13 王宮の一室で(父視点)
「さて、陛下。少々、お聞きしたいことがあるのですが」
「う、うむ」
マルフィアの言葉に陛下は少し居心地が悪そうにブランデーを揺らしながら飲んでいる。
「我が家にあんな屑を押し付けようとした理由はミラ嬢のせいですわね?」
妻のマルフィアが扇で口を隠しながら早速切りこんだ。陛下の仕草は変わらないように見えるが、目が泳いでいた。
「なんのことだ? 私は知らない」
私もひと月の間預かって彼をみていた感想を口にする。
「彼、レオ・バルベ伯爵子息は残念ながら我が家ではすぐに命を落とすでしょうな」
「……そんなにか?」
「ええ、残念ながら。貴族のたしなみ程度の実力でしかない。娘が彼を気に入っていたから多めにみていたが、さすがに娘も見限ったようだ」
私がそう口にすると、さすがの陛下も髭を触り、困ったようなフリをしている。じじいめ。
「陛下の愛娘であるミラ嬢は嫁ぐことができるのかしら。勉強は苦手だし、貴族になったばかりで教養もない。今から同年代で婚約者がいない人を探すのは大変でしょうね。彼以外の貴族に嫁ぐことが出来るのかしら」
マルフィアは陛下に遠慮なく話をしている。ミラ嬢の情報を掴まれている陛下にとって分が悪い話だろう。
陛下もレオ・バルベ伯爵子息の能力では将来に不安が残ると思ったからこそ彼をけしかけたのだろう。領地を治める方はまだいいが、戦闘については生き抜くことはできないだろう。
彼が何かの能力を持っていれば違っていたのだろうが。さすがにこちらとしても娘を虚仮にされて黙ってはいない。
「ま、愛娘ではない。あれは弟のジョールの娘だ」
「ああ、そうでしたね。手引きしていたクレマンティーヌ夫人は亡くなっていますからね」
陛下は無意識にブランデーグラスを回す手が早くなっている。平常心を保とうとしているようだが、バレバレだ。
揺さぶるのはこれくらいにしておくか。
「こちらとしても屑を押し付けられても迷惑だ。屑のせいで魔獣が溢れかえり、王都に魔獣が向かっても致し方ないですからなあ」
「……分かった。婚約解消を認めよう。で、望みは?」
「娘の婿候補は残念ながらまた振り出しに、と思っていたんですが、つい先ほど良い話を耳にしましてな。オルガ・ミラフィスという人物は実力もあり、実直という話だ。
セレスティナ王女が彼に執着し、放さないため、彼には婚約者もできない。王女が彼に降嫁しようにも彼には爵位がない。
そろそろセレスティナ王女の行動を改めさせないと、タウゼント侯爵から婚約破棄されるでしょうな。侯爵家からの動きも捉えております。そうなればセレスティナ王女は行き遅れになりますな」
「オルガ、か。私もセレスティナには甘いが、こればかりは、な。フィリクス・タウゼント侯爵子息がいるにも拘わらず、セレスティナは気に入らないのか、一向に会おうともせん。
オルガを選んだとしても爵位と領地を持たせても所詮は騎士だ。我儘なセレスティナでは領地を繁栄させることもできん。優秀な執事を付けたところで現状維持というところだろう」
「あら、相思相愛なら例え貧しくとも二人でなんとかするのではないでしょうか?」
マルフィアは反応をみるように言葉を口にする。
「いや、好いておるのはセレスティナだけだ。オルガはなんとも思っておらんだろうな。あれは忠実な騎士だ」
「では陛下、オルガ副官を我が家で貰い受けてもよろしいでしょうか?」
「儂としては許可するが、セレスティナが手放さぬだろう」
「なるほど。状況は理解しました。ジネットに話★をしておきます」
「……うむ」
「それはそうと、こちらが陛下の望まれていた品物です。あと、貴族の動向もここに」
私が頷くと、後ろで控えていた従者は小瓶と書類を陛下の前に持ってきた。
小瓶の中身は我が領に住むドラゴンから採れるごくわずかな涙を集めたものだ。効果は、まあ、あれだが、陛下はこれが一番なのだとか。
書類を読み思案している。そしてその場で書類を燃やしてしまう。
「ふむ。さすが侯爵だとしか言いようがないな」
「最近はジネット自身の能力も成長とともに飛躍的に伸びており、私やマルフィアを超える日もそう遠くありません」
「将来が楽しみだ。辺境伯なのが嬉しくもあり、悲しくもある、な」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
陛下はフッと笑みを浮かべ、ブランデーを飲み干した。




