茶を零してしまいそうになった。
「オルガ様、何も心配いりません。彼との婚約は王家の事情によるものでしたから……。既に婚約は解消されているはずです。オルガ様、反対にお聞きしますが、我が家は辺境伯という立場上、魔獣との戦いが避けられません。そんな私との婚約は嫌ではありませんか?」
私はレオ様のことも踏まえ、先に聞いてみた。
「俺は婚約の打診があったこと、嬉しく思っているんだ。俺は君と婚約したいと思っている。俺こそ問題ばかり抱えている身だ。君のことを考えると、迷う気持ちもある。本当に俺でいいのか」
私はオルガ様の言葉にトクリと心が跳ねた。
婚約を嬉しく思ってくれる人がいるなんて。
でも、レオ様のように女性が武器を持つことに忌避感があるかもしれない。不安を感じながら話を聞く。
「私は自ら魔獣の襲撃に武器を取る女でも、ですか?」
「ああ。俺はずっと公爵家から望まれてこなかった。俺には敵が多い。俺が近くにいれば危険な目に合ってしまう。本当にそれでもいいのだろうか」
オルガ様は公爵夫人や息子たちに疎まれてきたのだろう。
彼の仕草や言葉を見て感じる。彼は嘘をつくような人でも、婚約者には誠実でありたいと思っていそうだ。彼が真摯に向き合おうとしてくれるのはきっと公爵や愛妾だった母の愛情をしっかりと受けてきたのだと思う。
「私は何も問題ありません。私は強いですから。自分の身に降りかかる危険を振り払える力を持っていますし、オルガ様のことも守ってみせます」
私が笑顔で話すと、オルガ様は少し緊張が解けたのかフッと笑みが零れた。
「頼もしいな。こうしてジネット嬢と話をして、君のことをもっと知りたいと思う。これからジネット嬢に手紙を書いてもいいだろうか」
「ありがとうございます。私もオルガ様とお話ができてとても嬉しいです。私も、オルガ様に手紙を書きます」
フッと零した笑みに私は彼のことをもっと知りたいと思った。
今まで自分はここまで男性に積極的だっただろうか。ふわりと舞い上がりそうな心をどうにか鎮めようと視線を泳がすがオルガ様と視線がぶつかり、なんだか気恥ずかしくなる。
「っ。ジネット嬢、寒かっただろうか。自分のことに必死で気遣いが足りず、すまない」
オルガ様はそういうと席を立ち、自分の着ていた騎士服をそっと私に掛けてくれる。彼の温もりが私の冷えた肌を包み込み、優しさが伝わってくる。
「あ、ありがとうございます。オルガ様は寒くないですか?」
「俺は常に鍛えているからこれくらいの寒さなら問題ない。ジネット嬢――」




